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平成28年度 大学院 学位記授与式式辞

平成28年度 大学院 学位記授与式式辞

本日、ご来賓ならびに列席の本学役職員、部局長とともに大岡山キャンパスにおいて、平成28年度大学院学位記授与式を挙行できますことは、本学全構成員の大きな慶びでございます。晴れて修士、専門職および博士の学位を授与される皆さん、おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。海外からの留学生の皆さん、日本での勉強と研究を無事終えられほっとなさっておられると思います。そして、ご列席のこれまで学業を支えておいでになり、この日を迎えられましたご家族の皆様には深く敬意を表したく存じます。

さて昨年秋に本学の大隅栄誉教授が2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞いたしました。これにより大隅栄誉教授はもとより、東京工業大学までも、我が国のみならず世界中から注目が集まり、賞賛される栄誉を享受することができました。今ここに本学大学院を修了する皆さんも、またご家族の皆様もさぞかし誇らしい思いを胸にされたことと思います。受賞にあたり大隅栄誉教授は機会あるごとに基礎研究の重要性を訴えていることは皆さんの多くが受け止めていらっしゃると思います。受賞の対象はオートファジーというすべての生物細胞内で営まれるたんぱく質の分解と合成の仕組の解明についての研究の成果ですが、何より誰も取り組まなかったこの自然現象についての謎解明に取り組まれた大隅栄誉教授の着眼点のオリジナリティと、忍耐強い研究の姿勢が高く評価されたと私は理解しています。過去30年間に渡る努力の経過を通して「この研究が何かの役に立つのか」ということは考えたことがなかった、との大隅栄誉教授の言葉には、誰もがその純粋な科学者の魂に心打たれたのではないでしょうか。そしてその一方で我々はより良い人間社会を作るために早急に解決しなければならない技術課題への取り組み、また急速な情報技術の展開によりこれまでの発想を超えて築かれていくであろう未来社会に備えるために開発しなくてはならない科学技術にも取り組む必要があります。これらを応用研究として敢えて基礎研究とその重要性を区別する必要はないと思いますが、我々は大隅栄誉教授が長年に渡り取り組み続け、ノーベル賞を授与された業績の意味を改めて皆さんとともに心に刻みたいと思います。

今日修士あるいは専門職の学位記を手にされ、これから社会人としての新しい人生をスタートする皆さんは、これまで長い学生生活を終え、まったく新しい環境に身を置くことになります。本学出身の皆さんへの産業界等からの期待は特に大きいことを自覚し、それに応えていくために日々の努力の積み重ねが重要であることを心してほしいと思います。初めは与えられた仕事をこなすだけで精一杯になるのもやむを得ないと思いますが、経験を積み重ねるほどに、正確で説得力のある業務報告を提示できるよう、そしてさらにその先の進め方についての提案を示すことができるよう心がけてほしいと思います。すなわち、常に与えられた仕事をこなすだけではなく一歩先を目指しつつ進んでほしいと思います。さらに週末などの時間を利用して企業経営の基礎、語学力、教養等を身に付けていくなど、企業という組織の中でいかに自分を磨くかに主体的に取り組み挑戦し続けていただきたいと思います。

博士後期課程に進学される皆さんの大半は修士論文で取り組んだ研究テーマを発展させ、さらなる研究能力の進化に取り組むこととなります。科学技術の奥深さを体感し、時間をかけてこれと向き合う貴重な時間を過ごされることでしょう。その中で取り組む研究課題の目的と意義への理解を深めつつ、得られた結果の意味するものについて、指導教員や研究室の仲間たち、そしてその分野の学外の研究者たちとの忌憚のない意見交換を通して説得ある独自の見解を論文としてまとめていくプロセスを身に付けてください。博士の学位は特定の分野の研究論文としての価値だけではなく、そのプロセスを全うしたことに対する資格として与えられるものです。

本日、博士の学位記を手にされる皆さんは、これからはアカデミアで引き続き研究や後進の教育に当たるか、企業等で研究者としてのキャリアを積んでいかれることでしょう。特に企業においては学位取得のために取り組んだ課題とは異なる新たな分野、課題に挑戦することと思います。今述べたように博士とは新たな課題解決に臨みこれを解決するために必要な要素とプロセス遂行に対して資格を身に付けていることを自覚し、自信を持って力強く能力を発揮してほしいと思います。博士を修了する皆さんは本学が輩出する科学技術人材の最高峰であることを忘れずに世界を舞台に社会貢献を果たして行くことを期待しています。

皆さんは現在日本一を誇り、また世界トップクラスにある理工系総合大学である東京工業大学の大学院修了生です。そのことを胸に、社会に出る人、博士後期課程に進学する人、それぞれに自覚と熱意をもって、世界を見ながら誇り高く、自分自身の新しい価値を育むための挑戦に取り組んでください。舞台は世界です。私は、そして東工大はいつも皆さんを応援しています。

最後に、皆さんの明るい未来を心から祈って式辞といたします。

平成29年3月27日
東京工業大学長 三島良直