研究

東工大ニュース

新開発の電子顕微鏡で結晶中のリチウム原子の撮像に成功

2010.06.28

要約

本学大学院理工学研究科・物性物理学専攻の高柳邦夫教授と大島義文助教、日本電子、理化学研究所の研究グループは、0.5オングストローム分解能電子顕微鏡R005によって、リチウムイオン電池の正極材にも使われるLiV2O4結晶内のリチウム原子を観察することに成功した(図1)。「リチウム原子列に小さく絞った電子プローブをあてて、リチウム原子を初めて見た。さらに数秒間隔での撮影も可能。その挙動をリアルタイムに直接観察できれば、例えばリチウムイオン電池の寿命を延ばすために役立つ」(大島助教)という。
詳細は2010年4月発行の論文誌「Journal of Electron Microscopy」に発表した。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

本学大学院理工学研究科・物性物理学専攻の高柳邦夫教授と大島義文助教、日本電子、理化学研究所の研究グループは、0.5オングストローム分解能電子顕微鏡R005によって、リチウムイオン電池の正極材にも使われるLiV2O4結 晶内のリチウム原子を観察することに成功した(図1)。「リチウム原子列に小さく絞った電子プローブをあてて、リチウム原子を初めて見た。さらに数秒間隔 での撮影も可能。その挙動をリアルタイムに直接観察できれば、例えばリチウムイオン電池の寿命を延ばすために役立つ」(大島助教)という。
詳細は2010年4月発行の論文誌「Journal of Electron Microscopy」に発表した。

この電子顕微鏡は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業CRESTの「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技 術」の「0.5Å分解能物質解析電子顕微鏡基盤技術の研究」〈Li原子をみる〉(平成16年度採択、以下では単にプロジェクトと略)として、東工大と日本 電子で共同開発された。開発目標を0.5オングストロームと定めたのは水素原子の半径に相当するからだ。リチウム原子は水素に次いで小さな原子。 リチウム、炭素、酸素原子の挙動観察が可能になったことは物質現象解明へむけた大きな一歩である。

レンズの収差を補正する補正器を新規に開発

開発した電子顕微鏡装置(図2)は、走査型透過電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡の双方の特徴を備える。上部の電子銃から発生した電子線を磁気レンズで絞って直 径0.5オングストローム以下の電子プローブをつくり、観察対象をスキャンして透過してくる電子を計測してリチウム原子像を得た。

分解能を上げるため、これまでに電子銃の加速電圧を上げることで電子の波長を短くすることが行われてきた。2000年頃には1000kVの電子銃が開発された が、高エネルギーの電子を試料に当てると破壊されるという問題があった。そこで、本プロジェクトは、分解能を上げるうえで大きな制約になっていた磁気レン ズの球面収差を取り除く方法を中心に検討した。

磁気レンズの収差を取り除く補正器として、既に6極子磁場レンズ(Roseが考案、Haiderが実用化)や、4極子-8極子磁場レンズ(Krivanekが開発、実用化)を使った例があったが、これらの方法では球面収差以外の収差が取れず、分解能が上がらなかった。

そこで本プロジェクトでは、日本電子の細川史生主幹研究員の発案で、非対称に配置された2つの12極子磁場レンズを使う補正器を開発した。「非対称にすることで球面収差だけでなくそれ以外の収差もほとんど無くすことができた」(高柳教授)そうだ。

電子銃などの要素技術も改良

さらに、新たに加速電圧300kVで、長時間安定な冷陰極型電界放射電子銃も開発した。「加速電圧300kVで0.5オングストロームの分解能を出すため、 開発に挑戦した」(高柳教授)。電子銃内部が複雑な形状をしているため、十分良い真空度が得られない点に問題があることを見出し、電界放射エミッター近傍 に排気速度が100倍高い非蒸発型ゲッターポンプ(NEG)を取り付けるなどの工夫から2×10-9Paの真空度を達成できたことが成功したポイントだっ たという。

さらに、試料保持装置の制御方法、透過像を記録するCCDカメラなどの改良や、装置全体を機械的振動や電気磁気ノイズから守るためのしゃ蔽技術の改善も行っているという。全体では4万点の部品を新規に設計したという。制御方法については既に特許も取得している。

図1 撮影に成功したLiV2O4結 晶の電子顕微鏡像。

図1 撮影に成功したLiV2O4結 晶の電子顕微鏡像。(a)、(b)が得られた画像情報であり、これを鮮明化したものが(c)。0.8ナノメートル間隔で2個のバナジウム原子が並んでお り、その内側に2個の酸素原子、さらにその内側にリチウム原子2個が並んでいる。(d)は、結晶の周期性(長周期から短周期までの情報がスポットで表現に されている)と、どのくらい細かい周期まで観察されているのか(分解能)を示すために作成した逆格子空間図。ここでは、LiV2O4結晶の構造を原子レベルで観察できるだけの分解能があることを確認した。

図2 撮影に使用した電子顕微鏡。

図2 撮影に使用した電子顕微鏡。上部は走査型(STEM)、下部は透過型(TEM)の特徴を備えている。