研究

東工大ニュース

有機EL素子の取り出し効率を2倍以上に向上

2010.02.22

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

東京工業大学大学院理工学研究科の竹添秀男教授、クーウォンヘ研究員らは新日本石油と共同で、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の発光を外部に取 り出す効率を従来の2倍以上に向上させることに成功した。この技術は次世代フラットパネルディスプレーや大面積壁面照明として有力視される有機EL素子の 本格実用化を加速すると期待される。
完璧に制御された周期構造ではなく、周期構造の方向をランダムにし周期性にも大きな分布を持たせた皺(しわ)状の凹凸がある構造(バックリング構造)を素子表面に設けることにより実現した。
バックリング構造を持たない素子とこの素子の特性を比較したところ、視野角特性もスペクトルもほとんど変わらず、効率だけ向上していることを確かめた。電流効率は2.2倍、電力効率は2.9倍にも及んだ。周期構造の周期や振幅の最適化により、さらなる向上が可能である。
取り出し効率が向上すれば、同じ明るさの素子を低い電流で駆動できる。このため電気回路の負担が軽くなり、有機EL材料の寿命が延び、低消費電力化という大きなメリットにつながる。
この成果は英国の科学誌「Nature Photonics 2月21日電子版」に掲載される。

研究の背景

 有機EL素子は一部の小型薄型テレビや携帯画面にすでに用いられているが、いまだに多くの問題点がある。素子内での発光効率は 100%達成されているが(注1)、界面(注2)での全反射のために、外部への取り出し効率は低く抑えられ、素子発光分の約20%の光しか有効利用できて いない。素子表面にレンズアレイや散乱体を配し、性能向上が図られているが、2倍の性能向上にははるかに及ばないのが現状である。このような試みの一つと して、表面に光の波長オーダーの周期構造を配し、回折を用いて光を前面に取り出そうという研究が多数報告されている。しかし、この場合、効率向上はセル内 のある方向に伝幡する、ある波長の光だけに限定されてしまう。今回はこのような方向や波長に対する依存性がなく、2倍以上の外部取り出し効率を実現した。 竹添教授らと新日本石油は有機EL素子の性能向上のための共同研究を行っている。これまで、1次元、2次元の周期構造を界面に配した有機EL素子を作製 し、性能向上を発表してきた(Jeong et al.‚ Appl. Phys. Lett. 92 (2008) 083307; Jeong et al.‚ Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 4566)。しかし、これらは波長選択性があるなど実用的な応用のためにはさらなるアイディアが必要とされていた。

今回の研究の内容

クーウォンヘ研究員はすでに作製法が知られているバックリング構造が有機EL素子の外部取り出し効率向上に使えるのではないかと考え、研究を進めていた。その結果、バックリング構造作製を数回繰り返すことでランダム周期構造を作って、振幅を増加させ、今回の結果を得た。
ラ ンダム周期構造を持つ表面は熱収縮によるバックリング構造を用いて形成した。具体的には、ガラス上に塗布した高分子にアルミニウムを蒸着し、100度Cか ら室温まで温度を下げることにより、高分子とアルミの熱膨張係数の違いによって膜表面にバックリング構造を発生させた。これをマスターモールドとし、イン プリント法によってバックリング構造を持つ基板を用意し、この上に有機EL素子を形成した。

本研究の意義

今回、竹添教授らが 開発した有機ELの外部取り出し効率を2倍以上に向上させる技術は、あらゆる有機EL素子に応用できる。取り出し効率が向上したということは同じ明るさの 素子を低い電流で駆動できることを意味し、このことは、ひいては電気回路への負担を軽くし、有機EL材料の寿命を向上させ、消費電力を抑えることができる という大きなメリットにつながる。次世代のフラットパネルディスプレー、壁面照明として期待されながら開発が遅れている有機ELの研究開発に大きな一石を 投じるものと考えられ、社会的意義は大きい。

発表予定

この成果は,2月21日付のNature Photonics電子版にて発表される。

(注1)
燐光材料を用いて電気光変換効率100%が達成されている。
(注2)
発光素子部とガラス基板界面、およびガラス基板と空気界面。

論文タイトル

Light extraction from organic light-emitting diodes enhanced by spontaneously formed buckles