研究

東工大ニュース

ゲルマニウム酸化物の透明電子伝導体を実現

2011.09.14

要約

 東京工業大学フロンティア研究機構の細野秀雄教授(応用セラミックス研究所兼任)、溝口拓特任准教授、及び応用セラミックス研究所の神谷利夫教授、松石聡助教は、SrGeO3(ゲルマン酸ストロンチウム)の組成からなる新しいタイプの透明電子伝導体を実現した。透明電子伝導性材料はフラットディスプレーをはじめ幅広い応用があり、現代社会において必須の機能材料となっている。一方、そのほとんどはインジウム、スズ、カドミウムなどの重金属を主成分とする酸化物であり、希少、高価、かつ毒性を持つものが多いというのが現状である。そこでより軽元素を主成分とする代替材料が待望されていた。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

 東京工業大学フロンティア研究機構の細野秀雄教授(応用セラミックス研究所兼任)、溝口拓特任准教授、及び応用セラミックス研究所の神谷利夫教授、松石聡助教は、SrGeO3(ゲ ルマン酸ストロンチウム)の組成からなる新しいタイプの透明電子伝導体を実現した。透明電子伝導性材料はフラットディスプレーをはじめ幅広い応用があり、 現代社会において必須の機能材料となっている。一方、そのほとんどはインジウム、スズ、カドミウムなどの重金属を主成分とする酸化物であり、希少、高価、 かつ毒性を持つものが多いというのが現状である。そこでより軽元素を主成分とする代替材料が待望されていた。本研究グループでは典型的な絶縁体として認識 されているゲルマニウム系酸化物(光ファイバーのガラスの原料に用いられている典型的な絶縁体)に注目し、高圧合成法を駆使することにより透明で比較的高 い電気伝導度を持つSrGeO3の開発に成功した。高圧下で合成されたSrGeO3は結晶構造中に、GeO6八 面体を構成単位として含んでおり、これが高電子伝導性を発現させる鍵となっている。現状での直流電気伝導度は3S/cm程度であるものの、粒界の絶縁層の 影響を除去すれば、2桁以上の向上が見込まれており、今後の展開が期待される。これまで、絶縁性材料の代表的物質の一つであったゲルマニウム酸化物も、き め細かな原子レベルからの材料設計により、透明電子伝導物性が発現できたわけで、この設計法を発展させることにより、よりありふれた酸化物でTCOを発現 させる可能性が出てきた。

 本研究成果は、平成23年9月14日にNature Communicationsに掲載される。

背景

 可視光域に透明で、かつ高い電気伝導性を併せ持つ材料は現代社会において極めて有用なものとなっている。このような物性は特異であり、既知材料は、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)のような酸化物群に限られている。これら材料は透明電子伝導性酸化物(TCO、用語解説1)と呼ばれ、その応用例は極めて広範である。例えば、フラットパネルディスプレイや太陽電池の電極(In2O3:Sn (ITO)など)、熱線反射によりエネルギー効率に優れた窓作成のためのコーティング材(SnO2:F など)がある。しかしながら、これらを構成する元素の代表であるインジウムは、中国からの輸入にほぼ依存しており、また、その毒性の健康に与える影響も、 近年耳目を集めつつある。このような状況下で、さらなる安価、かつ安全な元素を用いたTCO材料の開発が緊急の課題となってきた。既存のTCOになりうる 陽イオンを、図1の周期表に示す。使用可能な陽イオンと不適(絶縁性にしかならない)なものとの間に、明瞭な境界線が存在する。
 細野グル-プは、この境界線を越えるべく、ゲルマニウムの酸化物に着目した。イオン結合性の強いインジウムやスズの酸化物と比べ、ゲルマニウムの酸化物 は強い共有結合性を有している。通常、この強い共有結合は酸化物半導体におけるバンドギャップ(Eg、用語解説2)を大きくし、絶縁性となる。(IT社会 を支える、究極の透明性を誇る光ファイバーには、SiO2-GeO2系ガラスという大きなバンドギャップを 持つ材料が用いられている。)しかしながら、この固体中での化学結合は、結晶構造(元素の並び方)を適度に組み替えることにより、その強弱を調節可能であ ることに、注目し物質探索を進めた。その結果、ペロブスカイト型(用語解説3)SrGeO3(高圧相)に関する研究に到達した。

