研究

東工大ニュース

Liイオン二次電池新規正極材料および製造法の開発に成功

2010.03.31

要約

本学大学院理工学研究科・化学工学専攻の谷口泉准教授のグループは,蓄電池であるリチウムイオン二次電池の正極材料について,車載用途にも期待できる新規正極材およびその製造法の開発に成功した.

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

本学大学院理工学研究科・化学工学専攻の谷口泉准教授のグループは,蓄電池であるリチウムイオン二次電池の正極材料について,車載用途にも期待できる新規正極材およびその製造法の開発に成功した.

 開発した新規正極材料は,リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)のナノ粒子とカーボンのナノ複合体材料.また開発した新規製造方法とは,原料塩(硝酸リチウム,硝酸マンガン,リン酸)を量論比で蒸留水に溶解させた原料溶液を300~500℃の比較的低温で噴霧熱分解して目的物質(LiMnPO4)の前駆体を得,これをナノ粒子化するとともにカーボンと複合化した後,焼成するというもの.コバルト酸リチウム(LiCoO2)やマンガン酸リチウム(LiMn2O4)などに比べて電子とLiイオンの導電性が極めて低いというLiMnPO4の欠点をナノ粒子化とカーボンとの複合化,あるいはさらに微量のMgをドープすることで克服した.この製造法は谷口准教授らが以前から研究しているLiMn2O4やリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の製造法をさらに改良したもの.

  詳細は2010年1月発刊のElectrochemistry Communication論文誌(注1),および2010年2月発行のJournal of The Electrochemical Society論文誌に発表した(注2).また,2010年4月25日~4月30日にカナダ・バンクーバーで開催される第217回アメリカ電気化学会でも 発表する予定.なお,この研究は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)「系統連系円滑化蓄電システム技術開発・次世代 技術開発」の委託事業のもとで行われた.

オリビン構造に注目して素材を選択

 現在,携帯機器用のリチウムイオン二次電池正極材料には希少資源であるCoとLiの酸化物が主に用いられているが,自動車の動力用やスマートグリッド(系統連系)用としては資源確保に不安がある.そこでCoの代替物質としてMnを用いたLiとMnの複合酸化物(LiMn2O4)が登場しているが,高温(50~60℃)で充放電を繰り返したときの容量劣化が大きいという欠点がある.

 代替物質として最近注目されているのは,鉄(Fe)を使ったLiFePO4である.この物質はオリビンという非常に安定な構造を持つ.オリビン構造の中ではリン(P)と酸素(O)の結合が強いので高温でOが脱離しない.さらに充放電時におけるLiイオンの挿入脱離の際に,LiMn2O4と異なり相転移がなく安定なため,サイクル特性が良い.ただし,この材料は電子伝導性が低く大電流が取り出せない.さらに,作動電位が3.4 Vと低いために最終的な出力が低く,プラグインハイブリッド車などにしか使えない.

 そこで新たに登場したのが,同じオリビン構造を持つLiMnPO4だ.LiFePO4と同じく原理的には1グラムあたり171ミリアンペア時という高容量が得られ,さらに作動電位が4.0~4.1 Vと高いため,車載用としても期待される電池が作れる.

工業化が容易な点も実用に大きなメリット

 ただしLiMnPO4はLiFePO4よりもさらに電子伝導性が低いため,それをカバーする電極構造を持たせる必要がある.その製造法が焦点だった.

 「同じ素材を使った研究ではライバルはたくさんいるが,プロセスに問題があり容量が出ていない.ゾル・ゲル法,ポリオールプロセス,水熱合成,固相反応 法,最近はマイクロ波加熱合成など様々なプロセスで合成が試みられているが,ゾル・ゲル法とポリオールプロセスを除けば,実用化を視野に入れた電池評価で 理論値の40~60パーセント程度しか性能が出ていない.また,ゾル・ゲル法やポリオールプロセスでは合成プロセスが複雑なため実用化の可能性は低い.」 という.谷口准教授らは,エアロゾルプロセスと粉体技術を使ってLiMg0.04Mn0.96PO4をナノ粒子化すると共にカーボンと複合化(図1)することで,電荷移動抵抗を低減しLiイオンの拡散距離を短くすることに成功した.開発した新規正極材を使って試作したセルでは,理論値の約90パーセントのエネルギーを取り出すことができたという(図2).

 今回の製造法の最大の特徴は「他の方法に比べて実用化が期待できる新規合成法であること」(谷口准教授).焼成時間が従来の製造法,例えば固相反応法に比 べると3分の1から5分の1に短縮できるためで,「あとは実験室から工場へのスケールアップの問題を残すだけ」(谷口准教授)だそうだ.

 リチウムイオン二次電池用正極材料の研究では,LiCoO2やLiMn2O4な ど比較的導電性の高い材料が先に研究され,今研究がすすめられているのは(希少金属の代替として)Liと遷移金属(Fe,Mn等)のリン酸塩,ホウ酸塩, ケイ酸塩などであるが,これらはいずれも電子およびイオン導電性に問題がある.谷口准教授は「導電性をカバーするために新しい電極構造の設計とそれを可能 にするプロセス技術の開発が必要である.そうしなければ次世代のリチウムイオン二次電池は実現しないだろう」と考えている.

注1
"Electrochemical Performance of Nanocomposite LiMnPO4/C Cathode Materials for Lithium Batteries"‚ Zhumabay Bakenov and Izumi Taniguchi‚ Electrochem. Commun.‚ Volume 12‚ pp. 75-78 (2010)
注2
"LiMgxMn1-xPO4/C Cathodes for Lithium Batteries Prepared by a Combination of Spray Pyrolysis with Wet Ballmilling"‚ Zhumabay Bakenov and Izumi Taniguchi‚ J. Electrochem. Soc.‚ Volume 157‚ Issue 4‚ pp. A430-A436 (2010)

図1.LiMg0.04Mn0.96PO4/Cナノ複合体粒子

図1.LiMg0.04Mn0.96PO4/Cナノ複合体粒子

図2.LiMg0.04Mn0.96PO4/Cナノ複合体正極の電池特性

図2.LiMg0.04Mn0.96PO4/Cナノ複合体正極の電池特性