研究

東工大ニュース

固体酸化物形燃料電池(SOFC)の排熱を活用して都市ガスから水素を製造することに世界で初めて成功

2009.10.23

要約

東京工業大学統合研究院の山崎陽太郎教授(大学院総合理工学研究科教授,統合研究院協力教員)及び荒木和路特任教授は,東京ガス株式会社と共同で,高温型燃料電池の排熱を利用して燃料用高純度水素を都市ガスから製造することに成功しました。原理については既に山崎陽太郎教授らによって報告されていますが(1),(2),実機で確認したのは世界で初めてです。また,特徴の異なる二種類の燃料電池を組み合わせることで燃料電池の発電効率を極限まで高める可能性を実証しました。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

東京工業大学統合研究院の山崎陽太郎教授(大学院総合理工学研究科教授,統合研究院協力教員)及び荒木和路特任教授は,東京ガス株式会社と共同で,高温型燃料電池の排熱を利用して燃料用高純度水素を都市ガスから製造することに成功しました。原理については既に山崎陽太郎教授らによって報告されていますが(1),(2),実機で確認したのは世界で初めてです。また,特徴の異なる二種類の燃料電池を組み合わせることで燃料電池の発電効率を極限まで高める可能性を実証しました。

研究成果の概要及び背景

 従来から燃料電池の排熱は給湯などの熱源として利用されていますが,今回はじめて排熱を使って発電と同時に水素を製造するコプロダクションを実現しました。この成果は,オフィスビルや地域単位で電気と熱を供給する次世代のオンサイト省エネルギー技術として実用化が期待されるほか,燃料電池自動車などに水素を供給する拠点作りに役立つなど,水素エネルギー時代にも道を開くと期待されています。また,燃料電池発電は,内燃機関と異なり,排ガスからの二酸化炭素の分離が容易であることから地球温暖化防止に貢献することも期待されます。
 統合研究院は,文部科学省の科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成プログラム(スーパーCOE)」で本学に設立された研究拠点で,社会や産業の課題を解決するソリューション研究を進めています。本研究は,ソリューション研究の一つとして進めている次世代型省エネルギーシステムの構築を目指す研究プロジェクトの一環で,国土交通省の「住宅・建築関連先導技術開発助成事業」の支援を受けて平成19年度から3年間の計画で実施しています。
 燃料電池は化石燃料を燃焼させることなく電気に変換するもので,水の電気分解の逆の反応で発電します。今回実証試験に用いたのは,固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell: SOFC)と呼ばれる10 kWの高温型燃料電池です。実証試験では,都市ガスをこの燃料電池を用いて静かに化学反応させ直接電気エネルギーを取り出すと同時に,燃料電池の運転温度が約900℃であることを利用し,その高温の排熱を用いて都市ガスを改質(用語1),精製し,高純度水素が毎分6.6 NL製造できることを確認しました。
 この水素をより低温(約80℃)で稼動する固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell: PEFC)の燃料として活用して発電すれば,都市ガスの持つエネルギーをさらに高効率で利用でき,それだけ地球温暖化の原因とされているCO2の排出を大きく減らすことができます(図1)。都市ガスの改質に必要な熱エネルギーは通常は都市ガスを燃やして作りますが,SOFCの余剰熱を利用すればその必要がなくなり,二種類の燃料電池を組み合わせたシステム全体として今までにない高効率化が実現できる仕組みです。
 試験設備の発電効率はSOFC単独では 45% 程度ですが,SOFC + PEFC複合システムでは 50%程度が期待できます。将来の加圧型1MW級では55%以上が期待されており,今後本格的な試験による本研究の結果から実証的に推計する計画です。このような複合燃料電池システムは石油系やアルコール系燃料に対しても設計することができます。

