研究

東工大ニュース

地球中心部の物質を突き止める

2010.10.14

要約

 東京工業大学の広瀬敬教授と舘野繁彦特任助教、海洋研究開発機構の巽好幸プログラムディレクターらは、高輝度光科学研究センターの大石泰生主幹研究員と共同で、地球の最深部に存在する内核(固体コア)の物質が鉄の六方最密充填構造であることを突き止めた。同研究グループが開発した超高圧超高温発生技術を用いて金属鉄を内核の環境に相当する超高圧高温下に置き、大型放射光施設SPring-8の高輝度X線で結晶構造変化を調べたところ、六方最密充填構造が安定であることが初めて明らかになった。
 結晶構造の解明により、これまで困難であった地震学的観測の解釈も可能になる。コアの形成や進化に関する理解が今後飛躍的に進むと考えられる。
 この成果は15日発行の米科学誌「サイエンス」に掲載される。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

 東京工業大学の広瀬敬教授と舘野繁彦特任助教、海洋研究開発機構の巽好幸プログラムディレクターらは、高輝度光科学研究センターの大石 泰生主幹研究員と共同で、地球の最深部に存在する内核(固体コア)の物質が鉄の六方最密充填構造であることを突き止めた。同研究グループが開発した超高圧 超高温発生技術を用いて金属鉄を内核の環境に相当する超高圧高温下に置き、大型放射光施設SPring-8の高輝度X線で結晶構造変化を調べたところ、六 方最密充填構造が安定であることが初めて明らかになった。
 結晶構造の解明により、これまで困難であった地震学的観測の解釈も可能になる。コアの形成や進化に関する理解が今後飛躍的に進むと考えられる。
 この成果は15日発行の米科学誌「サイエンス」に掲載される。

研究の背景と経緯

 地球はその中心部に、半径3500km の金属核(コア)を持っている。コアは、内側の固体コア(内核)と外側の液体コア(外核)に分かれている。すなわち、内核は地球の最深部を構成し、その半 径は1200km である(ちなみに月の半径は約1700km)。これまでの研究から、内核は鉄を主成分とし5%程度のニッケルを含むと広く考えられている。
 内核には強い地震学的異方性(地震波速度や減衰率が伝播方向によって大きく異なること)が観測される。この異方性は内核の成長や内核内部のダイナミクス(動き)について重要な情報を含んでいるが、異方性を解釈するには内核物質(鉄)の結晶構造を決定する必要があった。
  地球の内部は高圧高温の世界である。中心部に位置する内核は、圧力330−364万気圧、温度5000ケルビン(K、絶対温度)以上の超高圧かつ超高温下 にあるとされる(温度に関しては5000~6000Kの範囲で不確かである)。そのような超高圧高温状態を実験室で実現することに、ごく最近まで世界の誰 も成功していなかった。そのため、高圧下で鉄の結晶構造を決定する試みは1950年頃から行われているが、内核の条件下で実験が行われたことはなかった。 これまでに、低圧の実験や理論計算によって、六方最密充填構造、体心立方構造、面心立方構造、斜方晶構造、ダブル六方最密充填構造など、実にさまざまな構 造が提案され(前者3つに関しては図1を参照)、大きな論争になっていた。
 本研究グループは、ダイヤモンドセルと呼ばれる装置を用いて(図 2)、これまで超高圧高温の発生に関する技術開発に精力的に取り組んできた。その結果、ごく最近になって、地球中心に至る超高圧高温の発生に成功した(本 年4月5日付け報道発表http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20100405/)。今回、 その技術を用いて、内核に相当する超高圧高温下で鉄の結晶構造を解明することに成功した。

研究成果

 SPring-8の高輝 度X線を用いて、377万気圧・5700Kまでの実験を行い、金属鉄の結晶構造変化を調べた。その結果、内核に相当する超高圧高温下では、六方最密充填構 造と呼ばれる、稠密な構造が安定であることが明らかになった(図3の状態図を参照)。また、内核にて観測される強い地震学的異方性(地震波速度や減衰率が 伝播方向によって大きく異なること)を説明するには、六方最密充填構造のc 軸(図1左に示した結晶構造中の黄色いボックスの縦の辺)が地球の回転軸に平行になるように、個々の鉄の結晶が配列している必要があることがわかった。

今後の展開

 今回の成果により、内核中で鉄の結晶が配列している様子が明らかになった。今後、金属の結晶がそのように配列するメカニズムを詳しく解明することにより、 内核の成長(外核の液体鉄が結晶化していく様子)や内核の内部のダイナミクス(たとえば、低温部でより多く結晶化した固体鉄が高温部へ移動する様子)があ きらかにされると期待される。
 また今回用いた実験技術を使って、コアの他の物性を調べることも重要である。液体金属鉄の密度、粘性、電気伝導度、熱伝導率などをあきらかにすることにより、外核の化学組成(さらには地球の起源物質や誕生メカニズム)、地球磁場の生成メカニズムが解明されるだろう。

図1.過去に提案された鉄の結晶構造。黄色いボックスは単位格子(最小の繰り返し構造単位)を示す。

図1.過去に提案された鉄の結晶構造。黄色いボックスは単位格子(最小の繰り返し構造単位)を示す。

図2.超高圧発生用ダイヤモンドアンビル。試料を二つのダイヤの間に挟み、300万気圧以上へ加圧する。

図2.超高圧発生用ダイヤモンドアンビル。試料を二つのダイヤの間に挟み、300万気圧以上へ加圧する。

図3.高圧高温下における鉄の結晶構造変化(状態図)。geotherm、地球内部の温度プロファイル;hcp、六方最密充填構造;fcc、面心立方構造;bcc、体心立方構造;Liq、液相。

図3.高圧高温下における鉄の結晶構造変化(状態図)。geotherm、地球内部の温度プロファイル;hcp、六方最密充填構造;fcc、面心立方構造;bcc、体心立方構造;Liq、液相。