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学長 伊賀 健一
学部および大学院に入学された皆さんに「入学おめでとう」。学部1,127名、大学院修士課程1,579名(専門職学位課程28名を含みます)、大学院博士課程313名、大学院合計1,892名の諸君が入学いたしました。
学部入学者の皆さんは入学試験の難関を突破し、東工大への入学を果たしました。これまでの目標を達成した喜びに溢れていることと思います。ほっとし過ぎることなく新たな気持ちで東工大の生活を始めてほしいと思います。まずは、毎日の生活や訓練を続け、より高い目標を設定することが大事です。
また、大学院に進学あるいは入学された皆さんは、学部を終え、あるいは修士課程を修了して東工大の大学院へ入学しました。さらに高い目標に向かって大きな期待を持って勉学に、また研究に思いを馳せていることと思います。これを一つのスタートラインとして新たな気持ちで東工大の生活を始めてほしいと思います。
東京工業大学(東工大、Tokyo Institute of Technology)は、1881年(明治14年)設置の東京職工学校、蔵前に位置した東京高等工業学校を経て1929年に大学に昇格しました。関東大震災で壊滅した校舎を見て、ここ大岡山に移転したのもその頃です。常に時代のフロントを切り拓き、頼りになる理工系大学の役割を果たし、密度の濃い専門教育とユニークな卓越研究によって東工大の存在が内外から評価されるところとなっています。
伝統と将来を考えた東工大の将来構想の中で、東工大の理念を次のように考えました。すなわち、「


一方、諸君に期待したいのは、文化・スポーツなどです。バランスの良い東工大生としては、そして良き友人を大学時代に育むには文化・スポーツ力が大事です。ものつくりを主眼とした鳥人間コンテストに今年も出場し琵琶湖で飛びます。昨年は混声合唱団コールクライネスが12年連続金賞という快挙を成し遂げました。東工大が始めたロボコンも21回を数え、常にリードしています。スーパーコンピュータのコンテストも好評です。
また、私も学生の時に、先ほど学歌を演奏しました東工大のオーケストラでコントラバスを弾いていました。学歌が制定されたのは1957「年ですが、作曲者諸井三郎のオーケストラスコアが手に入ったのは1960年、私が学部の2年になるときでした。詩人三好達治による歌詞はやや難しいのですが、例えば、3番の歌詞で出てくる「工人よ 窮理者よ 友…」とあるのは、先に述べた
さて、学部入学者の皆さんは本日から大学生になられるわけです。大学生になるということは、その人の人生にとって破壊的な変化だと言われます。これは日本ばかりでなく、世界の大学生にとって共通のことです。これまでは、家庭、保護者の庇護のもとに勉強を続け、この2~3年においては大学受験という目的を持ち、本人も周囲もそれに向かって集中してこられたことと思います。ところが、入学を果たした今、それらから一気に解放され、自由の環境に置かれたことを意味します。これから諸君は多くのことにつき自分で考え、自分で行動しなければならない、そのことで大きな夢を持てると同時に大きな戸惑いをお持ちになると思います。
では、どうしたら良いか、このことについて助言を申し上げたい。第一は、小さくても良いから少しずつ達成感を持つように努めることです。これから講義が始まりますが、日々勉強を積み重ね、一日ずつこれをやったという達成感を持つことです。クラブ活動に参加して少しずつその活動に慣れていくことも大事です。一気に大きな達成感を得ることは難しいのですが、少しずつなら大丈夫だと思います。この助言は本学のカウンセラーを担当している齋藤憲司教授の考えでもあります。
第二は「恐怖突破」ということです。諸君はこれから勉学、クラブ活動、あるいは日常の生活で壁にぶつかることがあるかもしれません。例えば、同級生に対してなかなか話しかけられない、ということが生じるかもしれません。壁にぶつかった時、これを意識して破ってみる、これを恐怖突破と言います。大きな恐怖になる前に小さな壁を破ってみる、なんだ、出来たではないか、という納得が得られるはずです。自分だけでできない時は、本学の教職員、保護者の方々、高校時代の友人などの助けなどが要るかもしれません。東工大は自由と活力に満ちた大学です。諸君の入学はこれに大きく力を与えてくれるものと信じています。
大学院学生諸君への助言も申し上げたいと思います。それは、自発的動機を持つように努めることです。これまでの日本は、追いつけ追い越せ、などという外から来る他発的動機によって一生懸命頑張ってきました。しかし、発展しつつある国の若者に比べてこのような他発的動機が失われていることも確かです。オリンピック選手などアスリートが高みを目指して精進しているのには感動を覚えます。それと同じように、我々普通人が何かをしようという自発的動機を見つけるのが今の日本にとって最も大事なことです。では、自発的動機を探すにはどうしたら良いか?実はこれは難問です。ヒントとしては、学生諸君と教職員との共同作業から何か生まれるのではないか、と私は考えます。もちろん、夢のもとを与える教職員の方により大きな責任があることは確かです。ドイツ語で教えるという言葉と学ぶという言葉は同じ語源だそうです。lehrenとlernenです。これは、指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーが若きレナード・バーンスタインに教えるときに語られたものです。クーセヴィツキーはコントラバスの名手で、コントラバス協奏曲などの作曲も手がけ、ボストン交響楽団の指揮者を務めた人です。諸君、小さいスタートでも結構ですから、是非自分で動機を見つけて下さい。
もう一つ、学問研究における風林火山というものをご披露しておきます。
・ 創造すること風の如し
・ 熟考すること林の如し
・ 実行すること火の如し
・ 堪え忍ぶこと山の如し

さて、大学として重要なのが、同窓力です。これまで卒業生約9万人を送り出し、産業分野の重要な役割を担ってきました。本日お配りした東工大のパンフレットでも紹介してあります。東工大は、芸術分野でも名を馳せた人々を多く輩出しています。民芸陶器の河井寛次郎、濱田庄司 、島岡達三(縄文象嵌。2007年暮に他界)、型絵染の芹沢銈介などです。正門のそばにある百年記念館地下と2階の博物館に展示してあります。今も芸術に触れる機会として、世界文明センターで、第一線の講師による音楽、美術、文学などの講義が開かれています。多方面で活躍する同窓生は大学の大きな支えです。同窓会である蔵前工業会と東工大が共同で大岡山駅前に建設しました東工大蔵前会館という建物が2009年5月に完成しました。これらを起点として「東工大130周年事業」を、協力しながら有意義に展開したいと念願しています。
最後に次のことを強調したいと思います。東工大の学歌は高い学術を極めることを教えています。自由な雰囲気の東工大でのびのびと、そして他の人のことを思いやる高潔なる人物として成長して欲しいと願っています。諸君、東工大での生活を大いに楽しみながらお過ごし下さい。
(本年度も入学式は学部と大学院とに分けて行われました。本稿はそれらの式辞をまとめたものです)