研究

東工大ニュース

光強度の増加とともに吸収効率が向上する材料を開発

2014.10.03

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の平田修造助教とバッハ・マーティン教授らは、太陽光などの弱い非コヒーレント[用語1] 連続光[用語2] でも、光の照射強度が強くなるに従い、吸収効率が大きく増加する材料の開発に成功した。生体内に含まれるヒドロキシステロイド[用語3] の中に光増感剤[用語4] と縮環芳香族[用語5] を分子レベルで分散することにより実現した。

この材料に光を照射すると、縮環芳香族の励起状態[用語6] が蓄積され、蓄積された励起状態が光をさらに効率よく吸収することにより、吸収効率の大きな上昇が生じることを確認した。光の強さに応じて色の濃さが変化する色剤や調光素子[用語7] など、新しい光学材料への応用が期待される。

従来、光の照射強度の増加とともに吸収効率が増加する現象は、大型かつ高強度のレーザーパルス[用語8] を照射した時にのみ生じるものとして知られていた。今回の研究では非コヒーレント連続光で、その現象が生じる材料を開発した。

研究は日本学術振興会、住友財団、コスメトロジー研究振興財団、科学技術振興機構、新化学技術推進協会の支援で行った。成果は国際学術雑誌「ネイチャーマテリアルズ (Nature Materials) 」のオンライン版に9月7日、掲載された。

研究成果

平田助教とバッハ教授は、室温大気中で励起状態の寿命が長くなる材料に関する研究を進めた。生体分子であるヒドロキシステロイド中に、光増感剤と縮環芳香族の 2種類の分子を添加した材料を作成した。この材料に非コヒーレント白色光を、強度を増加させながら照射したところ、強度の増加とともに可視域の吸収効率が大きく上昇し、色が濃くなる逆過飽和吸収 [用語9] 現象を見出した。さらに、この現象が光照射時に縮環芳香族の励起状態が蓄積されることで生じることを突き止めた。

逆過飽和吸収は、これまで強いレーザーパルスを照射した時にのみ生じる現象として知られていた。太陽光などの非コヒーレント連続光レベルの弱い光でその機能が発現する材料の開発は、逆過飽和吸収材料の応用を飛躍的に拡張する可能性を示すと期待される。

研究の背景

光照射により励起状態が蓄積され、それにより吸収効率が増加する材料(逆過飽和吸収材料)は古くから研究されてきた。しかし、励起状態の寿命は室温大気中では通常1ミリ秒以下と短いため、そのような現象は大型で高額の高強度パルスレーザーからの光を照射した時にのみ瞬間的に生じる現象として知られていた。そのため、このような機能を有する材料は実験室用途や一部高額な光学機器に搭載されるにとどまっており、一般消費者に広く用いられてこなかった。

研究の経緯

平田助教とバッハ教授らはこれまでに、さまざまな縮環芳香族を生体分子であるヒドロキシステロイド中に分散すると、各種縮環芳香族の励起状態の寿命が1秒以上に延びることを発表してきた (Adv. Funct. Mater. 2013, 23, 3386outer) 。平田助教とバッハ教授らは、今回ヒドロキシステロイド中に、光増感剤と縮環芳香族の 2 種類の分子を添加した材料を作成した(図1)。

材料の概要

図1. 材料の概要

この材料に白色の非コヒーレント光の強度を変化させて照射したところ、白色光の強度の増加とともに吸収効率が大きく上昇し、色が濃くなっていくことを見出した(図2)。

白色光の照射強度の増加に伴う吸光度の増大。写真は白色光の照射強度の増加に伴う材料粉末の色の変化

図2. 白色光の照射強度の増加に伴う吸光度の増大。写真は白色光の照射強度の増加に伴う材料粉末の色の変化

またその材料の薄膜に照射する青色や緑色の光を強めていったところ、照射強度の増加とともに透過率が大きく減少した。このような吸収の増大は、従来の過飽和吸収体と比較して100万分の1程度の弱い光の照射により生じた。また九州大学、東京農工大学、そして東京工科大学との共同研究により、この現象は光増感剤で吸収された光が縮環芳香族に受け渡され、長い寿命を有する縮環芳香族の励起状態が材料中に蓄積されていくことにより生じることを明らかにした(図3)。

