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学長 伊賀 健一
本日、ご来賓ならびに本学役職員、部局長のご列席のもと、平成20年度学部および大学院入学式を挙行できますことは、本学全構成員の大きな慶びとするところであります。
私、伊賀健一は、昨年10月24日に学長に就任いたしました。従って、初めての入学式です。学長就任にあたり、「最高の理工系大学を目指そう」、「東工大の出番」だと大学の皆さんに訴えました。
学部および大学院に入学された皆さん!入学おめでとう。本日、学部1,147名、大学院修士課程1,513名(専門職学位課程33名を含む)、大学院博士後期課程330名、合計2,990名が東京工業大学に入学いたしました。海外からの留学生の皆さんは214名であります。東京工業大学は諸君の入学を心から歓迎するとともに、これまで学業を支えてこられましたご家族の皆様に心から敬意を表したく存じます。
学部入学者の皆さん!あなた方は入学試験の難関を突破し、東京工業大学への入学を果たしました。これまでの目標を達成した喜びに溢れていることと思います。しかし、これは一つのスタートラインであり、ほっとし過ぎることなく新たな気持ちで東工大の生活を始めて欲しいと思います。
大学院に進学あるいは入学された皆さん、これまで学部で学び経験してきたことを活かし、さらに高度の学問、技術、それに幅広い知識と適用性の獲得を目指し意気に燃えておられることと思います。東工大は自由な雰囲気と、考える教育を目指しています。自らの意志で意欲的に学び、自らを創り出す大学院生活を送るよう願っています。

東京工業大学(東工大、Tokyo Institute of Tech-nology)は、1881年設置の東京職工学校、蔵前に位置した東京高等工業学校を経て1929年に大学に昇格しました。2011年に創立 130周年を迎える我が国最大の理工系大学です。常に時代のフロントを切り拓き、頼りになる理工系大学の役割を果たしてきました。2004年4月の国立大学法人化を契機に、「流石は東工大」、というイメージがいっそう強くなってきました。つまり、密度の高い専門教育とユニークな卓越研究は東工大の存在を内外から評価されるところとなっています。東工大の英語名には、University ではなく Institute を用いています。一般には大学、研究機関を意味しますが、この英語には社会のもとになっている仕組みという意味があるそうです。農業文化で言うならば、土壌というのでしょうか。根本から耕して育てるものつくり、そこに東工大の文化があるように思います。
東工大は、理学、工学、生命理工学の3学部、理工学、生命理工学、総合理工学、情報理工学、社会理工学、イノベーションマネジメントの6つの大学院研究科、資源化学、精密工学、応用セラミックス、原子炉工学の4附置研究所、そして数多くの研究教育施設・センターにより、社会、産業界の要請に応えてきました。本学が誇る多彩な教授・准教授・助教の1200人にのぼる教員群と、多くの研究員スタッフが先導的な役割を果たしています。
これから激変する産業、社会構造に対応すべく、先端科学技術、融合領域、新規領域などに意欲的に取り組み、多様性のあるそれぞれの分野で国際的に活躍しています。
伝統と将来を考えるとき、学則によりますと、東工大の理念は次のように言えると思います。「東京工業大学は、理工学分野における研究者、教育者、産業における技術者、経営者として指導的役割を果たすことのできる善良・公正なる世界に通用する人材を育成することを目標としています。その目標のもと、これに必要な専門的知識、一般的教養および倫理感を教授するとともに、発見・理解の学術、創造の学術、社会安寧のための学術に関する理工系分野を中心に基礎から実際まであまねく研究し、その深奥をきわめて科学と技術の水準を高め、もってその伝承と文化の進展に寄与して我が国および世界の平和と発展に貢献することを目的および使命といたします」。また、教育ポリシーとしては「しっかりとした基礎学力を身に付け、人々から信頼される創造性豊かな理工系人材を育成します」としています。研究ポリシーとしては、「自由意志に基づく真理探究に関する活動を尊び、高い倫理性と公正さを基本として、基礎的・基盤的・長期的な観点に基づく多様で独創的な研究成果を創出し、それを世界に提供することにより、人類社会への貢献を目的とする」と定めました。
本学の創造性豊かな教育に伴って、ノーベル賞受賞者の白川英樹博士(1961年理工学部卒、1966年博士後期課程修了)をはじめ、数多くの優れた人材を世に送り出してきました。その実績をもとに、確かな基礎力を修得した「創造型人間」の育成を目指しています。“ものつくり教育研究支援センター”と密接に連携し、実践の場で“ものつくり”に自主的・主体的に取組み、確かな基礎学力と深い専門性の修得へと、訓練するという独自のプログラムもあります。
