研究

東工大ニュース

島弧の火山フロントに噴出する玄武岩マグマが水に富む 伊豆大島火山の噴出物分析で新知見

2011.06.30

要約

要点

  • 斜長石に含まれる微量の水素含有量の分析によって従来の定説覆す。
  • 島弧でのマグマの成因や地表と地球内部の水循環に関する基礎的知見を提供。
  • 有効な火山防災対策を講じるうえで重要な情報。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

 東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻の浜田盛久特任助教らは、日本列島のような島弧(用語1)と呼ばれる場所の火山フロント(用語2)に噴出する玄武岩マグマが最大6重量%程度の水を含み、水に飽和しながら噴火に至る様子を火山岩の分析から明らかにした。今後予想される伊豆大島噴火に備えて、有効な防災対策を講じる上で重要な成果である。
 分析に用いた試料は1986-87年の伊豆大島山頂噴火の際に噴出した火山岩に含まれる斜長石(用語3)という一般的な鉱物。斜長石は化学組成としては水を含まない「無水鉱物」だが、数百ppm程度の微量の水をOH基として含み、メルト(用語4)の含水量の指標として用いることができる。
 浜田特任助教らは、伊豆大島火山の斜長石が最大で300重量ppmH20のOHを含むことを明らかにするとともに、マグマが、地下10kmにあるマグマ溜まりから火口部まで水に飽和していることを明らかにした。これらの知見は、伊豆大島火山のマグマが島弧マグマとしては比較的水に乏しいと考えられてきた従来の研究とは対照的な研究成果である。

研究成果

 東工大の浜田盛久特任助教は、京都大学の川本竜彦助教、東工大高橋栄一教授、東京大学の藤井敏嗣名誉教授とともに、日本列島のような島弧の火山フロントに噴出する玄武岩に含まれる斜長石の微量のOH量を調べ、最大で300重量ppmH2O、最低で20重量ppmH2Oの幅広いOH含有量を示すことを明らかにした。このことから、マグマが最大で6重量%程度も水を含んでおり、水に飽和しながら噴火に至る様子を明らかにした。
 地表のマグマには水が溶解しないが、深度(圧力)に比例して水が溶解する。マグマは地下10kmにあるマグマ溜まりから火口部まで一貫して水に飽和しており、地表付近では無水に近いが、地下10kmのマグマ溜まりでの含水量は飽和含水量である6重量%程度に達することを突き止めた。これらの知見は伊豆大島火山のマグマが島弧マグマとしては比較的水に乏しい(約1重量%程度の水を含む)と考えられてきた従来の研究とは対照的な成果だ。斜長石のOH含有量はマグマ溜まりで6重量%程度の水を含むメルトの情報を記憶している直接的な証拠である可能性が濃厚である。
 この成果は欧州科学雑誌「Earth and Planetary Science Letters」(電子版)に掲載された。

背景と経緯

 島弧においては、海洋プレートの沈み込みによって、マントルに水が運ばれる。従って、マントルが融解して生じる島弧のマグマは水を含む。しかし、水は揮発性成分であるため、マグマの含水量を直接分析することはこれまで困難だった。
 斑晶ガラス包有物(用語5)は、マグマの中で鉱物が晶出した際にメルトを結晶内に取り込んで急冷・ガラス化したものであり、メルトの含水量の情報をもたらすと期待されている天然試料である。しかし、伊豆大島火山などから採取されたメルト包有物の含水量は1~2重量%程度で、実験によって求められた含水量よりもはるかに低いため、水などの揮発性成分は一部逃げ出している可能性が考えられていた。
 斜長石は無水鉱物だが、数百ppm程度の微量の水素をOH基として含み、メルトの含水量の指標として使えることが最近明らかになってきた。ただし、これまで鉱物中のOH量からメルトに溶けている水の量を推定したり、火山噴火の際のマグマ中の水の挙動を調べたりすることは一般的な研究手法ではなかった。浜田特任助教らは、鉱物中の微量のOH量を分析することにより、従来用いられてきた斑晶ガラス包有物の含水量の分析では分からなかったマグマの含水量についての再検討を試みた。

今後の展開

 伊豆大島火山は、20世紀に1912~14年、1950~51年、1986~87年の3回も噴火した活動的な火山である。現在、伊豆大島火山にではマグマが蓄積されつつあり、近い将来、噴火する可能性が高くなっている。マグマ中の水は、マグマが地表に上がってくるとマグマから逃げ出し、発泡するので、爆発的噴火の引き金となる可能性がある。従来想定されていたよりもマグマの含水量が高いということは、過去の山頂噴火で繰り返されてきたストロンボリ式噴火(注6)以上の大規模で爆発的な噴火を起こす可能性も否定はできないことを意味する。伊豆大島火山は、東京から100kmの距離にあり、航空機の航路上に位置する火山でもあることから、噴火がもたらす首都圏への被害は小さくないと予想される。今回明らかになった伊豆大島火山の1986~87年噴火の際のマグマの含水量や、マグマの挙動に関する新しい知見は、今後の伊豆大島火山の火山防災対策を立てる上で基礎的かつ重要な情報を与える。

用語説明

  1. (1)
    島弧
    海洋プレートが大陸プレートに沈み込む境界の陸側に発達する弧状の列島
  2. (2)
    火山フロント
    島弧に沿う火山分布域の海溝寄りの境界。
  3. (3)
    斜長石
    化学組成は、NaAlSi3O8(アルバイト)からCaAl2Si2O8(アノーサイト)まで連続的に変化する。伊豆大島火山の斜長石は、アノーサイト成分が90%程度のCa(カルシウム)に富む組成をもつ。
  4. (4)
    メルト
    マグマの液体部分。
  5. (5)
    斑晶ガラス包有物
    鉱物中に取り込まれたメルトが冷えてガラス化したもの。
  6. (6)
    ストロンボリ式噴火
    間欠的に溶岩噴泉を噴きあげるタイプの噴火。

本件に関するお問い合せ先
浜田 盛久
大学院理工学研究科 地球惑星科学専攻 特任教授
電話: 03-5734-3636   FAX: 03-5734-3636
E-mail: hamada@geo.titech.ac.jp