研究

東工大ニュース

単分子抵抗スイッチを開発 ―機械的な力により1分子の抵抗を3段階に制御―

2014.11.13

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の藤井慎太郎助教と木口学教授、産業技術総合研究所の中村恒夫博士、物質・材料研究機構の杉安和憲博士の研究グループは、金属電極間に架橋した単分子の電気伝導度を、機械的な力で多段階かつ可逆的に制御することに成功した。

研究の背景

金属電極に架橋した単分子接合は単分子エレクトロニクス[用語1] への応用が期待されている。また、単分子接合は2つの金属―分子接合界面を有する低次元ナノ構造体であり、電極金属まで含んだ分子の新たな物質相として、孤立分子、結晶では発現しない革新的な機能の発現も期待され、現在、活発に研究が行われている。

研究成果

本研究では、電極金属と分子の接合界面の構造を機械的な力によって制御することで、電気抵抗を変化させる単分子スイッチの開発を行った。分子としては、チオフェン環[用語2] が4つ連結した被覆クオーターチオフェン分子(QT)を用いた。QT分子は、両端に電極との結合サイトとなる硫黄原子を対称的に2カ所ずつ有しているため、最大で3つの結合の仕方が可能となる。そして、中心部分を被覆することで、分子が積層してしまうことを防ぎ、接続箇所を規定している。

実験はQT分子を含む溶液中で走査型トンネル顕微鏡[用語3] を用いて、金(Au)の探針とAuの基板を接触、破断を繰り返すことで行った。基板との接触後、金属の接点が形成されるが、それを引き離すことでAuのナノギャップが形成され、分子がナノギャップ間にトラップされる。電極間距離を制御することで、架橋分子数、架橋様式を制御することが可能となる。QT溶液中でAu接合の破断過程における伝導度を測定したところ、3つの伝導度状態が観測された。それぞれの構造について、AuナノギャップのサイズおよびQT分子内の硫黄原子間の距離を定量的に評価することで、QT分子の電極への架橋位置に応じて、QT単分子接合が3つの伝導度を示すことが明らかとなった。

最後に、QT単分子接合が形成されている状態で、電極間距離を変調させ、接合の伝導度を観測した。その結果、接合の伝導度が3つの値を可逆的にスイッチする様子を観測することに成功した。

今後の展開

本研究では、機械的な力によって、電極間に架橋した単分子の電気抵抗を制御する革新的なスイッチについて報告した。このスイッチは金属と分子の接合形態を制御するという、新しい動作原理に基づく単分子素子である。本研究により、単分子接合に特徴的な物性を機能という形で具現化することが出来たので、今後、スイッチに限らず様々な機能を実社会に役にたつデバイスの形で応用することが可能になると考えられる。そのために、個々の素子の性能の向上、また特に集積化の技術開発がますます重要になっていく。

被覆クオーターチオフェン分子を用いた単分子スイッチ。金属電極間距離を変えることで、金属と分子の接合部位が変化し、3段階の伝導度変化をする。

図. 被覆クオーターチオフェン分子を用いた単分子スイッチ。金属電極間距離を変えることで、金属と分子の接合部位が変化し、3段階の伝導度変化をする。

用語説明

[用語1] 単分子エレクトロニクス : 1分子に素子機能を持たせて、電子デバイスを作る。この技術が実現すると、1素子のサイズを極限まで小さくすることが出来るので、従来の半導体デバイスと比較して桁違いの集積化、演算の高速化が可能になる。

[用語2] チオフェン : 硫黄1原子を含む5角形の環状分子。化学式はC4H4S

[用語3] 走査型トンネル顕微鏡 : 金属探針を導電性の基板上に極限まで近づけることで、流れるトンネル電流を利用した顕微鏡。探針の動きを圧電素子によって、高精度に制御することで、表面の構造を原子スケールで観測することが出来る。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文名 :
Single molecular resistive switch obtained via sliding multiple anchoring points and varying effective wire length
執筆者 :
M. Kiguchi, T. Ohto, S. Fujii, K. Sugiyasu, S. Nakajima, M. Takeuchi, H. Nakamura
所属 :
東京工業大学理工学研究科、産業技術研究所、物質材料研究機構
DOI :

問い合わせ先

大学院理工学研究科 化学専攻
助教 藤井慎太郎、教授 木口学
Email: fujii.s.af@m.titech.ac.jp, kiguti@chem.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2071 / FAX: 03-5734-2071