研究

東工大ニュース

藻類の栄養欠乏応答性プロモーターによる脂質蓄積強化を実現

2014.06.12

要点

  • 背景:藻類は栄養欠乏条件下に細胞内に油脂を蓄積
  • 新規性:緑藻の栄養欠乏応答性プロモーターを用い、油脂蓄積の強化を実現
  • 今後の展望:油脂の脂肪酸を操作することが可能

概要

東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの岩井雅子CREST研究員、太田啓之バイオ研究基盤支援総合センター/地球生命研究所教授らの研究グループは、藻類が栄養の足りない状況で脂質を蓄える機能の強化と光合成による細胞増殖を両立させることに成功した。藻類の細胞にリン欠乏応答性プロモーター(用語1)を導入する遺伝子操作による形質転換で実現した。藻類による工業レベルでのバイオエネルギー生産を大きく前進させる成果だ。

モデル藻類のクラミドモナス(用語2)を用い、これまで知られている窒素欠乏条件とは異なり、リン欠乏条件下では光合成の場であるチラコイド膜(用語3)をある程度維持したまま、TAG(用語4)を蓄積できることを見出した。リン欠乏条件下で発現上昇する遺伝子のプロモーターに着目し、リン欠乏条件下で油脂蓄積を強化する形質転換系を構築した。今後さらにこの系を用いて、油脂蓄積強化だけではなく油脂に含まれる脂肪酸の種類を操作することが期待される。

この研究は東工大バイオ研究基盤支援総合センターの下嶋美恵助教、同学技術部バイオ技術センターの池田桂子氏らと共同で行った。研究成果は英国科学雑誌「Plant Biotechnology Journal (プラント・バイオテクノロジー・ジャーナル)」July 2014, 12(6)に掲載される。同電子版は6月9日に公開された。

この研究は、太田教授が科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST) 「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」の採択を受け、「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として実施した。

用語説明

(1)リン欠乏応答性プロモーター :

藻類や植物では、リンの欠乏時に欠乏したリンを生体膜を構成するリン脂質から切り出し、その代わりに糖脂質を合成して生体膜に用いる膜脂質リモデリングなどのリン欠乏に適応するための様々な応答が起こる。この際に発現が誘導される遺伝子の上流には、リン欠乏に応答して遺伝子の発現を誘導するプロモーターと呼ばれる制御領域が存在する。

(2)クラミドモナス :

緑藻綱クラミドモナス目に属する単細胞藻類。ゲノム解析が進みモデル藻類として用いられる。

(3)チラコイド膜 :

葉緑体の内部に存在する高度に発達した膜構造。光合成の電子伝達装置やATP合成酵素などが存在し、光合成の光エネルギーから化学エネルギーへの変換を司る重要な膜構造である。

(4)TAG :

トリアシルグリセロール。1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した中性脂肪の1つ。

発表雑誌

雑誌名:
Plant Biotechnology Journal
論文タイトル:
Enhancement of extraplastidic oil synthesis in Chlamydomonas reinhardtii using a type-2 diacylglycerol acyltransferase with a phosphorus starvation-inducible promoter
著者:
Masako Iwai, Keiko Ikeda, Mie Shimojima and Hiroyuki Ohta
DOI:

培養8日目。培養23日目。緑色がTAGを蓄積した油滴、赤色がチラコイド膜を示している。どちらの欠乏条件でもTAG蓄積が確認できる。

図1 (a=上)培養8日目(b=下)培養23日目。
緑色がTAGを蓄積した油滴、赤色がチラコイド膜を示している。どちらの欠乏条件でもTAG蓄積が確認できる。
リン欠乏条件下(右)では23日目でもチラコイド膜が確認できる。

お問い合わせ先

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター教授
太田啓之
TEL: 045-924-5736
FAX: 045-924-5823
Email: ohta.h.ab@m.titech.ac.jp

東京工業大学 地球生命研究所 広報担当
TEL: 03-5734-3163
FAX: 03-5734-3416
Email: pr@elsi.jp