東工大ニュース

リベラルアーツ研究教育院キックオフシンポジウム 開催報告

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公開日:2015.07.31

東工大は現在教育改革を進めており、2016年4月から新しい教育がはじまります。この改革の取り組みのなかで、東工大の教養教育を主導する「リベラルアーツ研究教育院」が同じく2016年4月に発足します。

総合司会の山崎教授
総合司会の山崎教授

発足に先立って、「リベラルアーツ研究教育院キックオフシンポジウム」が以下のとおり開催されました。外国語研究教育センター 山崎太郎教授の総合司会のもと、新たな教養教育の理念とその実践について、本学学生による発表も含め、活発な議論が展開されました。三島良直学長、本学教職員、学生に加え、学外からの出席者も多数あり、100名以上が参加して活気あふれるシンポジウムとなりました。

日時
7月6日 17:00~19:00
場所
プログラム
1.
学長挨拶(三島良直学長)
2.
主査挨拶(リベラルアーツセンター 上田紀行教授)
3.
学生発表: 「わたしたちの『出会い』を生み出す教育」
(登壇者:4類 田中雅人、4類 三穂野春彦、5類 田中結花、電気電子工学科 馬場美岬、大学院社会理工学研究科博士後期課程 仲谷佳恵)
4.
シンポジウム:「新たな教養教育のキックオフ」
(パネリスト: 大学院理工学研究科 西森秀稔教授、外国語研究教育センター 谷岡健彦教授、大学院社会理工学研究科 林直亨教授、リベラルアーツセンター 伊藤亜紗准教授)

1. 学長挨拶

三島学長の挨拶
三島学長の挨拶

三島良直学長より、現在本学で進められている大規模な教育改革の概要について説明があり、新カリキュラムではリベラルアーツ教育が大きな一本の柱となることが強調されました。教養教育の独自の伝統を有する東工大において、今の学生に適したリベラルアーツのカリキュラムをいかにして作り込んでいくかは、今回の教育改革の主眼のひとつでもあります。リベラルアーツ研究教育院の演じるべき役割は大きく、その活躍におおいに期待する旨のメッセージがありました。

2. 主査挨拶

上田主査の挨拶
上田主査の挨拶

リベラルアーツ研究教育院創設準備会主査である上田紀行教授より、まずカリキュラム改革のこれまでの経緯について説明がありました。世界トップ10の理工系総合大学を目指すため、MITやハーバード大学等への視察もおこないました。その結果、これからの大学は社会のニーズに受動的に応えるのではなく、21世紀の世界を変えていく主体とならねばならないと考えるにいたった、と上田教授はいいます。続いて、来年度4月より始まる新カリキュラムの概要が紹介されました。学部1年次の「東工大立志プロジェクト」、3年次の「教養卒論」、修士1年次の「リーダーシップ道場」なども予定されています。他大学には見られないユニークな取り組みのなかで、学生のコミュニケーション能力や主体性を育み、豊かな社会性・人間性を備えた志ある人材を育てていきたいという抱負が語られました。

3. 学生発表:「わたしたちの「出会い」を生み出す教育」

新カリキュラム開始に備えて準備を進めているリベラルアーツ研究教育院ワーキンググループが、「学生キックオフメンバー」を募集し、教養教育に関心のある本学学生10数名が集まりました。外国語研究教育センターの谷岡健彦教授がファシリテーター(進行役)を務め、アクティブラーニングの手法を取り入れたワークショップが数回実施されました。当発表では、メンバーのうちの5名が、その報告をおこないました。

ワークショップには各学生がニックネームを用いて参加したため、本発表でもニックネームにて登壇し、「自分のなかの文系度」、「物語」、「出会い」、「ケミストリー」、「主体性」等をキーワードに、それぞれ自身と教養科目との関係や授業の印象を語りました。また、今回アクティブラーニングを体験した感想や、今後のリベラルアーツ教育に関する希望など、各自が率直な意見を述べました。

今年度後期からはパイロット(試験的)授業も開講され、来春の新カリキュラム開始に向けて、より本格的な準備が進められる予定です。

学生キックオフメンバー5名による発表
学生キックオフメンバー5名による発表

4. シンポジウム:「新たな教養教育のキックオフ」

リベラルアーツ研究教育院所属予定の3名(谷岡健彦教授、林直亨教授、伊藤亜紗准教授)に加え、大学院理工学研究科の西森秀稔教授をパネリストに迎え、上田主査の司会のもと、新たな教養教育についての議論がおこなわれました。

シンポジウム(左より、上田教授、西森教授、谷岡教授、林教授、伊藤准教授)
シンポジウム(左より、上田教授、西森教授、谷岡教授、林教授、伊藤准教授)

まず西森教授から、「役に立つ学問とは何か」という大きな問いかけがあり、すぐにおもしろいと思えなくても、長い時間をかけてきちんと理解すれば、最終的にはおもしろいと思えることがあるのだという見解が、教授の専門分野での経験に基づいて述べられました。

谷岡教授の発表では、おもに学生キックオフメンバーとのアクティブラーニングの体験をもとに、主体的な学びを可能にする工夫について、意見が述べられました。また、みずからニックネームを用いてワークショップに参加したことにより、教員の「権威」について再考を促されたという感想も語られました。

林教授は「役に立つ・役に立たない」をキーワードとして、教養科目の意義について論じました。たとえば文学は役に立たないと思われがちですが、小説でさまざまな事柄を追体験すれば、失敗・落胆から立ち直るためのレジリエンス(精神的回復力)を養うことに繋がります。いっぽうで健康・スポーツに関する授業は、生きていくうえで不可欠な基礎知識を提供するという意味で、文字通り役に立つことなどが述べられました。

最後に、伊藤准教授がおもに新カリキュラムで重視される学生同士の繋がりについて語りました。グループワークの目的は、他者と一体になることではなく、他者との意見の相違を認識することにある、という意見が述べられました。さらに、教員と学生との関係という観点から、専門家の重要な役割は、一般人にわかりやすく説明することよりは、むしろ一般人に寄り添って一緒に考えることにあるのではないか、という提言もありました。

続いて上田主査と4人のパネリストとの間で、活発なディスカッションが展開されました。なかでも議論が集中したのは、自由と強制との兼ね合いの問題でした。新カリキュラムでは、学生の自主性に大きな重点がおかれるものの、軸となる授業の大部分は必修科目です。ある程度の枠を作ることは必要ですが、そのうえでどこまで学生に自由を与え、どうやって主体性を引きだすのか、それが要となるという認識が共有されました。さらに議論の後半では、「多様性」がキーワードとなり、多様性を認める姿勢を理工系学生に修得してもらうことが、教養教育のひとつの目標であるという点が強調されました。最後はフロアの学生からも質問や意見が出され、新たな教養教育のあり方を考えるにあたって、たいへん意義深いシンポジウムとなりました。

フロアより発言する学生キックオフメンバー
フロアより発言する学生キックオフメンバー

フロアからの質問
フロアからの質問

東工大教育改革

2016年4月、東工大の教育が変わります。現在推進中の教育改革の骨子と進捗をまとめた特設ページをオープンしました。

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