研究

東工大ニュース

携帯電話による入試の不正行為を検出法を開発

2012.02.24

要約

携帯電話による入試の不正行為を検出法を開発

-模擬試験会場で電波発信源の高精度特定に成功-

要点

  • マルチセンサーシステムと機械学習システムで実現
  • 位置推定精度を従来の10倍に改善し座席の特定が可能に

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の荒木純道教授と阪口啓准教授らの研究グループは株式会社光電製作所(東京都大田区、加藤毅社長)と共同で、入学試験中に通信している携帯端末を座席レベルの精度で検出するシステムの開発に成功した。複数センサーを用いるマルチセンサー型位置推定システムに、統計的な機械学習(用語1)の手法を適用することで、端末の通信電波から伝搬路の特徴量を自動的に学習し、端末の位置を推定する。入試会場を模擬した実証実験で、平均位置推定誤差(用語2)0.5m以下の位置推定精度で、座席を特定できることを確認した。

室内での電波を利用した位置推定にはTDOA・RSSI(用語3)に基づく方法があるが、室内環境の伝搬路の複雑さや、その環境が時間変動することから、平均位置推定誤差が3m程度に留まっていた。開発したシステムは、既存手法に、端末から発信される制御信号を用いた伝搬路の統計的な学習法を加えており、位置推定精度を大幅に改善した。これにより携帯端末のリアルタイムで高精度な検出が可能となり、社会問題となっている入試での不正行為の抑止力につながると期待される。この成果は3月9日に開催される電子情報通信学会・ソフトウェア無線研究会で発表する予定である。

研究背景と経緯

入試において携帯電話など携帯端末を用いた不正行為が社会問題となっており、公正が期待される入試への信頼が大きく揺らいでいる。このような不正行為を防止する手段が模索されているが、法律や実用性および、技術などの面から現状では具体的かつ効果的な対策は見つかっておらず、試験監督を増員するなどに留まっている。先日の大学入試センター試験でも、携帯端末を用いた不正行為防止について有効な対策が存在しないことが話題になった。

研究成果

東工大と光電製作所は、入試などでの携帯電話を用いた不正行為検出システムを開発し、大学入試センター試験の会場となった教室を用いて、携帯端末の送信電波を利用した端末座席特定法に関する実証実験を行った。不正行為検出システムは実用面から、簡易な導入と高い位置推定精度および日常的に運用が行えるシステムが望まれる。同研究グループは普段、学生が使用している携帯端末の通信電波に着目し、統計的手法を用いた伝搬路の機械学習を導入することで、携帯端末の位置とその端末の発信する電波を自動的に学習し、高精度の端末特定ができるシステムの基礎技術を開発した。実証実験は図1、図2 の教室と図3 のマルチセンサーを用いて行った。ここでは座席の最短間隔0.78mよりも高い精度の位置推定システムが求められている。開発技術は様々な携帯端末の通信規格に対応可能だが、今回はNTT docomo のXi(LTE規格)の通信端末L-02C を利用して実験した(図4)。送信端末を座席に置き、通信させながら人為的に端末の位置を変動させることで、統計学習によって得られる受信信号の環境変動を再現した。

図1 実験を行った教室配置図

図2 実験を行った教室(試験時定員114名)


  • 図3 実験に用いたセンサーアンテナ

  • 図4 模擬携帯端末

センサー群によって得られた受信データから、機械学習の技術を適用することで、伝搬路と位置を統計的に処理し、学習データベースを作成した。既存の高精度位置推定技術では環境変動が非常に小さいことが仮定されていたが、同システムは環境の変動を統計的に学習しており、この点が大きな特徴の一つである。収集された学習データを利用して、教室内で携帯端末が通信を行った際に、その携帯端末が利用された座席の位置推定精度を評価した。座席を特定する際には、学習と同様にセンサー群によって得られた受信信号を処理し、学習データと比較することで、最も発信源である可能性の高い座席を選択する最尤推定を行なっている。位置推定の実験結果を既存手法とあわせて、図5および図6に示す。

図5 の横軸は図1 に示した座席を表す番号、縦軸は平均位置推定誤差である。既存手法であるTDOA・RSSI では位置推定の平均誤差は3m程度だが、提案システムはすべての座席で高精度な推定が実現でき、平均誤差は0.42mと既存手法に比べ7 から10倍程度改善された。図6は、提案手法による各席の位置推定誤差を視覚化したもので、精度が比較的悪い座席でも、推定誤差は隣席までである。

図5 実験結果(既存手法と提案手法の比較)

図6 実験結果(座席特定誤差の範囲)

今後の展開

今回は試作ハードウェア用い、人為的に伝搬路を学習する基礎実験に留まっており、今後ハードウェアのコスト削減、自動的な伝搬路学習の確立が必要である。今後、これらを改善し、早急に不正行為検出システムの実用化を目指す。

用語説明

  1. 1.
    機械学習:
    入力されたデータに関して、統計的処理を行うことで、その特徴を抽出または傾向を強調し、コンピューターなどの計算機に状態の識別や問題の解決をさせることを目的とした、人工知能に関する学術分野の1 つ。現在では生体認証などの画像認証システムや二足歩行ロボットの制御など応用範囲が広がっている。
  2. 2.
    平均位置推定誤差:
    すべての座席において異なる携帯端末の配置で複数回のデータサンプルを取得し、そのデータに対する位置推定結果と正しい発信位置との距離誤差を座席ごとに平均したもの。
  3. 3.
    TDOA、RSSI:
    それぞれTime Difference of Arrival (TDOA)、Received Signal Strength Indicator (RSSI)の略称。複数のセンサーを用いて、携帯端末の送信電波の到来時間や受信電力がセンサーごとに異なることを利用し、理論値と比較することでそれぞれのセンサーから携帯端末までの距離を計算し、幾何的に位置推定を行う既存手法。

本件に関するお問い合せ先
阪口啓
大学院理工学研究科 電気電子工学専攻 准教授
電話: 03-5734-3910   FAX: 03-5734-3910
E-mail: sakaguchi@mobile.ee.titech.ac.jp