光の照射強度の増加とともに縮環芳香族の励起状態が材料中に蓄積されていく様子のイメージ

図3. 光の照射強度の増加とともに縮環芳香族の励起状態が材料中に蓄積されていく様子のイメージ

今後の展開

この成果は、過飽和吸収体の応用を大きく拡張する可能性を示すものである。このような材料は例えば、屋外のような明るい場所でより発色する色剤、スキャナーの強い光で読み取り時に発色することで偽造を防止するような紙媒体、ポータブルのレーザーポインターの光線から目を守るコンタクトレンズ、日差しの強い場合に自動的に斜光してくれるスマートウィンドウなどへの応用が期待される。

用語説明

[用語1] 非コヒーレント : 波の位相や進行方向に秩序性がないことを指す。コヒーレントの対比語である。太陽光や発光ダイオード(LED)などの光は非コヒーレントな光に相当する。

[用語2] 連続光 : パルスは、途切れる時間域が存在する光であるのに対して、連続に放射され続ける光。

[用語3] ヒドロキシステロイド : 下図に示すステロイド環の骨格を有する化合物のいずれかに水酸基を有する分子の総称。ホルモンやコレステロールなどもヒドロキシステロイドの分類に属する。筋肉増強剤やアトピー性皮膚炎の薬剤などにも用いられる。

ステロイド環

[用語4] 光増感剤 : 光を吸収した際に他の材料とエネルギーや電子の供受を効率よく行うことで、周囲の材料の機能を効率よく引き出す際に用いられる分子もしくは添加剤。色素増感太陽電池、光水素発生、フォトレジストなどの高性能化の際にも用いられる。

[用語5] 縮環芳香族 : 下図のようにベンゼン環が連なった構造を有する分子。

縮環芳香族

[用語6] 励起状態 : 分子が光を吸収した時に、分子の中の電子の位置が変化することにより形成される準安定状態の分子の状態を指す。通常、光材料や光機能デバイスでは、分子の最低励起一重項状態と最低励起三重項状態の制御が材料やデバイスの機能に直接的に繋がる場合が多いため着目される。通常の有機材料では、室温大気中において分子の最低励起一重項状態の寿命はマイクロ秒以下、最低励起三重項状態の寿命は1ミリ秒以下である。

[用語7] 調光素子 : 外部から照射された光の強度を調節する素子。液晶シャッターやフォトクロミック材料をコートした薄膜なども広い意味で調光素子である。

[用語8] レーザーパルス : レーザーが連続的に放射されずに、瞬間的に何度も繰り返して放射される光。

[用語9] 逆過飽和吸収 : 照射される光の強度の増加とともに、吸収効率が増加する現象。この現象は広い意味では非線形光学現象の一つであり、過飽和吸収(光の強度が増加すると吸収効率が低下する現象)の対比語である。

論文情報

掲載誌 :
Nature Materials 2014, 13, 938-946.
論文タイトル :
Large reverse saturable absorption under weak continuous incoherent light.
著者 :
Shuzo Hirata, Kenro Totani, Takashi Yamashita, Chihaya Adachi, and Martin Vacha
(平田修造、戸谷健朗、山下俊、安達千波矢、バッハ・マーティン)
DOI :

 

掲載誌 :
News and Views, Nature Materials 2014, 13, 917-918.
論文タイトル :
Nonlinear optics: Modulating optical power.
著者 :
Anjun Qin and Ben Zhong Tang
DOI :

研究支援

本研究は以下の支援を受けて行われました。

問い合わせ先

大学院理工学研究科 有機高分子物質専攻
助教 平田修造
Email: hirata.s.af@m.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-3643 / FAX: 03-5734-2725