研究

東工大ニュース

DNA相同組換えの複雑な制御機構を解明 ―分裂酵母DNAヘリカーゼFbh1が多様な働き―

2014.09.10

要点

  • Fbh1ヘリカーゼが組換え反応の品質管理を実施
  • Fbh1ヘリカーゼがRad51をユビキチン化することを世界で初めて確認

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の伊藤健太郎大学院生、川野由美子元大学院生、筒井康博助教、岩﨑博史教授、同情報生命博士教育院の黒川裕美子特任助教らの研究グループは、DNA相同組換え[用語1] の複雑な制御機構の解明に成功した。細胞にとって大きなリスクを要するDNA組換えを精巧に制御している仕組みを世界で初めて明らかにしたもので、発がん機構などの基礎研究に貢献すると期待される。

具体的には、2つの異なる酵素活性を有する「Fbh1」[用語2] が、DNA相同組換えで中心的に働く酵素の「Rad51」[用語3] を質的量的に制御していることを突き止めた。すなわち、Fbh1のDNAヘリカーゼ活性[用語4] がRad51による適切な組換え反応を促進し、不適切な組換え反応を阻害すること、またユビキチンリガーゼ活性[用語5] がRad51をユビキチン化することを示した。 体細胞分裂期におけるDNA相同組換え機構は、主にDNA二重鎖切断の修復に働き、細胞ががん化するのを防いでいる(組換え修復)。しかし、なんらかの理由で組換えが頻発して不適切なDNA編成が起こると、これもまた、がん化や細胞死を引き起こすことが知られている。そのため、DNA組換えは適切にプロセスされるように様々なステップで制御されている。

この研究は国際高等研究所と共同で行った。成果は8月28日オープンアクセスジャーナル PLoS Genetics にオンライン掲載された。

研究の背景と経緯

DNA相同組換えとは、2本の相同なDNA分子を交換する反応であり、原核生物から真核生物まで広く保存された生命現象の一つである。体細胞分裂期においては、DNA二重鎖切断の修復などに働き(組換え修復)、その反応は複数のタンパク質によって多段階かつ多面的に制御されている。DNA相同組換えの制御機構の破綻は、遺伝情報(ゲノム)の不安定化や細胞死、ヒトにおいては、がん化の原因となりうる。

過去に岩﨑教授らは、真核生物のモデル生物の一つである分裂酵母を使った遺伝学スクリーニングによって、F-boxモチーフ[用語6] をもつユニークDNAヘリカーゼ、Fbh1を発見した。Fbh1はDNA相同組換えの制御に働くことが予想されたが、詳細は不明であった。

研究成果

今回は、生化学的手法と分子遺伝学的手法を用いてFbh1の機能解析を行った。試験管内で再構成した種々の反応系の結果から、Fbh1がDNAヘリカーゼ活性とユビキチンリガーゼ活性という2つの異なる酵素活性をもつことがわかった。

Rad51による試験管内組換え反応系にFbh1を添加して反応に与える影響を調べたところ、Fbh1のDNAヘリカーゼ活性は、Rad51が補助因子による活性化をうけていないとき(不適切な組換え反応に相当)には反応を阻害し、補助因子によって活性化されると(適切な組換え反応に相当)反応を促進することが分かった(図1)。

図1 Fbh1はDNA組換え反応を質的に制御する

図1 Fbh1はDNA組換え反応を質的に制御する

(囲み部)試験管内で再構成したDNA組換え反応の模式図

環状の一本鎖DNA(基質DNA1)と相同な配列をもつ直鎖状の二本鎖DNA(基質DNA2)に、組換え酵素Rad51を反応させると、2つの基質DNAの間で、DNA鎖の交換反応がおこる。

(下図)Rad51による試験管内DNA組換え反応系にFbh1を添加した際の反応に対する影響を調べた結果

不適切な組換え反応においては、組換えが完了したDNAの量が減少するため、不適切な組換えを阻害していることがわかる。一方、適切な組換え反応に添加すると、組換えが完了したDNAの量が増加しており、適切な組換え反応を促進していることがわかる。

