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味に対して顔の皮膚血流が特異的に応答することを発見

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公開日:2014.01.06

要点

  • おいしいと感じると、瞼(まぶた)の血流が増加、おいしくないと感じると、鼻や額の血流が低下
  • おいしさと血流増加量との関連を突き止める
  • 意思疎通の困難な患者の味覚を客観的に判定可能

概要

東京工業大学社会理工学研究科の林直亨教授と県立広島大学の鍛島(かしま)秀明助教らは、味に対する好き嫌いに応じて顔の皮膚血流が特異的に応答することを明らかにした。すなわち、おいしいと感じられた刺激(オレンジジュースとコンソメスープ)を与えた際には瞼(まぶた)の血流が増加し、主観的なおいしさと瞼の血流の相対的増加量との間には相関関係が認められた。一方、おいしくないと感じられた刺激(苦いお茶)では鼻や額の血流が低下した。 この成果は言語を介しない味の評価法や味の官能評価の新たな手法として期待される。

研究内容は1月5日「Chemical Senses(ケミカル・センス)誌」に掲載された。

研究成果

被験者15名を対象に安静時と、味覚刺激中(オレンジジュース、コンソメスープ、苦いお茶、コーヒー、チリソース、水)に顔の皮膚血流をレーザースペックル法(用語)によって計測し、刺激中の血流の相対変化量を算出した。与えられた味覚の好き嫌いを表す主観的嗜好度を、11段階の主観的嗜好尺度法を用いて測定した。

その結果、おいしいと感じられた刺激(オレンジジュースとコンソメスープ)を与えた際には瞼の血流が増加した(図1参照)。主観的なおいしさと瞼の血流の相対的増加量との間には相関関係が認められた。一方、おいしくないと感じられた刺激(苦いお茶)では、鼻や額の血流が低下した。これら結果は、顔の皮膚血流が味覚に対する好き嫌いに伴って特異的に変化したことを示している。

背景

おいしいものを食べると幸福感がもたらされ、表情が変化するように、表情の変化は味の良し悪しや情動を反映する。ただし、表情は簡単に偽り、隠すことが可能なので、その変化から感じている味覚を評価することは困難である。

林教授らは恥ずかしいと顔を赤らめたり、体調が悪いと顔面が蒼白になったり、顔色にまつわる言語表現が数多く存在していることをヒントに、味覚の客観的評価法として、顔の皮膚血流に着目した。また、2011年に同研究グループは、基本味(甘味、酸味、塩味、うま味、苦味)に対して顔の皮膚血流が特異的に変化することを突き止めていた。複雑な味覚を用いても、顔の皮膚血流とおいしさの関連があることを実証することが、実用化に必要であることから、今回の研究を行った。

今後の展開

食品開発場面において、プロでも長期間のトレーニングが必要な味の官能評価に適用できると考えられる。応用的には、臨床や介護場面において、意思疎通の困難な者(例えば重症筋萎縮硬化症や筋ジストロフィーの患者さん)の味覚を客観的に判定でき、個人の嗜好に合った食事を提供することができると考えられる。

用語説明

レーザースペックル法: 光の干渉の変化する速さが、測定対象表面にある物体の移動速度と関連することを用いた非接触の血流測定法。

論文

雑誌名:
Chemical Senses
論文タイトル:
Palatability of tastes is associated with facial circulatory responses
執筆者:
鍛島秀明、濱田有香、林直亨


図1. コンソメスープをおいしいと評価した被験者の顔面の皮膚血流変化。
赤は血流が高く、青は血流が低いことを示す。スープ投与後には瞼の血流が増加していることがわかる。

お問い合わせ先
大学院 社会理工学研究科 人間行動システム専攻
教授 林 直亨(はやし なおゆき)
電話:  03-5734-3434 FAX: 03-5734-3434
E-mail: naohayashi@hum.titech.ac.jp

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