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DNA やタンパク質をモデルとするプログラムされた合成高分子の折りたたみによる多環多重縮合トポロジーの構築に成功

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公開日:2011.12.16

要約

東京工業大学大学院理工学研究科の菅井直人氏(博士1年生)、平郡寛之氏(修士2年生)、山本拓矢助教、手塚育志教授らの研究グループは、合成高分子のプログラムされた折りたたみによる多環多重縮合構造(図1)の構築に成功した。まず、同研究グループで開発された単環状高分子合成プロセスであるElectrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation Process(ESA-CF 法、用語1)と高効率のクロスカップリング反応として知られるクリックケミストリー(用語2)を組み合わせて多環状高分子を合成した。さらに、分子内オレフィンメタセシス(用語3)によりこれらを折りたたむことで多環縮合型高分子の選択的合成を達成した。本研究は、環状のタンパク質やDNA などのフォールディング機構の解明につながると期待される。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の菅井直人氏(博士1年生)、平郡寛之氏(修士2年生)、山本拓矢助教、手塚育志教授らの研究グループは、合成高分 子のプログラムされた折りたたみによる多環多重縮合構造(図1)の構築に成功した。まず、同研究グループで開発された単環状高分子合成プロセスである Electrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation Process(ESA-CF 法、用語1)と高効率のクロスカップリング反応として知られるクリックケミストリー(用語2)を組み合わせて多環状高分子を合成した。さらに、分子内オレ フィンメタセシス(用語3)によりこれらを折りたたむことで多環縮合型高分子の選択的合成を達成した。本研究は、環状のタンパク質やDNA などのフォールディング機構の解明につながると期待される。この成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」Volume 133, Issue 49, pp. 19694-19697 (2011) に掲載された。

研究背景

 DNAやタンパク質に代表される生体高分子に見られる、長いひも状高分子のプログラムされた折りたたみによる高次構造形成は、生命活動の重要な役割を担 うことから注目を集めてきた.しかしこのようなプログラムされた折りたたみを合成高分子により再現することは、高分子の特定の位置に特定の官能基を自在に 組み込む技術が必要とされることからこれまで実現することができなかった。同研究グループは,合成高分子によるプログラムされた折りたたみ構造の構築を目 的として、高分子間クリック反応により合成した多環状高分子を、高分子内クリップ反応により折りたたむ選択的な合成経路を発案した。

研究成果

 まず、ESA-CF法を用いてクリックケミストリー、オレフィンメタセシスに必要な官能基を有する単環状高分子を合成した(図2,Ia~Ic)。続い て、単環状高分子と直鎖状高分子、または単環状高分子同士を、銅触媒を利用したクリックケミストリーにより2か所にオレフィンを有する二環パドル型(図 2IIa)および三環スピロ型高分子(図2IIb)を合成した。このようにして得られた高分子を、ルテニウム触媒存在下、希釈条件で分子内オレフィンメタ セシスを行い、γ-graph型(図2III)、unfoldedtetrahedron型(図2IV)と呼ばれる構造の選択的構築に成功した。反応の進 行と合成の確認は、化学構造(1HNMR)、分子量(SEC)、末端官能基(IR)および絶対分子量(MALDI-TOF MS)の測定により行った。

研究の今後の展開・波及効果

 本研究により、ESA-CF法、クリックケミストリーおよびオレフィンメタセシスを組み合わせることでタンパク質を折りたたんだような多環縮合型構造の 選択的構築が可能となることが示された。この手法はさらに複雑な構造の構築にも有効であり、複数セグメントから成るブロック共重合体にも応用可能である。 従って本研究の成果は、「かたち」に基づいた新物性の創出による新奇機能性高分子材料の開発につながると期待される。

用語解説

  1. (1)
    ESA-CF 法
    末端にカチオン性官能基を有する直鎖状高分子と多価アニオンとの静電相互作用による自己組織化を利用し、環状高分子を選択的に合成する手法。
  2. (2)
    クリックケミストリー
    温和な条件で選択的かつ高効率に進行するクロスカップリング反応。代表的な例として、本研究で用いたアルキン-アジド間のHuisgen 反応が挙げられる。
  3. (3)
    オレフィンメタセシス
    C=C 不飽和結合の組み換え反応。2つの末端オレフィン間でこの反応が起こると、環状分子を形成し内部オレフィンが生成する。
  • 図.1 フォールディングによる多環縮合型高分子の合成

    図.1 フォールディングによる多環縮合型高分子の合成

  • 図.2 (a) 図2. ESA-CF 法,クリックケミストリー(Click)およびオレフィンメタセシス(Clip)を 用いた多環縮合型高分子構築の模式図

    図.2 (a) 図2. ESA-CF 法,クリックケミストリー(Click)およびオレフィンメタセシス(Clip)を 用いた多環縮合型高分子構築の模式図

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