研究

東工大ニュース

テラヘルツデバイス~世界で初めて室温電子デバイスから1テラヘルツを越える周波数の電波を発生

2010.06.22

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科 物理電子システム創造専攻の鈴木左文助教と浅田雅洋教授は,NTTフォトニクス研究所と共同で,1テラヘルツ(テラは10の12乗)の周波数を越える超高 周波電磁波を直接発生する室温電子デバイスの実現に世界で初めて成功した.この周波数は、光と電波の中間にあり,透過イメージングや高速大容量通信への応 用が期待されながらも、コンパクトな光源が無いため未開拓となっていた.この成果はテラヘルツ波の応用を広げる新しい光源として期待される.

研究の背景

 光と電波の中間にある,周波数が約0.1~10テラヘルツの電磁波領域はテラヘルツギャップと呼ばれ,光や電波の領域が光ファイバー通信や無線通信にそれ ぞれ使用されているのと対照的に,未開拓のまま残されていた.近年,この周波数帯がさまざまな用途に使えることが明らかになりつつある。
 たとえ ば,バイオテクノロジーへの応用では,テラヘルツ帯での透過イメージングを利用して、植物や食品の分析や,細胞観察,安全な医療診断などへの応用が期待さ れる.また,有機物質にはテラヘルツ帯で特有の吸収スペクトルを示すものが多く,薬物検査への利用が考えられる.実際,封筒の中に隠された禁止薬物や爆薬 を,開封せずにテラヘルツ光の透過によって発見・分析できることも示されている.空港などで着衣に隠された携帯品の検査への応用も始まっている.その他, いろいろな材料検査への応用も期待されている.通信の分野では,テラヘルツという超高周波を使うことにより,短距離ではあるが大容量の情報を短時間に伝送 する無線通信が期待されている.
 これらのさまざまな応用には,テラヘルツ波を発生するデバイスが必要不可欠である.このようなテラヘルツ光源デ バイスを目指して,電波の側からトランジスタやダイオードなどの電子デバイスの動作周波数を上昇させてテラヘルツを発生する研究や,光の側からレーザの周 波数を下げていく研究が盛んに行われている.しかし,室温で動作するコンパクトな半導体デバイスは未だに実現していなかった。電子デバイスでは,トランジ スタの周波数上昇が著しいが,まだ0.4テラヘルツ程度の発振の段階であり,レーザ側では,量子カスケードレーザが1.2テラヘルツまで降りてきている が,動作温度は最高でも-90℃前後であり室温動作は実現していない.

研究の成果

 今回,東京工業大学の研究グループは,微 細な半導体ナノ構造で生じる共鳴トンネルという現象を利用したダイオードを使ってテラヘルツ波デバイスを形成し,室温において1.04テラヘルツを約7マ イクロワットの出力で発生させることに成功した.以前このグループは,やはり同様の方法で0.34テラヘルツを発生させ,同時にその3倍の1.02テラヘ ルツを発生させる高調波発振という方法で,1テラヘルツを越える結果を得ていたが,これはテラヘルツ波だけを直接発生させるものではなく,出力も0.6マ イクロワットと小さく,応用には多くの問題があった.今回の成果は,テラヘルツ波のみを直接発生できる基本波発振とよばれるものであり,このような室温電 子デバイスは初めての実現となる.
 作製したデバイスは共鳴トンネルダイオード(RTD)を金属電極のスロットの中央に配置した構造で(図1), スロットの中にテラヘルツ電磁波が発生し,共鳴トンネルダイオードがこれを増幅・発振させスロットがアンテナとなって放射する.今回の成功は,この共鳴ト ンネルダイオード内に,電子がテラヘルツ波の周波数に追随して十分に高速で走れる構造を新たに導入して得られた.この方法により、1.04テラヘルツの単 一の基本波発振スペクトルが室温で実現した(図2).
 本研究成果は,平成22年9月5日~9日にローマで開催されるミリ波・赤外・テラヘルツ波国際会議(IRMMW-THz2010)で、また、国内では9月14日~17日に長崎で開催される応用物理学会講演会で発表の予定である.

図1 共鳴トンネルダイオード(RTD)によるテラヘルツ波発生デバイス.金属電極で囲まれたスロットアンテナの中央に,半導体微細構造で形成したRTDを配置し,テラヘルツ波を増幅・発振させスロットアンテナで放射させる.

図1 共鳴トンネルダイオード(RTD)によるテラヘルツ波発生デバイス.金属電極で囲まれたスロットアンテナの中央に,半導体微細構造で形成したRTDを配置し,テラヘルツ波を増幅・発振させスロットアンテナで放射させる.

図2 RTDからのテラヘルツ波スペクトル.1.04THzのみの単一スペクトルが室温で得られている.

図2 RTDからのテラヘルツ波スペクトル.1.04THzのみの単一スペクトルが室温で得られている.