国際交流

エンジニアリングとアートの融合 ―国際学生ワークショップ―

エンジニアリングとアートの融合 ―国際学生ワークショップ―

東京工業大学は、世界の大学約100校と学術交流協定を締結しています。2015年夏、協定校のひとつであるカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)と連携し、ロンドン芸術大学の学生も招いたユニークな合同学生ワークショップが開催されました。

エンジニアの役割の再考

Searching for altemative roles for innovators and engineers

今回のワークショップのテーマは、エンジニアリングとデザインへの新たなアプローチを探り、社会におけるエンジニアの役割や位置づけを再考することです。東工大の照井亮講師と中央大学のピーター・ソーントン博士の指導のもと、東工大13名、UCSB 5名の理工系学生と、ロンドン芸術大学の学生3名を含む5名のアーティストが集まりました。具体的に学生が取り組む課題は、「科学技術の力を効果的に使い、住民と連携して地域社会に潜在する問題の解決策を探ること」、そして「その解決策を専門知識のない人でも理解できるよう視覚言語を使って提示すること」の2点。課題をとおして、ユーザーを巻き込む、新たな問題解決のアプローチを模索しました。

中央大学のピーター・ソーントン博士 中央大学のピーター・ソーントン博士
東工大の照井亮講師 東工大の照井亮講師

地域社会に潜む問題を見つけ出す

今回のワークショップに先がけて、まず産業化を取り巻く社会的状況についての講義が行われ、日々の暮らしのなかにある科学や技術の多くが、いかに政治、経済、文化といった社会的要因の影響を受けて生み出されているかが話し合われました。それをふまえて、学生たちはチームに分かれ、「地域社会に潜む問題」を探しに大岡山キャンパス周辺の現地調査に出かけました。ユーザーにとっての問題を理解し、求める解決策の方向を探るために、学生たちには積極的に住民に話しかけることが求められました。

キャンパスを出て調査を開始

キャンパスを出て調査を開始1
キャンパスを出て調査を開始2

問題(課題)を探しました

問題(課題)を探しました1
問題(課題)を探しました2

現地調査後、それぞれが考える地域の問題を共有

現地調査後、それぞれが考える地域の問題を共有

ひととおり現地調査を終えると、キャンパスに戻りチームのメンバーを入れ替えて、各自が持ち帰った「問題点」を共有しました。そこから、今回のテーマに沿って取り組む「地域社会の問題点」5つを選び出し、1日目を終了しました。

視覚言語を使ったコミュニケーション

ワークショップ2日目、前日に選び出した問題点の解決策となるアイデアを具体化していきます。ここでは視覚芸術を学ぶ学生アーティストたちが進行役となり、専門知識のない人でも理解できるよう視覚言語を使って提示するという、もうひとつの課題に取り組みました。学生たちは限られた時間のなか、写真や手書きの絵、立体造形物等、思い思いに作成したストーリーボードを使ってプレゼンテーションを行い、全体ディスカッションで他のチームと解決策のアイデアを共有しました。

アイデアや目標を可視化するための手法。絵コンテ。

問題点1:地域の情報を一元化している場所がない

解決策

対話型電子掲示板の設置・活用

対話型電子掲示板の設置・活用

問題点2:美観を損ね、安全性にも問題のある送電線

解決策

郊外の送電線の地中化と変圧器の設置による安全性・美観向上

郊外の送電線の地中化と変圧器の設置による安全性・美観向上

問題点3:世代間コミュニケーションの欠如

解決策

地域問題を住民が政治家・有識者と共有できるインターフェースへの簡易アクセスの提供

地域問題を住民が政治家・有識者と共有できるインターフェースへの簡易アクセスの提供

問題点4:交通渋滞と危険な歩道

解決策

狭い路地での交通渋滞を緩和し、歩行者の安全を確保する赤外線検知システムの導入

狭い路地での交通渋滞を緩和し、歩行者の安全を確保する赤外線検知システムの導入

問題点5:地域と大学間コミュニケーションの欠如

解決策

広く科学・技術の最新情報の共有を可能にする商業施設と一体化した情報拠点(ハブ)の設置

広く科学・技術の最新情報の共有を可能にする商業施設と一体化した情報拠点(ハブ)の設置

参加学生の声

張 栩生
東京工業大学大学院理工学研究科通信情報工学専攻 修士課程
張 栩生

このワークショップを通じて、社会におけるエンジニアの立場と、科学技術がもたらすポジティブな効果とネガティブな効果の2つの側面についてより深く考えさせられ、自分の研究の意義を一般社会に示すことの重要性に気が付きました。これまで理系学生としか研究をしたことがありませんでしたが、今回、技術的な感覚を美術系の学生たちと視覚化させたり、多様な文化背景の人々と共同作業をしたりと、これまでにない経験ができ、視野が広がりました。今後も積極的にこのような機会に参加して、自分自身に磨きをかけ、可能性を広げていきたいと思っています。

ロブ・マーラー
カリフォルニア大学サンタバーバラ校電子情報工学専攻 博士課程
ロブ・マーラー

今回のワークショップは、文化的なアイデアの交流にとどまらず、普段の考え方から一歩踏み出す機会になりました。学際的に、そして特定の視点で考えることによって、エンジニアの仕事が広い意味で社会に与える影響に気づき、自分の研究と社会の関わり方を見つめ直すきっかけにもなりました。地域社会の問題解決というのは馴染みのないものでしたが、グラフィックデザイナーなど、異なる専門分野の人たちと一緒に、それぞれの知識や強みを生かして、共に問題解決にあたることは期待以上にいい経験になりました。

三井 栄子
ロンドン芸術大学 学士課程
三井 栄子

これまで理工系大学はもちろん、日本の大学の学生と共に学んだこともなかったので、考え方や将来の目標等、非常に刺激になりました。私たちのグループは立体造形物での提案を試みましたが、限られた時間で納得がいくものを作るのは簡単ではありませんでした。また、エンジニアリングとアートという組み合わせも私にとって全く新しい経験でしたが、そこから生まれるアイデアや発見の可能性を実感しました。今後も機会を見つけてチャレンジしていきたいと思います。

複数の視点が集まって生まれたもの

今回のワークショップでは、3大学の異なる専門分野の学生たちが参加し、一見接点がないように思われる「エンジニアリング」と「アート」が、「創造性」というキーワードのもとに協働しました。多様な学生による複数の視点が1つのテーブルに集まった結果、既存の枠組みを超えた問題へのアプローチの模索が可能になっただけでなく、それぞれの専門性に新たな可能性を見出す、大変ユニークで発見の多いものとなりました。

最後は皆が笑顔に 最後は皆が笑顔に