トップ > 大学案内 > 学長からのメッセージ > 平成21年4月入学式
![]()
学長 伊賀 健一
本日、ご来賓ならびに本学役職員・部局長のご列席のもと、平成21年度学部および大学院入学式を挙行できますことは、本学全構成員の大きな慶びとするところであります。
まず、学部および大学院に入学された皆さんに「入学おめでとう」と申し上げます。本日、学部1,122名、大学院修士課程1,572名(専門職学位課程30名を含む)、大学院博士課程290名、合計2,984名の諸君が入学いたしました。東工大は諸君の入学を心から歓迎するとともに、これまで学業を支えてこられましたご家族の皆様に心から敬意を表したく存じます。
学部入学者の皆さんは入学試験の難関を突破し、東工大への入学を果たしました。大学院に進学あるいは入学された皆さんは、学部を終え、あるいは修士課程を修了して東工大大学院への入学を果たしました。これまでの目標を達成した喜びに溢れていることと思います。しかし、これは一つのスタートラインであり、ほっとし過ぎることなく新たな気持ちで東工大の生活を始めてほしいと思います。松本 元さんという私と同世代の脳科学者がおられました。残念ながら先年亡くなりましたが。同じ脳科学者の茂木健一郎さんの先輩にあたる人です。ちなみに茂木さんは東工大の連携教授でもあり、研究室も持っています。さて、松本さんの脳の働きについて次のような研究があります1)。つまり、人間は目標が達成されるか、達成間近になると脳の働きが極端に落ちるというのです。諸君は今、学部あるいは大学院に入学するという目的を達しました。人によっては、脳の働きが低下しているかもしれません。これを克服するには、素直にそれを受け入れ、普段通りに生活や訓練を続け、より高い目標を設定することだといいます。どうもやる気が起きないなあと思う人が諸君の中にいましたら、是非そうしてみて下さい。
東京工業大学(東工大、Tokyo Institute of Technology)は、1881年設置の東京職工学校、蔵前に位置した東京高等工業学校を経て1929年に大学に昇格しました。2011年に創立130周年を迎える我が国最大の理工系大学です。常に時代のフロントを切り拓き、頼りになる理工系大学の役割を果たし、密度の高い専門教育とユニークな卓越研究によって東工大の存在が内外から評価されるところとなっています。
本学には、理学、工学、生命理工学の3つの学部があり、さらに専門の学科に分かれています。7つの類によって学部に入学した諸君は一般的な基礎課程を経て、専門の学科に進みます。さらに大学院として、 6つの大学院研究科があります。今まで、約80パーセントの学部卒業者の諸君が大学院に進学しています。
伝統と将来を考えるとき、東工大の理念は次のように言えると思います。少し固苦しくなりますが、学則を元にした案文を以下のように作りました。
「科学と技術のつどう場で、至高の価値を追い求め、我が人類の文明を、理想の高みへ導かん。世界あまたの大学の、頼れる規範と仰がるべし。我ら東京工業大学、ここにあり。」
また、宣言の一部として、
「一、東京工業大学は歩みます、この門をくぐる全ての人びととともに。学ぶ者、教える者、司る者、働く者、訪れる者の皆が手を携え、創立より現在を経て未来へと、ひたすらに歩み続けます。
二、東京工業大学は広げます、その翼を地域へ、日本へ、世界へと。あまたの国・地域の異なる文化の人びとへ、その活動の羽ばたきを届けます。」

本学の創造性豊かな教育に伴って、ノーベル賞受賞者の白川英樹博士をはじめ、数多くの優れた人材を世に送り出してきた実績をもとに、確かな基礎力を修得した「創造型人間」の育成を目指しています。「ものつくり教育研究支援センター」と密接に連携し、実践の場で「ものつくり」に自主的・主体的に取組み、確かな基礎学力と深い専門性の修得へと、訓練するという独自のプログラムもあります。
一方、諸君に期待したいのは、文化・スポーツなどです。バランスの良い東工大生として、そして良き友人を大学時代に育むには文化・スポーツの素養が大事です。2007年には鳥人間コンテストで優勝、2008年には混声合唱団コールクライネスが11年連続金賞という快挙を成し遂げました。ヨット部も優勝しました。東工大が始めたロボコンも19回を数え、昨年はブラジルでの開催に参加し、常にリードしています。スーパーコンピュータのコンテストも好評です。また、これまでにも東工大は、芸術分野でも名を馳せた人々を多く輩出しています。民芸陶器の河井寛治郎・浜田昭二・島岡達三(縄文象嵌。2007年暮に他界)、型絵染の芹沢銈介などです2)。芸術に触れる機会として、世界文明センターで、音楽、美術、文学などの講義が開かれています。
私も学生の時に、先ほど演奏しました東工大のオーケストラでコントラバスを弾いていました。学歌が制定されたのは1957年ですが、作曲者諸井三郎のオーケストラスコアが手に入ったのは1960年、私が学部の2年になるときでした。詩人三好達治による歌詞はやや難しいですが、例えば、2番の歌詞で出てくる「手力は我らがもろ腕に…」とあるのは“すごい力が我々の両腕にある、自信を持ちなさい”と解釈できます。歌詞も音楽も格調が高く難解ですが、学問も同じことで、格調の高いものは努力しないと自分のものにはなりません。是非皆さんも卒業までには歌えるようになって欲しいと思います。
今年も学生諸君が自発的にチームを作ってシンポジウムを企画したり、海外研修に行ったりする活動がいくつかありました。「万能人」というタイトルのシンポジウムには私も参加いたしました。学生諸君が東京藝術大学長の宮田亮平先生に講演を依頼に行き、私と本学の高岸 輝 准教授が関わって学生諸君との討論の場が作られました。「東工大と藝大を漢字一文字で表すと?」という質問が各パネリストに出されました。始めに、一緒に参加した藝大出身でもある髙岸 輝 准教授が「匠」の字を書いて、両大学がいわゆる親方気質の人材育成を目指していることを表現し、続いて宮田学長が、持参の筆をとって中国の旧字体で「旅」の字を書かれました。その字体は、剣に翻る旗の下に共通の志を有する人々が集い、目標に向けて突き進んでゆく様を表すのだといいます。東工大と藝大が今後手をとり合っていこうと宮田学長が願いを込めたものです。この一字に対して、講演でコントラバスも弾いた私が「響」の字をもってレーザーと音楽の響きと共感の意を示し、会場は大いに盛り上がり、学生諸君の自主的活動に花を添えたのでした。

さて、大学として重要なのが、同窓力です。これまで卒業生を約9万人送り出し、産業分野の重要な役割を担ってきました。多方面で活躍する同窓生は大学の大きな支えです。同窓会である蔵前工業会と東工大が共同で大岡山に建設中の、東工大蔵前会館という建物ももうすぐ出来上がります。これらを起点として「東工大130周年事業」を、協力しながら有意義に展開したいと念願しています。
最後に次のことを強調したいと思います。東工大の学歌は高い学術を極めることを教えています。自由な雰囲気の東工大でのびのびと、そして他の人のことを思いやる高潔なる人物として成長して欲しいと願っています。諸君、東工大での生活を大いに楽しみながらお過ごし下さい。これにて訓辞といたします。
(本年度も入学式は学部と大学院とに分けて行われました。本稿はそれらの式辞をまとめたものです)
参考資料:
1) 松本元,“愛は脳を活性化する”, 岩波書店, 2002.
2) 東京工業大学百年記念館展示資料