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平成22年1月5日
新年のごあいさつ
学長 伊賀 健一
あけましておめでとうございます。2007年10月に学長就任以来2年2ヶ月余りが経過いたしました。昨年のご挨拶の中で、「この半年における世界の情勢は、1年前の想像を遙かに超える厳しいものになっています」と述べました。ところが、2010年を迎える今日、事態はそれどころではなくなってきています。ドバイの信用不安が輪をかけて広がり、デフレスパイラル、円高による輸出産業の苦境、等々が顕在化しています。長期的にも、少子高齢化社会、総理による25%の温室効果ガス削減提示(1990年の排出量を基準)、食料と水自給など、日本の問題は山積みです。国立大学も平成22年度以降の予算が少なからず削減され、困難な状況に直面することが予想されます。日本のグローバル経済では、外貨を実質輸出や金融によって稼ぎ、輸入により必要なエネルギー、素材、食料などを得る、これが日本の運命です。やはり、広い意味での輸出できる「ものつくり」が基本です。ただ、菊澤研宗氏によると、企業においても、良質化、大量生産、低コスト化、という一次元的戦略ではだめで、キュービックグランドストラテジーの必要性を主張しています1)。これは企業や軍隊の戦略ですが、競争相手と戦うわけではない大学の戦略も、研究資源さえあればよい、がむしゃらに頑張れ、国際競争に勝て、などといった一次元的戦略では、正常な大学の姿が消えてしまいます。諸問題への対応戦略としては、もはや直線的な方法ではかないません。東工大では、次の4つの柱で行かねばと思います。すなわち、次に述べる東工大の将来計画「東工大ビジョン2009」にもあるように4つの次元で対応します。すなわち,知性的環境=知の創造の心意気、物理的環境=技を磨く基盤の強化、心理的環境=高い志をもって、それに和の精神、です。
3つの足はとても安定です。しかし4本の柱では、一つが弱いと不安定になります。しかし、不安定な世界に対応するには、4本の支点によるある程度不安定で柔軟な対応が適していると判断しています。
ここで東工大の近況をご紹介します。英タイムズによる世界大学ランキングで、東工大は 2008年の61位から世界55位へ、テクノロジー系で19位に上昇しました。日本の大学では、総合4位、テクノロジー系で3位です。10月には天皇陛下がシーラカンス解剖のご視察に来学されました。本学で初めての栄誉です。東工大で生まれたフェライトが世界で37万人の会員をもつIEEE(電気電子学会)から、10月にマイルストーンの称号を与えられました。世界的に加藤与五郎、武井武両博士の創造性およびTDK(株)の先導的企業化が認められました。
また、一昨年来の法人改革の影響もあって、東工大関連の法人(東工大後援会、手島工業教育資金団)が東工大の内部に入れられました。主なる事業は大学が引き継ぐこととなりました。
学生諸君が企画する行事、グローバルCOE、いろいろなプロジェクトにもいくつか参加しました。理数系学生支援プログラムでは、学生諸君が宮田亮平東京藝術大学長をお呼びして学長対決(?)の企画で技術と芸術の協同を大いに議論しました。男女共同参画シンポジウムでは、女性研究者が快適に活動できるよう応援しようと盛り上がりました。評価を受けたものの一つは統合研究院の国際評価パネルとヒヤリングでした。情報系教育研究機構発足シンポジウム、卒業20周年同窓会、社会人教育院発足式、東工大蔵前会館竣工式、産学連携会員制度会員企業との懇談会、東工大トーク、アジア理工系大学トップリーグ、博士一貫シンポジウム、四大学シンポジウム、フェライトマイルストーン、附属高校におけるスーパーサイエンスハイスクールのシンポジウム、浜松での蔵前工業会と如水会のシンポジウム、蔵前工業会ベンチャー賞、Green ICEシンポジウム、など有意義なイベントが活発に行われました。