さて、質の高い社会、安心して住める地域、平和な世界、これらは万民の願いです。これまで、技術によって食料増産が可能になり、工業によって身の回りが大変便利になりました。グローバル化と産業の構造が大きく変わりつつある中で、やっと技術には相応の対価を払おうという反省が出始めました。大量生産品でなく、質(Quality)と安全性の重要性を再認識しようということも国民の皆さんが考え始めました。ふたたび技術、科学を人々のために使う、人々のために科学、技術の研究をし、資質の高い卒業生を世に送り出そうという世の中が来そうです。我らが東工大の出番が再びやってきました。世界の至るところに繰り広げられる多くの問題を直視し、国の利益になることは第一としても、国民、そして世界の人々のための科学技術を考える大学でなくてはならないと思います。最高の理工系大学をという由縁がここにあります。急激に変わる世界に対応できるためには、単なる科学、技術だけではなく、それらを統合し役立てる適応能力が問われます。東工大の目標としては、「発明・発見、ものつくり、それに加えて統合力」、と表現してはどうでしょう。
また、東工大をますます発展させるために、大学力を明確にしていき、その改善を図ろうと訴えました。大学力とは、教育力、研究力、学生力、経営力、組織力、国際発信力、社会・産業貢献力、同窓力、文化・スポーツ力─これを合成したものだと考えています。諸君に期待したいのは、学生力、教育力、文化・スポーツ力、などです。バランスの良い東工大生を育てるには、そして良き友人を大学時代に育むには文化・スポーツ力が大事です。これまでにも民芸陶器の河井寛次郎・浜田庄二・島岡達三(縄文象嵌:2007年暮に他界)、型絵染の芹沢介など芸術分野でも名を馳せた人々を輩出しています。2007年には、鳥人間コンテストで優勝、混声合唱団コールクライネスは全日本合唱コンクール全国大会で10年連続金賞という快挙を成し遂げました。サイクリング部も第2回アジアインドアゲームズ・サイクルサッカー部門で優勝しました。東工大が始めたロボコンも18回を数え、海外での開催に参加し、常にこの分野をリードしています。本学に設置されている日本一高速のスーパーコンピュータ「TSUBAME」を使用したスーパーコンピュータのコンテストも好評です。

東工大は研究大学として生きていくべきですが、新しい息吹を学生に伝え、社会の人々から期待される研究を行わねばなりません。専門性だけでなく、広い視野と統合する能力が大事です。昨年、「世界文明センター」を作り、文学、美術、音楽などが学べるコースを開講し、学部、大学院の希望者が受講できるようにしました。私も学生の時に、先ほど演奏しました東工大のオーケストラでコントラバスを弾いていました。大学歌が制定されたのは1957年ですが、作曲家諸井三郎のオーケストラスコアが手に入ったのは私が学部の2年になる1960年でした。パート譜を手書きで作り、初めて大学歌がオーケストラで演奏されたのでした。詩人三好達治による歌詞はやや難解ですが、これには現代訳がございます。例えば、1番の歌詞で出てくる「長江」とは、東工大の前身である東京高等工業学校のあった蔵前を流れる隅田川を連想させます。また、4番の歌詞で出てくる「七彩のものの文(あや)すべ」とは多くの彩りを持つ学術のことです。そして、いくつもの岡を越えてそれを目指そうと詠んでいます。これは大岡山をも暗に意味します。インターネットで検索すると、楽譜とともに見ることが可能です。「東京工業大学歌」で引くとすぐに見つかります。この訳者は図書館長の高橋幸雄教授で、合唱を受け持ってくれたシュヴァルベンコールの顧問でもあります。大学歌の意味も音楽も格調が高く、すぐには馴染めないかもしれませんが、学問も同じことで、格調の高いものは努力しないと自分のものにはなりません。是非皆さんも卒業までには歌えるようになって欲しいと思います。
また、多様性にも配慮しています。四大学連合(東工大、一橋、東京医科歯科、東京外国語)による単位互換、同様のことを慶應、早稲田両私立大学とも行います。COE(Center of Excellence)などによる外国の大学との交流、中国清華大学との双方学位授与など、積極的に進め、大学院生諸君の活動範囲を広げています。
さらに、大学として非常に重要なのが同窓力です。これまで卒業生を約90,000人送り出し、産業分野の重要な役割を担ってきました。多方面で活躍する同窓生は大学の大きな支えです。同窓会である蔵前工業会と東工大が共同で大岡山に建設する、Tokyo Tech Front(TTF)の建物も着工の運びとなりました。これらを起点として“東工大130周年事業”を、協力しながら有意義に展開したいと念願しています。
最後に次のことを強調したいと思います。先ほど大学の理念のところで、善良・公正なる世界に通用する人材を育成すること、専門的知識、一般的教養および倫理観をと話しました。また、東京工業大学の大学歌は高い学術を極めることを教えています。自由な雰囲気の東京工業大学でのびのびと、そして他人のことを思いやることのできる高潔なる人物として成長して欲しいと願っています。
諸君、東工大での生活を大いにエンジョイしてください。以上をもちまして、新入生を迎える言葉といたします。
(今年度の入学式は、学部と大学院に分けて挙行しました。本文はそれぞれで述べた訓辞をまとめたものです。)