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東工大ニュース

末松安晴栄誉教授・元学長が平成27年度文化勲章を受章

2015.10.30

末松安晴栄誉教授・元学長が、平成27年度文化勲章を受章することが決定しました。文化勲章は、科学技術や芸術など、文化の発達に卓絶した功績のある者に授与される勲章です。

末松安晴栄誉教授・元学長
末松安晴栄誉教授・元学長

末松安晴栄誉教授は、光通信工学の分野において、光ファイバーの伝送損失が最小となる波長の光を発し、かつ、高速に変調しても波長が安定した動的単一モードレーザーを実現しました。現在のインターネット社会を支える大容量長距離光ファイバー通信技術の確立に大きく寄与するなどの優れた業績を挙げ、本領域の発展に多大な貢献をしました。

末松安晴栄誉教授コメント

この度、文化勲章を拝受する栄に浴し、歴代ご受章された泰斗各位の末席をけがすことになり、恐縮致しております。

ここに改めて、お導きを賜った師の恩、人類の叡智を授かった古典の恩、革新の流れに生まれ合わせた時の恩、ご支援を頂いた研究費の恩、その時々の段階で卓越した貢献をされた弟子の恩、切磋琢磨させていただいた仲間の恩、父母兄弟妻子供達など家族の恩、そして文化を育み伝承して倶に歩む社会の恩、を噛みしめ、深甚の感謝に浸っております。

研究概要

単一波長・単一モード光ファイバー通信

図1. 単一波長・単一モード光ファイバー通信

光は人類が制御出来る最高周波数の電磁波で、大容量の通信には電波よりも格段に有利であります。光通信の研究が日米英を中心に行われました中で、大容量の情報を長距離にわたって世界中に隈なく伝送できそうなところに光ファイバー通信の本質が見定められました。そしてこの本質を具現するために、

1.
長距離伝送のために、光ファイバーの損失が最低になる波長1.5ミクロン帯(この波長帯は研究を進める途中で明確になった)で働き、
2.
単一モード光ファイバーの伝搬定数分散による伝送帯域制限の問題を乗り越えるために、単一波長で安定に動作し、
3.
さらに、多波長の通信に対応するために、波長が同調により可変できること、

の3つの特徴を同時に持った、動的単一モードレーザー(DSMレーザー)の開拓に専念しました。

位相シフト分布帰還(DFB)レーザー ~温度同調の動的単一モード(DSM)レーザー
図2.
位相シフト分布帰還(DFB)レーザー
~温度同調の動的単一モード(DSM)レーザー

まず、GaInAsP/InP混晶の材料を開拓して、光ファイバーの損失が最低になる波長1.5ミクロン帯において働く半導体レーザーを実現し、その室温連続動作を達成しました。この間に、二つの分布反射器を半波長だけ位相シフトさせて結合させる単一モード共振器を発案しました。また、光回路を一体集積しうる集積レーザーを実現しました。こうした準備の下に、1980年に、1.5ミクロン帯の材料を用い、分布反射器を一体化した集積レーザーを創り、高速直接変調の下でも安定に単一モード動作する動的単一モードレーザーを実現し、室温連続動作に成功しました。このレーザーは温度を変えても動作モードが安定なので、波長を温度で同調することができました。こうして、温度同調の動的単一モードレーザーが誕生しました。他方では、日米を始めとする企業において、光ファイバー、光回路、光デバイス、変調方式やシステム構成、そして電子デバイスなどの研究開発が進み、動的単一モードレーザーの実現が一つの契機となって、大容量長距離光ファイバー通信技術が開拓され、1980年代の後半から商用化が進みました。

この中で、1974年に発案して1983年に実証した位相シフト分布帰還(DFB)レーザーは、温度同調の動的単一モードレーザーで、生産の歩留まりが高く、1990年の初頭から長距離用の標準レーザーとして一貫して広く商用され、筆者は一応の安堵を味わいました。これに対して、筆者が最終形態と考えた電気同調の動的単一モードレーザーは、1980年に提案して1983年に実証した波長可変レーザーで、このレーザーは使われるまでに随分長くかかりました。この波長可変レーザーが、関係者の努力で開拓され、高密度波長分割多重(DWDM)システムにおいて商用されるようになったのは2004年頃で、2010年頃には本格的に活用されるようになりました。このことを知ったのは、ごく最近の3-4年前のことで、やっと自分の仕事に納得できた次第であります。

