研究

東工大ニュース

タンザニア北部にシーラカンスの繁殖集団を発見

2011.10.21

要約

東京工業大学生命理工学研究科の岡田典弘教授と二階堂雅人助教らの研究グループは、ミトコンドリアDNA 配列の解析により、タンザニア北部沿岸域に生息するシーラカンスが、他の地域のものとは遺伝的に分化した独自の繁殖集団を形成していることを明らかにした。これまで、南インド洋におけるシーラカンスの繁殖集団はコモロ諸島にのみ存在し、アフリカ大陸沿岸で発見されてきたシーラカンスは、大陸に沿って北上もしくは南下する強い海流に乗ってコモロ諸島からやってきた「迷子」だと考えられてきた。しかし、今回の研究で、タンザニア北部沿岸のシーラカンスはコモロ諸島のものとは少なくとも20万年以上前にはすでに分岐していることが分った。この発見は、希少種シーラカンスを絶滅から救うための保全活動の重要な一歩となる。本研究の成果は米国科学アカデミー紀要10 月24 日号に掲載される。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

東京工業大学生命理工学研究科の岡田典弘教授と二階堂雅人助教らの研究グループは、ミトコンドリアDNA 配列の解析により、タンザニア北部沿岸域に生息するシーラカンスが、他の地域のものとは遺伝的に分化した独自の繁殖集団を形成していることを明らかにし た。これまで、南インド洋におけるシーラカンスの繁殖集団はコモロ諸島にのみ存在し、アフリカ大陸沿岸で発見されてきたシーラカンスは、大陸に沿って北上 もしくは南下する強い海流に乗ってコモロ諸島からやってきた「迷子」だと考えられてきた。しかし、今回の研究で、タンザニア北部沿岸のシーラカンスはコモ ロ諸島のものとは少なくとも20万年以上前にはすでに分岐していることが分った。この発見は、希少種シーラカンスを絶滅から救うための保全活動の重要な一 歩となる。本研究の成果は米国科学アカデミー紀要10 月24 日号に掲載される。

研究の背景と経緯

シーラカンス 1 は1938 年に南アフリカのカルムナ川河口において世界で初めて生存個体の存 在が確認され数多くの研究者が注目してきたが、その営巣地については長い間議論が続いてきた。 このシーラカンスを新種として記載したJLB. Smith は、2 体目のシーラカンスが見つかったコモロ諸 島に繁殖集団が存在すると結論付け、それ以外の場所で稀に発見されるシーラカンスについては、 強い海流に流されて漂着してきた「迷子」に過ぎないと考えていた。つまり、コモロ諸島からアフリカ 大陸に向けては強い南赤道海流が存在し、さらに大陸に沿ってモザンビーク海流が南下、東アフリ カ沿岸海流が北上しているため(図1)、泳ぎの不得意なシーラカンスが稀にコモロ諸島からアフリ カ大陸沿岸各地に向けて流されてしまったのではないかと考えたのである。 ところが、2003 年頃からタンザニア北部沿岸域で漁師によるシーラカンスの混獲が相次ぎ、こ の地域にもシーラカンスが多数生息しているのではないかとの疑問があがった。そこで、アクアマリ ンふくしまのチームがROV 2 を用いてこの海底域を探索したところ、8頭のシーラカンスが洞窟内で 泳いでいる姿が確認された。これで、タンザニア北部にも大きなシーラカンスの集団が存在している 可能性が大きくなったため、我々は漁師によって混獲されたシーラカンスのミトコンドリアDNA 配列 をコモロ諸島のものと比較することで、実際にタンザニア北部沿岸域のシーラカンスが、コモロ諸島 からやってきた「迷子」なのか、それとも遺伝的に分化した独自の繁殖集団であるのかを分子レベ ルで見極めようと考えた。

