研究

東工大ニュース

様々な環状高分子の自在な合成に成功

2010.11.02

要約

東京工業大学大学院理工学研究科の菅井直人(修士2年生),平郡寛之(修士1年生),山本拓矢助教,手塚育志教授らの研究グループは,これまで困難とされてきた種々の含環状高分子(用語1, 図1)の選択的な合成に成功した.同研究グループで開発された単環状高分子合成プロセスであるElectrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation Process (ESA-CF法, 用語2) と有機合成化学の新手法であるクリックケミストリー(用語3)を組み合わせることで様々な「かたち」の自在な構築を達成した.本手法の開発により,近年注目を集めている「かたち」に基づいた高分子物性の探索を加速させるものと期待される.

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

 東京工業大学大学院理工学研究科の菅井直人(修士2年生),平郡寛之(修士1年生),山本拓矢助教,手塚育志教授らの研究グループは, これまで困難とされてきた種々の含環状高分子(用語1, 図1)の選択的な合成に成功した.同研究グループで開発された単環状高分子合成プロセスであるElectrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation Process (ESA-CF法, 用語2) と有機合成化学の新手法であるクリックケミストリー(用語3)を組み合わせることで様々な「かたち」の自在な構築を達成した.本手法の開発により,近年注 目を集めている「かたち」に基づいた高分子物性の探索を加速させるものと期待される.
 この成果は,米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」Volume 132‚ Issue 42‚ pp. 14790-14802 (2010) に掲載され,同誌のCover Art(表紙, 図2)として採用された.

背景と経緯

 近年,高分子の「かたち」への注目が高 まっている.特に環構造を持つ高分子は,非線形のナノ材料や生体システムに学んだ機能性材料への応用が期待されており,これまでに同研究グループは環状高 分子が形成するミセルは優れた耐熱性を示すことを報告している.そこで,高分子の構造と機能の関係を探る上で,より複雑な「かたち」を持つ高分子の合成が 必要になるが,選択的な合成法はほとんど報告されていなかった.
 そこで同研究グループは,個別に合成したシンプルな単環構造を有する高分子同士の結合により複雑な含環状高分子を合成することを発案した.

研究成果

 まず,特定の重合開始剤から直鎖状高分子を合成し,ESA-CF法を適用することでクリックケミストリーに用いる官能基を持った単環状高分子を合成した (図3).続いて,環状高分子同士,または環状高分子と鎖状高分子を,銅触媒存在下,室温で撹拌するだけという温和な反応条件でクリックケミストリーを行 い,二環パドル型,三環パドル型,三環スピロ型,四環スピロ型と呼ばれる一連の含環状高分子の選択的な合成を達成した(図1a‚ b‚ c‚ d).さらに,同手法を発展させ多環直列型高分子,直鎖型およびネットワーク型トポロジカルブロック交互共重合体と呼ばれる高分子の効率的な合成にも成功 した(図1 e‚ f‚ g).反応の進行と合成の確認は,化学構造(1H-NMR),分子量(SEC),末端官能基(IR)および絶対分子量(MALDI- TOF MASS)の測定により確認した.

研究の今後の展開・波及効果

 今回開発された手法により環状・鎖状高分子の自在な結合が可能となり,複雑な含環状高分子合成が実現できる.この成果は,「かたち」に基づいた新物性の創出につながり,新奇機能性高分子材料開発の基礎技術となることが期待される.

用語説明

  1. (1)
    含環状高分子
    環状部位を有する高分子.一般的な高分子は,鎖状または分岐状部位のみから形成される.そのため,含環状高分子の物性は一般的な高分子とは大きく異なる.
  2. (2)
    ESA-CF法
    末端にカチオン性官能基を有する鎖状高分子と多価アニオンとの静電相互作用による自己組織化を利用し,環状高分子を選択的に合成する手法.
  3. (3)
    クリックケミストリー
    温和な条件で選択的かつ高効率に進行する交差反応.代表的な例として,本研究でも用いたアルキン-アジド間のHuisgen反応が挙げられる.

図1. クリックケミストリーを用いた含環状高分子構築の模式図

図1. クリックケミストリーを用いた含環状高分子構築の模式図

図2. 本研究内容が採用されたJournal of the American Chemical Society誌の表紙

図2. 本研究内容が採用されたJournal of the American Chemical Society誌の表紙

図3. ESA-CF法の模式

図3. ESA-CF法の模式