東工大ニュース
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公開日:2014.03.14
東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻の高安美佐子准教授と由良嘉啓大学院生は,チューリッヒ工科大学のディディエ・ソネット教授、ソニーCSL シニアリサーチャー・明治大学客員教授の高安秀樹氏と共同で、ドル円市場の高頻度売買注文板データ(用語1)を分析し、取引価格の周囲の売買注文量の増減に特徴的な2重の層構造があることを発見した。
具体的には、取引価格に近い内側の層が価格変動を駆動する揺動力となり、外側の層は変動を制動する散逸作用を持つことを明らかにした。さらに、アインシュタインが発見した揺動散逸関係(用語2)が非物質系でも成立していることを初めて実証した。
これまで売買注文板データはデータ量が膨大なため解析が難しかったが、この研究により分析の道筋ができたことになる。今後、市場のビッグデータをリアルタイムで解析し、市場の安定性を計測するような技術に応用されることが期待される。
この研究成果は3月7日発行の米物理学会誌「フィジカル・レビュー・レターズ電子版」に掲載された。
用語説明
用語1: 売買注文板データ
ドル円市場では、100万ドルを最小単位(1本)として売買されており、市場参加者は希望する売値と買値を本数とともに市場を取りしきるコンピュータサーバーに入力する。同じ価格で売り注文と買い注文がぶつかったとき、その価格で取引が成立し、売りと買いがぶつからない注文はそれぞれの価格に積み上げられる。取引が成立する前にキャンセルされる注文もある。人間が集まって取引をしていた頃には注文ごとに板を積み上げていた慣習から、これらの売買注文を集めた情報は板データとよばれる。
用語2: 揺動散逸関係
1905年、アインシュタインは有名な相対性理論の論文の他に、水の中を漂う微粒子の不規則な動きであるブラウン運動の論文も書いている。微粒子は、水分子からの衝突によって運動エネルギーを得て揺動し、また、その運動エネルギーは水分子との衝突によって散逸される。この関係を定式化したものが、揺動散逸関係である。当時、物質が原子や分子から構成されているということは仮説の段階だったが、この論文がきっかけとなって、原子や分子が実在であることが立証された。
掲載雑誌名 |
Phys. Rev. Lett. 112, 098703 (2014) |
論文タイトル |
Financial Brownian Particle in the Layered Order-Book Fluid and Fluctuation-Dissipation Relations |
著者 |
Yoshihiro Yura, Hideki Takayasu, Didier Sornette, and Misako Takayasu |
DOI |
図1 金融市場の売買注文板情報と粒子・分子モデルの関係
お問い合わせ先
大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻
准教授 高安美佐子
Tel: 045-924-5640
Email: takayasu@dis.titech.ac.jp