一方、試験管内で再構成したユビキチン化反応系を確立し、Fbh1がRad51リコンビナーゼをユビキチン化する活性(ユビキチンリガーゼ活性)も見出した。さらに、定常期に入った細胞において、Rad51のタンパク質量が著しく減少することが分かり、定常期におけるDNA相同組換えを抑制していると考えられた。

これらの知見を元に、Fbh1は2つの活性によって相同組換えを多面的に制御しているというモデルを提唱した(図2に不適切な組換え反応を阻害するモデルを示す)。

図2 Fbh1が不適切なDNA組換えを抑制する分子モデル

図2 Fbh1が不適切なDNA組換えを抑制する分子モデル

DNA組換え反応には、組換え酵素Rad51(赤で表示)と一本鎖DNA(青で表示)が結合して、複合体を形成することが必要である。Fbh1は、Rad51とDNAの複合体の品質を監視しており、不適切な複合体に対しては、Rad51をDNAから引き剥がして、組換え反応の開始を阻害する。

今後の展開

ユビキチン化されることによって、Rad51がどのような影響をうけるのか(活性調節されるのか、あるいは、プロテアソームにより分解されるのか、など)は今後の興味深い課題の一つである。定常期の細胞において、Fbh1によってRad51のタンパク質の量が著しく減少していることはプロテアソームによる分解が起こっていることを想起させる。ユビキチン--プロテアソーム系がDNA相同組換えに直接関与することが報告された例はなく、ユビキチン化の新たな生物学的意義の発見の端緒となることが期待される。

また、このような分裂酵母を用いたモデル実験系に加えて、直接的に発がんメカニズムにも迫ってゆきたい。例えば、皮膚がん細胞の一種において、Fbh1をコードする遺伝子の欠損が頻繁に観察されており、まずは、様々ながん種における発がんへの関与の有無は早急に検討すべき問題であろう。

用語説明

[用語1] DNA相同組換え : 2本の相同な(塩基配列が極めて類似している)DNA分子を交換する反応。体細胞分裂期には、切断された二本鎖DNAの修復に関与する。また、減数分裂期の際には、父方由来と母方由来の遺伝情報をシャッフリングし、遺伝的多様性を生み出す原動力になっている。他方、遺伝子組み換え生物の創出にも応用されている。

[用語2] Fbh1 : 分裂酵母からヒトに至るまで広く保存されたDNAヘリカーゼである。原核生物にも、そのプロトタイプが存在する。

[用語3] Rad51 : DNA相同組換えにおいて中心的に働く酵素である。相同DNA配列の検索とDNA鎖交換を担う。原核生物ではRecAとよばれるタンパク質が類似の機能を有している。

[用語4] DNAヘリカーゼ活性 : 2本鎖DNAを1本鎖DNAにほどく活性。

[用語5] ユビキチンリガーゼ活性 : ユビキチンはアミノ酸76残基からなる小さなタンパク質で、真核生物で高度に保存されている。複数の酵素の連携により、標的となる特定のタンパク質のリジン残基に数珠状に結合(ユビキチン化)する反応がおこるが、ユビキチンリガーゼ活性はその反応に必須な酵素活性の一つである。ユビキチン化の働きとして、結合されたタンパク質の分解シグナルになる例や酵素活性の変換シグナルになる例が知られている。

[用語6] F-boxモチーフ : ユビキチン化反応に働く酵素のうち特定のグループに共通して存在するタンパク質配列である。

論文情報

掲載誌 :
PLoS Genetics (2014) 10, e1004542
論文タイトル :
Multiple Regulation of Rad51-Mediated Homologous Recombination by Fission Yeast Fbh1
著者 :
Yasuhiro Tsutsui, Yumiko Kurokawa, Kentaro Ito, Md. Shahjahan P.Siddique, Yumiko Kawano, Fumiaki Yamao, Hiroshi Iwasaki
DOI :

お問い合わせ先

大学院生命理工学研究科 生体システム専攻
筒井康博 助教 岩﨑博史 教授
Email: ytsutsui@bio.titech.ac.jp, hiwasaki@bio.titech.ac.jp
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