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CERN/LHCの国際共同実験グループ(ATLAS、CMS)がヒッグス粒子探索の最新結果を発表:新素粒子の存在を観測

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公開日:2012.07.09

要約

2012年7月4日、欧州合同原子核研究機関(CERN)で行われたセミナーで、ATLAS(注1)、CMS(注2)、2つの国際共同実験は長年探索してきたヒッグス粒子に関して最新の暫定結果を発表しました。両方の実験ともに質量125-126GeV(注3)付近に新素粒子の存在を確認しました。

研究の内容,背景,意義,今後の展開等

2012年7月4日、欧州合同原子核研究機関(CERN)で行われたセミナーで、ATLAS(注1)、CMS(注2)、2つの国際共同実験は長年探索してきたヒッグス粒子に関して最新の暫定結果を発表しました。両方の実験ともに質量125-126GeV(注3)付近に新素粒子の存在を確認しました。

(写真提供 CERN: 2012年にアトラスで検出された4つのミュー粒子に崩壊するヒッグス粒子の候補)

LHC加速器(注4)の衝突点に設置されたATLAS検出器とCMS検出器では、加速器の本格稼働が始まった2009年から大量のデータを蓄積してきています。得られた膨大なデータを急ピッチで解析することにより、実験の大きな目的の一つであるヒッグス粒子の探索を進めてきました。実験グループの一つであるATLAS実験は、世界38カ国から集まった高エネルギー物理学研究者約3000人により組織される大型の国際共同実験で、日本からも16の大学・研究機関が参加しています。東工大からも理学系研究科・基礎物理学専攻の陣内修准教授、久世正弘准教授の二研究室が参加しています。

ヒッグス粒子は、素粒子に質量を与える役割を担うとされる全く新しい種類の粒子です。ヒッグス粒子は「素粒子物理の標準模型」と呼ばれる基礎理論の中心的な役割を担う一方で、その存在を予言されながら唯一これまでに発見されていませんでした。

今回ATLAS, CMS両実験の発表した結果は、125-126GeV付近の質量領域に5σ(注5)の有意性を持つヒッグス粒子と矛盾しない新粒子の信号を観測したというものです。

「LHCとATLAS測定器の非常に優れた性能と、多くの人の多大な労力により、このすばらしい結果が出てきた」とATLAS実験グループ代表者のファビオラ・ジャノッティ氏は語っています。

今回セミナーで発表された結果はあくまで暫定的なもので、解析結果の論文投稿は7月の末になる予定です。また今回発見された新粒子が標準模型の予言するヒッグス粒子なのかどうかは、現段階では確定的なことをいうことはできません。

今回発表した結果は今年取得予定のデータの約1/3を取った段階で発表されたものですので、残りの2/3を取得した段階でもう少し具体的な全体像が見えてくると考えられています。標準模型の予言するヒッグス粒子なのか、それとも別の全く新しい種類の粒子なのか、いずれにしても今回の結果が、私たちの自然に関する理解を大きく展開させることには間違いありません。

東工大の陣内研究室・久世研究室の2グループはアトラス日本グループの中核的存在として高エネルギー加速器研究機構(KEK)や他の参加大学と協力しながら、ATLAS実験を推進しています。特に、今回の新粒子発見において重要な役割を果たしている、電子等の荷電粒子の検出を行う内部飛跡検出器の運転や、検出器を貫通するミュー粒子を元にデータ収集の判断を下すトリガーシステムの開発に力を注いできています。スタッフをはじめ、博士課程・修士課程の学生が長期・中期の海外派遣を通じてCERNにおける研究に頻繁に参加し、数多くの貢献・成果をあげています。

ATLAS実験全体の中の役割として、陣内准教授は Monte Carlo working group(シミュレーショングループ)を統括していた経験があります。また、久世准教授は現在Publication committee (論文編集委員会)の委員として活躍しています。

今後の東工大グループの発展・活躍に是非ご期待ください。

リンク

7月4日 CERNのプレス・リリース
http://press.web.cern.ch/press/PressReleases/Releases2012/PR17.12E.htmlouter

今回発表された結果の概要(ATLAS実験)
http://www.atlas.ch/news/2012/latest-results-from-higgs-search.htmlouter

今回発表された結果の概要(CMS実験)
http://cms.web.cern.ch/news/observation-new-particle-mass-125-gevouter

日本語訳(ATLAS実験)
http://www.atlas.ch/news/2012/HiggsStatementATLAS-Japanese.pdfPDF

LHCアトラス実験日本グループ
http://atlas.kek.jp/index.htmlouter

LHCアトラス実験グループ(英語)
http://atlas.ch/outer

東工大 陣内研究室
http://www.phys.titech.ac.jp/laboratory/jinnouchi.htmlouter

東工大 久世研究室
http://www.phys.titech.ac.jp/laboratory/kuze.html outer

  1. 注1)
    ATLAS:
    A Toroidal LHC ApparatuS の略
  2. 注2)
    CMS:
    Compact Muon Solenoid の略
  3. 注3)
    eV:
    エネルギーもしくは質量の単位。1 eV(電子ボルト)は1個の電子が1Vの電位差で加速されるときのエネルギー。1 TeV=10^12 eV, 1 GeV=10^9 eV陽子の重さは約1 GeV。
  4. 注4)
    LHC:
    大型ハドロン衝突型加速器:スイス・ジュネーブ郊外にフランスとの国境をまたいで設置され、2009年から運用を開始した大型の陽子・陽子衝突装置。現在の衝突エネルギーは世界最高の8TeV(テラ電子ボルト)であり、ヒッグス粒子や超対称性粒子などを直接研究できる世界唯一の施設である。2014年から設計値である14TeVにエネルギーをあげる予定。
  5. 注5)
    5σ:
    測定した信号の統計的有意性を表す量。5σは3x10^-7の確率でしか間違えないという高い有意性で、高エネルギー物理分野の中では新粒子等の発見を宣言する時の一つの指標となっている。

本件に関するお問い合せ先
陣内修 准教授 , 久世正弘 准教授
大学院理工学研究科 基礎物理学専攻
電話: 03-5734-2081  
E-mail: jinnouchi@phys.titech.ac.jp

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