研究

東工大ニュース

生体親和性の高いナノ粒子が血管を通じて薬剤を輸送

2010.01.05

要約

 本学大学院生命理工学研究科生命情報専攻の小畠英理准教授を中心とする研究グループは,タンパク質を材料とするナノオーダーの微小な粒子状の構造体を開発した.血管を通じて薬剤を効率的に輸送するシステム(ドラッグ・デリバリ・システム)を実現するための重要な開発成果である.

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

 本学大学院生命理工学研究科生命情報専攻の小畠英理准教授を中心とする研究グループは,タンパク質を材料とするナノオーダーの微小な粒子状の構造体を開 発した.血管を通じて薬剤を効率的に輸送するシステム(ドラッグ・デリバリ・システム)を実現するための重要な開発成果である.

 ドラッグ・デリバリ・システム(DDS)とは,目標とする患部に薬剤を効果的に投与する技術ある.薬剤を有機高分子膜などによって包み込んで血管中を搬送することで,薬剤が搬送中に分解したり,組織に吸収されたりしないようにする.

 薬剤を搬送するためには,ナノメートルオーダー(直径が数十ナノメートル)の構造体,すなわちナノ粒子を使う.このナノ粒子にはいくつかの特性が要求され る.それは,薬剤を放出後に生体内で分解する,抗原性が低いといった性質である.この要求に応えられるナノ粒子が,タンパク質だけを構成成分とするナノ粒子である.

 タンパク質だけを構成成分とするナノ粒子はこのほか,様々な機能を付加できるという特長を有する.DDSのキャリア(薬剤を搬送する構造体)にはうってつけと言える.

 ところでタンパク質といっても,様々な種類がある.小畠准教授を中心とする研究グループは,エラスチンと呼ばれるタンパク質中に存在するペンタペプチドの 繰り返し配列に着目した.なおエラスチンは,皮膚や弾性軟骨,大動脈,子宮などの弾性線維を構成する主要なタンパク質である.ごく普通に存在するタンパク 質と言える.

 エラスチン中にはいくつかの異なるペプチド繰り返し配列が存在する.その中で,アミノ酸のグリシン(G),バリン(V), グリシン(G),バリン(V),プロリン(P)が繰り返し現れる「(GVGVP)n」と呼ぶペンタペプチドは,溶液の温度によって可逆的に分散と凝集の二 つの状態に変化するという興味深い性質を備える.(GVGVP)nは25℃前後の低温溶液中では分散しているが,50℃前後の高温溶液中では凝集する.

 ただし(GVGVP)nが凝集したときの寸法は1ミクロンを超え,血管中へDDSのキャリアとして導入するには外形寸法が大きすぎる.そこで小畠准教授ら は,アミノ酸の一種であるアスパラギン酸が連なる「ポリアスパラギン酸」と(GVGVP)nを連結したポリペプチドであれば,凝集状態のときにナノオー ダーの微小な粒子を構成すると考えた(図1).ポリアスパラギン酸は親水性であり,マイナスの電荷を帯びている.このため凝集すると互いに反発し,微小な 球体を形成する.

 そこで様々な長さの(GVGVP)nとポリアスパラギン酸が接合した分子を遺伝子組換え技術によって作製し,溶液の温 度変化によって粒子の大きさがどのように変化するかを調べた(図2).すると適度な長さのときに,溶液が高温(50℃)になると直径が50ナノメートル程 度と適切な大きさのナノ粒子構造体に変化することが分かった.溶液が低温(25℃)のときは,(GVGVP)nとポリアスパラギン酸が接合した分子は分散 し,そのため直径が10ナノメートル前後と小さくなっていた.

 今後は,DDSのキャリアとして様々な機能をタンパク質ナノ粒子に導入する(図3).基本的な機能には薬剤の内包がある.そのほか,細胞膜を透過する機能を持たせたり,抗体と結合する機能を持たせたりすることを考えている.

 なお本研究の成果は,バイオ分野の論文誌「Biomaterials」に「Constructions of nanoscale protein particle using temperature-sensitive elastin-like peptide and polyaspartic asid chain」の論文名で掲載された.

図1 ポリペプチド「(GVGVP)n」とポリアスパラギン酸を連結した分子が温度によって凝集と分散を繰り返す
低温(25℃)の溶液中では分散状態,高温(50℃)の溶液中では凝集状態となる.凝集状態では,マイナスの電荷を有するポリアスパラギン酸が互いに反発するため,ナノメートルオーダーの粒子を構成する

図2 ポリペプチド「(GVGVP)n」とポリアスパラギン酸を連結した分子を試作し,平均的な大きさ(直径)と温度の関係を調べた結果
青色は低温のとき,赤色は高温のとき,緑色は再び低温に戻したときの大きさ

図3 タンパク質ナノ粒子を利用した今後の展開
薬剤を内包させたり,細胞膜を透過する機能を持たせたり,抗体と結合する機能を持たせたりすることを考えている