研究

東工大ニュース

リチウムイオン二次電池のユビキタス元素を用いた新規電極材を開発

2010.10.01

要約

東京工業大学の谷口泉准教授、ムクシナ・コナロバ(Muxina Konarova)博士研究員、邵斌(ショウヒン)院生らは、資源制約と安全性に問題があるコバルトを使わず、いつでもどこでもだれでもが入手できるユビキタス元素を用いてリチウムイオン二次電池正極材とその製造技術の開発に成功した。
 開発した材料は、ユビキタス元素である鉄(Fe)やケイ素(Si)を含んだケイ酸鉄リチウム(Li2FeSiO4)とリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の2種類で、それぞれ炭素の微粒子とのナノ複合化により高性能で安全な正極材を実現した。製造技術はこれらの前駆体を低温噴霧熱分解法により合成し、それにアセチレンブラックを添加、ボールミル処理を行い、その後4 時間という短い熱処理で合成する。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

ポイント

  • ユビキタス元素からなる新規正極材料の開発に成功。
  • 多様な正極材料の合成に対応できる省エネルギー型の新規製造技術を開発。

概要

  東京工業大学の谷口泉准教授、ムクシナ・コナロバ(Muxina Konarova)博士研究員、邵斌(ショウヒン)院生らは、資源制約と安全性に問題があるコバルトを使わず、いつでもどこでもだれでもが入手できるユビ キタス元素を用いてリチウムイオン二次電池正極材とその製造技術の開発に成功した。
 開発した材料は、ユビキタス元素である鉄(Fe)やケイ素(Si)を含んだケイ酸鉄リチウム(Li2FeSiO4)とリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の2種類で、それぞれ炭素の微粒子とのナノ複合化により高性能で安全な正極材を実現した。製造技術はこれらの前駆体を低温噴霧熱分解法により合成し、それにアセチレンブラックを添加、ボールミル処理を行い、その後4 時間という短い熱処理で合成する。
 これらの材料は電池特性に極めて優れており、Li2FeSiO4・炭素(C)で理論容量の87%以上、LiFePO4・C で理論容量の97%以上の放電容量を示す。さらにサイクル特性も極めて良好である。開発した材料はリチウムイオン二次電池の正極材料が抱えている資源確保、コスト、安全性の問題を解決するものである。さらに新規合成法の開発により、従来法に比べ1/2~1/4 という短い熱処理時間で目的物質の合成が可能である。
 これらの成果は、11月9日~11月11日に行われる第51回電池討論会、および11月30日~12月1日に行われる粉体工学会・2010年度秋期研究発表会にて発表予定である。

研究の背景

 リチウムイオン二次電池は1991 年に実用化されて以来、ほかの二次電池に比べ重量や体積当たりのエネルギー密度が圧倒的に高いため、携帯電話をはじめとする小型電子機器用の電源として 我々の身の回りに急速に普及してきた。最近では太陽光や風力発電により得られるクリーンエネルギーを安定供給するためのスマートグリッド用として、さらに は電気自動車やプラグインハイブリッド車に搭載する蓄電池としても注目されている。しかし、これら大型電力貯蔵用電源としてのリチウムイオン二次電池は従 来のものより、安価、安全かつ長寿命が求められている。
 この電池のキーとなる正極材料は現在もコバルト酸リチウムが主流であり、コスト、安全性、さらに最近では資源確保に大きな問題を抱えている。そこでコバルト(Co)の代替物質としてマンガン(Mn)を用いたLi とMn の複合酸化物(LiMn2O4)が登場しているが,高温(50~60℃)で充放電を繰り返したときの容量劣化が大きいという欠点がある。
 他の代替物質として最近注目されているのが、Fe あるいはFe とSi を使ったLiFePO4 およびLi2FeSiO4 である。これらの材料は、ユビキタス元素であるFe、Si、O を含んでいるため資源確保に問題がなく、化学的にも安定な物質であることが知られている。しかし、これらの材料は電子導電性とイオン導電性が極めて低いという問題があり、本格的な実用化には至っていない。

本研究で得られた結果・知見

 谷口准教授らは、前述の課題を材料の微細化とアセチレンブラックとの複合化を行うことで解決するとともに、従来の合成法よりも高温での熱処理時間を大幅に 短縮できる製造技術を開発した。すなわちマイクロ空間を利用した微粒子合成法の一つである噴霧熱分解法を用いて、400~500℃の温度でLiFePO4 およびLi2FeSiO4 の前駆物質をまず合成した。これにより組成が均一な1 マイクロメートル(μm)程度の固体粒子を得て、これをボールミルで粉砕、粉砕操作においてアセチレンブラックを添加することにより、カーボンと前駆体の 複合材料を作製した。さらに600~700℃で4 時間熱処理し、目的物質であるLiFePO4・C(図1)、およびLi2FeSiO4・Cのナノ複合体の合成に成功した。
 これらの材料を正極とし、負極に金属リチウムを用いた電池をCR2032 タイプのコインセルを用いて作製し、充放電試験を行った。その結果、LiFePO4・Cの場合、理論容量の97%以上の放電容量を示すとともに、図2 に示したように、100サイクル後においても放電容量の減少は見られなかった。さらに、10C(6 分間充電‐6 分間放電)の条件においても、初期放電容量は、理論容量の70%以上であった。
 また、Li2FeSiO4・Cの場合、理論容量の87%以上の初期放電容量を示すとともに、50 サイクル後においても放電容量の減少は、初期放電容量に対して2%未満であった。この他にも、次世代の高電位正極材料(作動電位:4.8V)として注目されているリン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)についても、同様な合成法でLiCoPO4・ 炭素ナノ複合体を合成したところ、85%以上の放電容量を示すとともに、高速充放電条件(6 分間充電‐6 分間放電)においても理論容量の74%以上の放電容量を示した。このように開発された製造技術は、他の次世代正極材料の高性能化を可能にする汎用性の高い 製造技術でもある。

今後の展開

 負極に金属リチウムを用いたコインセルによる電池性能評価ではあるが、Li2FeSiO4 およびLiFePO4 のいずれの場合も、優れた性能の電極材料の合成に成功したことは、リチウム二次電池の大型電力貯蔵電源への普及に大きく貢献すると予想される。特に、最 近、資源確保の問題が日本の政治判断をも歪めかねない状況の中で、ユビキタス元素からなる正極材料の開発は大きな成果と考えられる。
 また、リチウムイオン二次電池用正極材料の研究では,LiCoO2 やLiMn2O4 など比較的導電性の高い材料が先に研究され,今研究がすすめられているのは(希少金属の代替として)Li と遷移金属(Fe,Mn 等)のリン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩などであるが、これらはいずれも電子およびイオン導電性に問題があり、ほとんど実用化の目途は立っていない。今回開発 した製造技術は、これらの問題を解決することができる可能性のある技術であり、今後の新規材料開発においても大きな武器となることが予想される。

図 1 LiFePO4/C ナノ複合体材料

図 1 LiFePO4/C ナノ複合体材料

図2 LiFePO4/C ナノ複合体材料のサイクル特性

図2 LiFePO4/C ナノ複合体材料のサイクル特性