用語1
都市ガスの主成分はメタン(CH4)で,そのままでは燃料電池に使えません。そこでまず都市ガスから燃料電池の燃料になる水素(H2)と一酸化炭素(CO)を取り出します。この変換プロセスを改質と呼び,それを実行する装置を改質器と呼んでいます。改質には高温の熱が必要です。SOFCは高温で発電し,同時に発熱するために,この排熱を使って大量に水素を製造することができます。SOFCとPEFCを組み合わせた複合システムでは,改質器で作られた水素と一酸化炭素の一部がSOFCの燃料として使われ,PEFCには精製した水素だけが送られ,余った水素は貯蔵され,必要に応じて消費されます。PEFCだけを使って都市ガスで発電するときには,燃料の一部を燃やして改質用の熱を作らなければならないので,その分だけ,複合システムでは高効率化が実現できます。

実証試験機の構成と動作のしくみ(図2)

都市ガス(主成分はメタン)は「予備改質器」でSOFCの排熱と発電後のオフガス燃焼熱によって予備改質され,SOFC-Moduleに入ります。ここでは予備改質されたガスが更に改質され,水素と一酸化炭素COが空気中の酸素とおよそ900℃で反応して発電します
今回の研究で新たに設置された「排熱活用改質器」では,SOFCの排熱を活用しておよそ700℃で都市ガスを改質して水素H2をつくります。
シフト反応器では「排熱活用改質器」で改質されたガスのなかの一酸化炭素COを二酸化炭素に変えます
シフト反応器を出たガスのなかからPSA(Pressure Swing Adsorption)によって水素を分離抽出します
水素貯槽には水素H2を貯蔵し,電力需要に応じて利用します。
PEFCでは貯蔵された水素と空気中の酸素とおよそ80℃で反応して発電します。

実証機の概観(図3)

実証機は東京工業大学とOB組織である(社)蔵前工業会が共同建設し,今春大岡山キャンパスの一角に竣工したTokyo Tech Frontの駐車場に設置されています。

初期試験で得られた性能

2009年8月末から9月中旬にかけて行われた世界で最初の実証試験で得られた性能を以下に記します。実証機は現在連続運転されており,今後,各種の試験を行っていく予定です。

図4は最初の試験経過で,試験開始からSOFCを昇温させ,その後発電を開始した情況を示しています。

図5は,SOFCの排熱を使って都市ガスを改質し,PEFCで発電したときの性能を示しています。
SOFC単独では9.17 kW,46.0%で発電中に排熱を活用して毎分6.63 NLの高純度水素生成を実証しました。

図6に排熱改質したときのエネルギーバランスを示します。

図7にSOFC本体およびSOFCモジュールの外観を示します。

研究体制と工程

本研究は東京工業大学統合研究院と東京ガス株式会社が共同で推進し,平成19年度から3ヵ年にわたり,国土交通省「住宅・建築関連先導技術開発助成事業」として実施されています。

参考文献

(1)
M. Yokoo‚ K. Watanabe‚ M. Arakawa‚ Y. Yamazaki‚ "Influence of current densities in SOFC and PEFC stacks on a SOFC-PEFC combined system"‚ Journal of Power Sources‚ 163 (2007) 892-899.
(2)
M. Yokoo‚ K. Watanabe‚ M. Arakawa‚ Y. Yamazaki‚ "Numerical evaluation of a parallel fuel feeding SOFC-PEFC system using seal-less planar SOFC stack"‚ Journal of Power Sources‚.153‚ (2006)18-28.

図1 動作概念図

図1 動作概念図

図2 プロセスフロー

図2 プロセスフロー

図3 実証機外観

図3 実証機外観

図4 SOFC運転時における電流 , 電圧 及びセル部温度の時間変化

図4 SOFC運転時における電流 , 電圧 及びセル部温度の時間変化

図5 SOFC+PEFCシステムの性能

図5 SOFC+PEFCシステムの性能

図6 SOFC+PEFCシステムにおけるエネルギーバランス

図6 SOFC+PEFCシステムにおけるエネルギーバランス

図7 SOFCスタック写真

図7 SOFCスタック写真

図8 SOFCモジュール外観写真

図8 SOFCモジュール外観写真

図9 全体工程

図9 全体工程