研究成果

我々は2003年から2008年にかけてタンザニア漁師によって混獲された計23個体のシーラカンスに加え、コモロ産シーラカンス2個体分の筋肉標本から DNAを抽出し、そのミトコンドリアゲノム全長DNA 配列を決定した。そして、それらを既に報告されているコモロ産シーラカンス38個体分のDNA配列と合わせて集団遺伝学的な手法を用いて解析した(図 2)。解読には、ミトコンドリア全長配列の中から特に集団間の分化を調べるのに有用なd-loop3と呼ばれる領域を用いた。その結果、タンザニア北部沿 岸域に生息するシーラカンス集団が、コモロ諸島のものとは遺伝的に分化していることが統計的に有意に示された。さらに、この2集団の分岐年代を推定したと ころ、もっとも少なく 見積もっても20万年前には既に集団が分かれていたことが明らかとなった。これまで考えられてきたように、タンザニア北部のシーラカンスがコモロ諸島から 漂着してきた個体であると仮定すると、このような遺伝的な分化は観察されないはずである。つまり本研究によって、タンザニア北部に生息するシーラカンスは 単なるコモロ諸島からの迷子集団ではなく、独自にそこを営巣地とする繁殖集団であるとする新たな知見を示すことができたといえる。これは、タンザニア北部 のシーラカンス集団をより積極的に保全の対象とするための非常に重要な知見である。

人への応用は今後の課題ではありますが、本研究が進展して温熱療法とPDT の両方の欠点を補完する、侵襲性が低く効果の高い治療法開発につながるよう、ALA 研究に一層努力してまいります。また、ALA の研究成果と最新情報は、ALAplus 研究所(URL:http://www.ala-plus.jp/)からも発信してまいります。

図1.これまでにシーラカンスが捕獲された地点とその年代。矢印は西インド洋における海流を表している。

図2.ミトコンドリアd-loop領域のハプロタイプネットワークツリー。青と緑で示されているのがタンザニア沿岸のシーラカンス。

今後の展開

我々のグループの研究結果を受けて、タンザニア政府は北部沿岸の約30km に渡って、広大なマリンパークを新設することを決定し(シーラカンスマリンパーク)、現在その建設が段階的に始められている。また、それと同時にケニアと の国境までのさらに北側25km の沿岸域には生態系保護区(タンガ・マリンリザーブ)が設定された。この設立の主な目的は、インド洋に面するタンザニア 沿岸の生態系を保全することで、そこに生息するシーラカンスや沿岸魚種を絶滅から守ることである。今後は、タンザニア水産研究所と協力して、保護区域に生 息する魚種に対して遺伝的多様性のモニタリングを進め、シーラカンスを含めたタンザニア沿岸域の海洋環境の保全に向けた取り組 みを推進して行く予定である。

用語解説

  1. (1)
    シーラカンス
    古生代デボン紀に出現したシーラカンス目に属する魚類の総称で、6500 万年前には絶滅したと考えられていたが、その生きた個体が1938 年に発見され、世界中にセンセーションを巻き起こした。現生種の形態が化石種のものと殆ど変わらないことから「生きた化石」と呼ばれている。1938年に おける生きたシーラカンスの発見は、生物学における20 世紀最大の発見と言われている。
  2. (2)
    ROV
    遠隔操作による水中探査機。アクアマリンふくしまのグループは過去にROVを用いて数多くのシーラカンスの撮影をおこなってきた。2009年には世界で初めてシーラカンス稚魚の撮影にも成功している。
  3. (3)
    d-loop
    ミトコンドリア遺伝子の中でもタンパク質をコードせずもっとも塩基置換速度が速いため、近縁な集団間の分化を調べる際にしばしば用いられる約1000 塩基からなる領域。

研究グループ この研究は東京工業大学生命理工学研究科の岡田典弘、二階堂雅人、佐々木剛(現・東京農業大学)、相原光人、アクアマリンふくしまの安部義孝、岩田雅光、 タンザニア水産研究所のSemvua Mzighani、Yohana Budeba、Benjamin Ngatunga、カリフォルニア大のJ Emerson、シカゴ大のWen-Hsiung Li によっておこなわれた。

研究サポート この研究は日本学術振興会アジアアフリカ学術基盤形成事業「シーラカンスを中心とした、タンザニア水域重要魚種の保全研究」(代表:岡田典弘)の支援を受けて進められた。