波長可変レーザー ~電気同調の動的単一モード(DSM)レーザー
図3. 波長可変レーザー ~電気同調の動的単一モード(DSM)レーザー

光通信用半導体レーザーの研究でもう一つ特記したいのは、伊賀健一前東工大学長が1988年に開拓したVCSELと呼ばれる半導体レーザーであります。このレーザーも適切な設計の下では動的単一モードレーザーとなります。小電力動作を特徴として、本研究の長距離通信を補完し、小中距離光ファイバー通信用として内外で広く用いられています。

本研究の社会的な貢献

1.5μm波長帯の大容量・長距離光通信は、動的単一モードレーザー、DSMレーザー、を光源とし、光デバイスや変調方式などの研究・開発につれて発展しました。本研究で開拓した温度同調のDSMレーザーは、陸上の幹線システム(1980後期)や大陸間海底ケーブル(1992)の長距離用に商用化されて、インターネットの発展を支えて今日に至っています。さらに2004年ごろからは、電気同調のDSMレーザー、波長可変レーザー、が高密度波長分割多重(DWDM)システムの高度化やコヒーレント通信の光源に用いられています。

光ファイバー当たりの伝送容量の経年増加
図4. 光ファイバー当たりの伝送容量の経年増加

現在、光ファイバー通信は地球を数万回取り巻く高密度の情報ネットワークを形成しており、中距離のイーサーネット等にも広く用いられています。さらに、FTTHによる家庭の光回線では、局から家庭への回線に1.5μm帯のDSMレーザーが用いられています。

こうして光ファイバー通信の情報伝送性能は、それ以前の同軸ケーブルの性能の数十万倍に達し、情報伝送のコストを格段に低下させました。これを反映して、1990年代の中葉には、Googleや楽天などのネットワーク産業が続出しました。光ファイバー通信が進歩してインターネットが発展し、大容量情報の即時伝送が日常的となりました。1960年代の電気通信時代は文明を担う文書などの大容量情報は、書物などとして流布されていました。これに対して、大容量長距離光ファイバー通信の普及は、書物などの大容量情報を即時に双方向で利用することが出来るように成りました。光ファイバ通信の研究は、未来と考えられていた情報通信技術文明をこの世に引き寄せるのに貢献したといえるのではないでしょうか。

略歴

  • 1960年3月
    東京工業大学大学院理工学研究科修了(工学博士)
  • 1960年~1973年
    東京工業大学助手、助教授
  • 1973年~1988年
    東京工業大学教授、工学部長
  • 1989年~1993年
    東京工業大学学長
  • 1992年~1993年
    電子情報通信学会会長
  • 1994年~2000年
    総理府宇宙開発委員会委員
  • 1997年~2005年
    高知工科大学学長
  • 1997年~2005年
    日本学術会議会員
  • 2001年~2005年
    国立情報学研究所所長
  • 2003年~2005年
    文部科学省科学技術・学術審議会会長
  • 2009年~現在
    高知工科大学 顧問
  • 2010年~現在
    公益財団法人 高柳記念財団理事長
  • 2011年~現在
    東京工業大学 栄誉教授
  • 2012年~現在
    公益財団法人 放送文化基金理事長

主な受賞歴

  • 1983年
    ワルデマ-・ポ-ルセン金メダル(デンマーク)
  • 1986年
    デビッド・サーノフ賞(米国)
  • 1989年
    東レ科学技術賞
  • 1993年
    ジョン・チンダル賞(米国)
  • 1994年
    NEC C&C賞
  • 1994年
    放送文化賞
  • 1996年
    紫綬褒章
  • 1997年
    エドワード・ライン賞(ドイツ)
  • 2003年
    文化功労者
  • 2003年
    IEEEエヂュケーション・メダル(米国)
  • 2005年
    中津川市名誉市民
  • 2006年
    瑞宝重光章
  • 2006年
    大川賞
  • 2014年
    日本国際賞
  • 2014年
    東海テレビ文化賞

問い合わせ先

広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

10月30日16:50 タイトルと本文に誤字がありましたので、修正しました。