研究

東工大ニュース

デフォルメ化で変わる動作認識 -サーブするテニスプレーヤーのCG映像で実証-

2012.03.16

要約

要点

  • テニスプレーヤーによる相手動作の識別能力をCG映像呈示により実験
  • デフォルメされたCGでは、動作が判別しやすく、スイングが遅く見える
  • スポーツ知覚トレーニングへの応用を期待

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

概要

東京工業大学の井田博史研究員、福原和伸研究員、石井源信教授らのグループは、 CG(用語1)映像を用い、対峙状況にあるアスリートの知覚に関して「身体モデルのデフォルメ化が動作識別を変容させる」という興味深い特性を実験で明らかにした。テニスプレーヤー21名に、計算的にシミュレーションした複数のテニスサーブ動作をCG映像で呈示したところ、色彩と形状情報が再現されたポリゴンモデル(用語2)に比べ、それらが欠落した棒モデル呈示の方が、動作の識別精度が向上し、またスイングスピードが遅く知覚された。スイングスピードに関しては初心者21名でも同様の傾向が確認された。この結果はアスリートの知覚活動に関して新たな洞察を与えるものであり、例えば相手の体型や服装なども知覚的パフォーマンスに影響する可能性を示唆している。また、将来的にはヴァーチャルリアリティなどスポーツ学習者を対象とした電子化トレーニングシステムにおける有効な呈示方法の開発にもつながる。この成果は米国の科学誌「PLoS ONE」に3月16日太平洋標準時午後2時(日本時間:3月17日午前6時)付で掲載され、無料でオンライン閲覧できる。

http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0033879outer

研究成果

コンピュータグラフィクス(CG)映像と独自の動作変調計算法を用いて、テニス経験者21名(競技歴は平均で7.2年)と初心者21名にサーブ動作映像を呈示し、相手動作に対する識別能力を調べた。実験参加者はポリゴンモデル(色彩・形状情報再現)、影モデル(色彩情報が欠落)、棒モデル(両情報が欠落)それぞれのCG映像(図参照)を見た後、変調された関節運動(手首、肘、肩)を三択で回答し、さらに主観的にスイングスピード(0-100段階)を評価した。

その結果、経験者はポリゴンモデルと比較して、棒モデル呈示において動作識別の成績が向上することが分かった。またスイングスピードはテニスの経験に関係なく、ポリゴンモデルより棒モデルで遅く知覚された。これによって身体モデルのデフォルメが動作識別に影響することが実証された。

背景

心理物理学の分野では従来から生体動作(バイオロジカルモーション)に対する判別能力が盛んに研究されており、一方で、スポーツのような高いスキルが要求される状況での予測や判断にも研究的関心が寄せられてきた。その中で、昨今の視覚化技術の発展により、CG映像やヴァーチャル空間におけるヒトのコミュニケーション形成やスキル学習に関する研究が年々増加している。

研究の経緯

ゲームやエンターテイメントの分野において,キャラクターの「リアルさ」が話題になることは少なくない。一方で,スポーツ模擬ゲームなどにおいて、デフォルメキャラクタが用いられることも多い。同グループは「リアルな」スポーツ場面呈示について調べており、本研究では身体モデル簡略化の効果について検証することを着想した。実験にはスポーツ知覚運動スキル研究に広く用いられてきたテニスのサーバー・レシーバー課題を採用した。

今後の展開

スポーツ場面呈示における、他のCGやヴァーチャルリアリティの効果検証へと展開する一方、実際のパフォーマンスとの関係性も合わせて検討を進めている。

図 呈示映像。ポリゴンモデル(A)、影モデル(B)、棒モデル(C)。

用語説明

  1. (注1)
    CG
    コンピュータグラフィクス。コンピュータで作成された画像。
  2. (注2)
    ポリゴンモデル
    多角形モデル。CGの立体モデリングに用いられる。

本件に関するお問い合せ先
石井 源信
大学院社会理工学研究科 人間行動システム専攻 教授
電話: 03-5734-2288  
E-mail: ishii@hum.titech.ac.jp