学生諸君も活躍していて、2009年には混声合唱団コールクライネスが12年連続金賞という快挙を成し遂げました。バイオロボコンでも金賞を得ました。東工大が始めたロボコンも20回を数えます。スーパーコンピュータのコンテストも好評で、スパコン“TSUBAME”が活躍します.留学生の諸君は、世界900チームがエントリーしたモンディアロゴ・コンテストに日本から唯一の大学として出場し、見事金メダルを獲得しました。
そこで、大学は、知の砦として社会が突きつけられた課題の解決につながる新しい価値を生み出していかなくてはいけません。そこに、我が国の発展を学術、人材育成でリードしていく東工大の存在理由があります。
2009年の11月に、一橋大学の同窓会である如水会と本学の全学的同窓会である蔵前工業会の支部が主催し、浜松において移動講座を開き、両大学の学長も講演を行いました。700人もの聴衆を集めて討論も行い、やはり日本はものつくりに帰すという意見が多くありました。
東工大は、技術の将来をリードしていくべき大学として、企業だけではなかなか手のつけられないような創造的研究を生み出し、さらに国際的意識を持った人材を育てます。そこで、2009年に定めた長中期の将来計画である「東工大ビジョン2009」をもとに、「知技志和」の精神を持つ理工人養成に取り組みます。すなわち、知と技はもちろんのこと、高い志、日本古来の和の心を持つ「理工人」として育って欲しいのです。
東工大は2011年に創立130周年を迎えます。我が国の発展を先導するため、創立130周年を契機としてここは教育・研究・貢献の3つの柱で革新するつもりです。本学の全学的蔵前工業会と東工大が共同で大岡山に建設した“東工大蔵前会館”も、昨年5月に竣工しました。多くの人々の交流の場を提供しています。そこで、東工大蔵前会館3階に東工大130周年統括本部を設置して「東工大130」の活動に入りました。蔵前工業会の皆様を中心として結成いただいた“東工大基金支援会”が大きな支えです。元経団連会長の今井敬(たかし)氏を名誉会長に、蔵前工業会理事長の庄山悦彦氏(本学1959年卒,(株)日立相談役)を会長にいただき、企業の皆様に東工大へのご支援をお願いしているところです。経済の厳しい折なのに、企業の皆様からは温かいご支援の意志をいただきつつあります。2008年の暮れから教職員、卒業生の皆様にもご寄付のお願いを開始しております。
記念事業として、教育・研究・貢献を中心に、寄付講座(部門)、共同研究講座(部門)、冠講座(部門)などをお願いし、東工大のいっそうの発展と優れた人材の養成に期待していただいております(講座は大学院組織で、部門は研究所等での呼称です)。
これから始まろうとする厳しい時代を乗り越えるため、東工大の強みをバネに飛翔を図ります。新しい図書館の建設が始まりました。大岡山の正門を入った目の前に、2010年度には出来上がる予定です。また、すずかけ台の産学共同研究棟(J3棟)も工事に入ります。横断的教育研究組織として、情報系教育研究機構と環境エネルギー機構が誕生しました。大学院や研究所を超えて差し迫る重要問題の解決にあたります。エネルギーイノベーションを主として行う新棟の建設も始まります。グローバルCOEは2009年度には9チームが活動しています。5年間のスーパーCOEである統合研究院も最終年度を迎え、次年度からは、附置研究所群が受け継ぎます。培ってきたソリューション研究が一つのポイントです。先の紹介した東工大蔵前会館には、ソリューション研究の一つである先進エネルギーシステム(AES)の試行実験が動いています。それに、温暖化ガス25%の削減に対する東工大の取り組みを示す必要があります。環境エネルギー機構が解を出すでしょう。大学院教育システムの改革、財務会計システムの改善、経営の安定化など、乗り越えなければならない壁が待っています。創立130周年を起点に「東工大ビジョン2009+東工大130」のキーワードをもって本学の発展に期待いただきたいところです。そこには、構成員全員の、そして東工大を支えていただく社会の皆様のご支援とご協力がどうしても必要です。東工大は、世界から信頼される素晴らしい大学として貢献します。