研究の内容

 物質を構成する元素の酸化物をそれぞれ出発原料として、SrGeO3(低圧相(常圧))を合成し、それを高温高圧処理(1100℃, 5.5GPa(約55,000気圧))することにより目的物質を合成した。作製した物質について、粉末X線回折により結晶構造がペロブスカイト型SrGeO3(高圧相)となったことを確認した。光学測定(反射、及びエリプソメトリー)から、白色(可視光を吸収しない)の本物質はEg=3.5eVの半導体(用語解説4)であることを確認した。(図2の写真参照)結晶中のSr2+位置を少量のLa3+で 置換し、電子をドーピングすると、青黒色に変化し、電気伝導度3S/cmの電子電導性を発現した。(図2)反射測定から、0.5eVに反射端(プラズマ反 射(用語解説5))が検出され、自由電子の存在を確認した。光学電導度(光学的に測定される物質本来の電導度)は400S/cmと計算され、直流伝導度の 値は、粒界絶縁層の存在により低下していることがわかった。すなわち、粒界を含まない状態(単結晶や単結晶薄膜)にすれば、2ケタ以上の電導度増加が見込 まれている。
 SrGeO3の結晶構造は低圧(常圧)ではGeO4正四面体(Geを中心にOが正四面体の頂点を占める)により構成され(Eg=5eV以上)、これが高圧処理を行うことによりGeO6正 八面体(Geを中心にOが正八面体の頂点を占める)により構成されるペロブスカイト型に変化する。固体の電子状態計算によれば、高圧型結晶におけるGeと Oの間の化学結合の電子状態は典型的な透明電子伝導体のものであることが明瞭に示唆されている。本物質は、高圧合成で得られるにもかかわらず、室温、大気 下で十分に安定である点も特記されるべき点である。

今後の展望

 本研究において発見された高圧型SrGeO3は、ゲルマニウム酸化物という従来の常識では絶縁体しか考えられなかった物質を透明 電導体にした、という意味で特に注目される。本研究は高圧合成法よりこれを得たものであるが、薄膜合成プロセスの適用により、高圧相の安定化が実現される ことは多くの物質でよく知られており、本物質も薄膜化による透明導電膜としての利用が期待されている。本研究で行ったような固体の電子構造に基づく材料設 計手法を、高圧処理などの極限的実験手法と組み合わせることにより、さらに高い電気伝導度を有する軽元素化された透明電子伝導材料を開発すること、またさ らに進めて他の機能材料開発へも適応することにより、優れた材料の創出が加速されるものと考えられる。


本成果は最先端研究開発支援(FIRST)プログラム「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」(中心研究者:細野秀雄)によって実施されました。

論文名: A germinate transparent conductive oxide
掲載誌名: Nature Communications
著者: 溝口拓、神谷利夫、松石聡、細野秀雄

