研究

東工大ニュース

室温で働く革新的触媒を発見

2010.05.12

要約

東京工業大学応用セラミックス研究所の北野政明特任助教(神奈川科学技術アカデミー・原「エコ固体酸触媒」プロジェクト・元常勤研究員),原亨和教授らは,神奈川科学技術アカデミーとの共同研究によって,酸化チタン(チタニア)をナノチューブにすると,熱を加えなくても高効率の革新的な触媒として機能することを発見しました。
チタニアナノチューブ(用語1)は簡単,安価に合成でき,室温で実用レベルの触媒機能を発揮するため,100度C程度に加熱が必要な従来の触媒を使った場合に比べ,化学反応のエネルギー効率が3倍以上に向上。このため燃料や樹脂,医薬品,洗剤などの化学品生産に要するエネルギーと地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)排出量が1/3以下に低減できます。さらに,酸化チタンは資源量が豊富で安価に入手できるため,コスト削減効果も期待できます。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

要点

  • 室温で働く革新的チタニアナノチューブ触媒を発見
  • 既存の固体触媒の3倍以上のエネルギー効率
  • さまざまな化学品の合成に伴うCO2排出を削減

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の北野政明特任助教(神奈川科学技術アカデミー・原「エコ固体酸触媒」プロジェクト・元常勤研究員),原亨和教授らは, 神奈川科学技術アカデミーとの共同研究によって,酸化チタン(チタニア)をナノチューブにすると,熱を加えなくても高効率の革新的な触媒として機能するこ とを発見しました。
チタニアナノチューブ(用語1)は簡単,安価に合成でき,室温で実用レベルの触媒機能を発揮するため,100度C程度に加熱が 必要な従来の触媒を使った場合に比べ,化学反応のエネルギー効率が3倍以上に向上。このため燃料や樹脂,医薬品,洗剤などの化学品生産に要するエネルギー と地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)排出量が1/3以下に低減できます。さらに,酸化チタンは資源量が豊富で安価に入手できるため,コスト削減効果も期待できます。
世界トップレベルの化学学術雑誌,米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されます。

研究の背景

社会を支える化学品は触媒を使って生産されています。触媒を機能させるには熱エネルギーが必要であり,より少ないエネルギーで高速で働く触媒を開発すれば,エネルギー消費とCO2排出を削減できます。
固体酸触媒(用語2)は燃料や樹脂,医薬品,洗剤などの化学品の生産に必要不可欠な物質であり,さまざまな固体酸触媒を用いた化学プラントが現代社会に必須の化学品を生産しています。化石資源の高騰・枯渇,地球温暖化が深刻化する近未来に向け,一層の省エネルギー,CO2排出削減が必要となります。このため,より高活性な固体酸触媒の創出が社会と産業から求められています。
原教授らはCOを中心とする温室効果ガスの大量排出産業である化学工業で,少しでもCO2排 出削減につながる技術開発に取り組んでいました。特に触媒を使った化学反応では触媒を機能させるために熱を使うので,室温で優れた機能を発揮する触媒の探 索に力を入れていました。各種の候補を検討する中で,もともと光触媒として有名な酸化チタンを取り上げた。酸化チタンだけでは化学反応の触媒としては十分 な性能ではなかったが,これをナノレベルにして,しかも丸めてチューブにすれば,別の機能が生まれると考えた。試してみると,室温で実用に十分な触媒機能 があることを発見しました。

本研究で得られた結果・知見

地球上に豊富に存在し,入手が容易で安価なチタニアをアルカリ水溶液中で加熱することにより,ナノチューブ状のチタン酸化物が合成できます。チタニアナノチューブはナノサイズのシート状のチタニアを筒状に丸めた形状であり,筒の内径は約5ナノメートルです(図1)。
チ タニアナノチューブを燃料や樹脂,医薬品,洗剤などさまざまな化学品を合成する際に用いられる酸触媒反応(フリーデルクラフツアルキル化反応<用語 4>など)に用いると,工業的に利用されている固体酸触媒が100℃程度の熱を加えて進行させる反応を室温でも非常に効率よく進行させることがで き,既存の固体酸触媒の3倍以上の性能を有することを見出しました(図2)。
チタニアナノチューブはナノサイズのシート状のチタン酸化物を筒状に 丸めた形状ですが,チタニアナノシートや,出発物質の二酸化チタンは酸触媒として機能しません(図2)。これは,チタン酸化物の反応する部位はたくさん存 在するが,それぞれがあまり強くないためであります。しかし,チタニアのシートをナノレベルの筒状にし,"ひずみ"を作ることによって,強力な触媒として の機能(活性点)が現れることが明らかとなりました(図3)。

研究の今後の展開・波及効果

チタニアナノチューブは簡便な方法で 合成できるため低コストで大量合成が可能であり,資源量が2番目に多い遷移金属であるチタンから構成されているため,実用的観点からも極めて有望です。こ の固体触媒は分離・回収・再利用にエネルギーを必要とせずに既存のどの固体酸触媒よりも高い酸触媒性能を発揮でき,さらに室温で高効率に反応を進行させる ことができるためCO2排出削減に貢献できます。
今後,チタニアナノチューブが高い酸触媒性能を有するメカニズムを明らかにすることにより,さらに高性能なチタニアナノチューブの開発を目指し,環境調和型の触媒プロセスを構築します。

用語説明

  1. 1.
    チタニアナノチューブ
    ナノ(10億分の1)メートルサイズの内径,外径を有するチューブ状のチタン酸化物。
  2. 2.
    固体酸触媒
    触媒とは,化学反応系に少量存在して,化学反応を著しく加速したり,特定の反応だけを起こしたりするが,それ自体は反応の前後で変化しない物質です。固体酸とは化学反応において,水素イオン(H+)を放出したり,電子対を受け取って反応を促進させる物質です。
  3. 3.
    チタニア
    豊富,かつ入手が容易で安価なチタン酸化物
  4. 4.
    フリーデルクラフツアルキル化反応
    芳香環に対してアルキル基が求電子置換する反応のこと。

本事業の発表先

「Journal of the American Chemical Society」
論文タイトル"Protonated Titanate Nanotubes as Solid Acid Catalyst"
著者 Masaaki Kitano‚ Kiyotaka Nakajima‚ Junko N. Kondo‚ Shigenobu Hayashi‚ and Michikazu Hara

  • 図1.チタニアナノチューブの透過電子顕微鏡写真

    図1.チタニアナノチューブの透過電子顕微鏡写真

  • 図2.様々な固体酸触媒を用いたフリーデルクラフツアルキル化反応の結果(室温条件)

図3.チタニアナノシートとチタニアナノチューブの構造模式図

図3.チタニアナノシートとチタニアナノチューブの構造模式図