用語解説

  1. 1.
    透明電子伝導体(透明電導体)
    可視光域での透明性かつ電気伝導性を併せ持つ材料。ディスプレイなどオプトエレクトロニクスに必須の材料である。可視光は色により3eVから1eV程度 (eVは光学や半導体の分野で多用されるエネルギーの単位で1eV=96kJ/molである)のエネルギーを持つ電磁波である。物質による光の吸収は光エ ネルギーが物質中の電子に与えられることに対応する。光エネルギーがバンドギャップ(2項参照)よりも大きければ光は電子に吸収され、透明にはならない。 従って全可視光に対して透明である物質の条件は3eV以上のバンドギャップを持つことである。一方、電気伝導を起こすための電子は熱エネルギーにより生じ るが、3eVのエネルギー差を超えて電子を励起する(価電子帯から伝導帯へエネルギーを高める)のは困難であり、また金属のように極めて多量の電導電子 (自由電子)を含む物質ではプラズマ反射(5項参照)により、光は物質を透過できない。ここに透明電子伝導体の特殊性がある。すなわち、透明電導体とする には3eV以上のバンドギャップに加えて、金属よりは低濃度であって、しかし十分な電導電子(通常1020-1021個/cm3) を持ち、それを補う電子の動きやすさ(移動度と呼ぶ。電気伝導度は電導電子濃度と移動度の積である。)を備えた物質が必要である。電導電子の供給は不純物 添加によりなされる。よって透明電導体は3eV以上のバンドギャップ、高い移動度、不純物添加により電導電子生成が可能な材料ということができる。
  2. 2.
    バンドギャップ
    物質中の電子が持つエネルギーは量子力学的表現によれば離散的とされている。すなわち、持ち得るエネルギーと持ちえないエネルギーがある。(これに対し 実生活空間での車の加速による運動エネルギーは連続的に上昇変化する。すなわちエネルギーは連続的となる。)持ち得るエネルギー間をギャップと呼ぶ。無数 の原子の集合体である固体では持ち得るエネルギーに幅が生じこれを帯(バンド)と表現する。固体中で電子が占有している最高のエネルギー帯を価電子帯、そ れより上の電子が占有していないエネルギー帯を伝導帯と呼んでいる。価電子帯と伝導帯との間の電子が占有できないエネルギー帯がバンドギャップである。そ のエネルギー差(伝導帯の最低エネルギー-価電子帯の最高エネルギー)をエネルギーギャップと呼びEgで表現する。絶縁体や半導体では0K(絶対0 度=-273℃)において価電子帯に電子が充満し、伝導帯では電子が存在しない。すなわちバンドギャップにより電子の存在が分けられている。一方金属では 0Kでも価電子帯は充満されておらず、バンドギャップが存在しない。
  3. 3.
    ペロブスカイト型結晶構造
    一般式ABO3で表わされる組成を有し、代表的な結晶構造の1つ。強誘電体として知られるBaTiO3やPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)はこの構造を持つ代表例である。
  4. 4.
    半導体
    半導体とは、バンドギャップ(Eg)(2項参照)を有し、高温になるほど電気伝導性が増加する物質である。その電気伝導度は、高い電気伝導度を有する金 属と絶縁体の中間に位置するゆえ、この名がある。Egよりも高い電子占有が可能なエネルギー領域、低い領域をそれぞれ、伝導帯、価電子帯と呼ぶ。絶対 0K(=-273℃)では物質中の電子はすべて価電子帯を占め、伝導帯は空となる。温度が上昇することにより伝導帯中の電子、あるいは価電子帯中のホール が生じ、電気伝導性が高くなる。不純物添加により伝導帯に電子を入れた場合には、電子が電気を流す役割を演じ、電子伝導性のn型半導体に、価電子帯にホー ルを入れた場合には、ホールが電気を流す役割を演じるp型半導体になる。n型、p型のいろいろな組み合わせにより、トランジスタなどの電子デバイスが作ら れている。
  5. 5.
    プラズマ反射
    固体中の自由電子は、入射した光と相互作用し、閾値(プラズマ周波数)よりも小さなエネルギ-を有する光子を反射する。このプラズマ周波数は、自由電子の量に比例して変化する。金属は多量の自由電子を含み、可視光を全反射してしまうため金属光沢をもつ。

図.1  これまで知られているTCOに用いられる元素を、周期表に青色で示す。SrGeO3(高圧相)の結晶構造。

図.1 これまで知られているTCOに用いられる元素を、周期表に青色で示す。SrGeO3(高圧相)の結晶構造。

図.2  SrGeO3(高圧相)の写真、及びLa置換したサンプルの電気伝導度の温度依存性

図.2 SrGeO3(高圧相)の写真、及びLa置換したサンプルの電気伝導度の温度依存性