研究

東工大ニュース

染色体構造を調節するメカニズム解明に成功―2つの制御因子によりコヒーシンがDNAを乗り降り―

2016.01.07

要点

  • 染色体構造の調整に不可欠なコヒーシンと制御因子を試験管内で再構成
  • コヒーシンの DNA 結合・解離反応のメカニズムを解明
  • 発がん、不妊などの分子レベルの基礎研究に貢献

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の村山泰斗助教と英国フランシスクリック研究所のフランク・ウルマン博士の研究グループは、染色体構造の調節に必要不可欠なコヒーシン複合体[用語1]が2つの制御因子によってDNAに乗り降りを繰り返し、染色体構造の調節を行っているという制御のメカニズムを解明した。細胞からコヒーシンと制御因子を抽出、DNAと結合する反応と離れる反応を世界で初めて試験管内で再構成し、実現した。

染色体構造の制御は、正確な遺伝子発現や細胞分裂に不可欠であり、発がんや遺伝疾患、不妊などと密接な関係がある。このため、今回の研究成果はこうした疾患の分子機構の基礎研究に貢献すると期待される。

染色体構造の調節には、巨大なリング状のタンパク質複合体が関与しており、その一つがコヒーシンである。コヒーシンは、ゴムバンドのようにDNAを束ねることで、染色体特有の構造を形成していくと考えられていたが、そのDNA結合の分子機構は分かっていなかった。

この成果は12月17日発行の米科学雑誌「セル(Cell)」に掲載された。

研究成果

東工大の村山助教らはコヒーシンと、その制御因子のローダー複合体[用語2]と Pds5-Wapl 複合体[用語3]を細胞から単離・精製し、DNAに結合する反応とDNAから離れる反応を試験管内で再構成した[用語4]

この実験結果の解析により、1. ローダー複合体はコヒーシンと結合、コヒーシンのリング構造を折り曲げることによって、リング構造の内側にDNAを入れること 2. Pds5-Wapl はコヒーシンリングの特定のつなぎ目を開いてDNAをそこから放出することが明らかになった(図1)。コヒーシンは、これら2つの制御因子によってDNAに乗り降りを繰り返し、染色体構造の調節を行っていくと推察される(図1)。

コヒーシンのDNA結合・解離反応のモデル

図1. コヒーシンのDNA結合・解離反応のモデル

コヒーシンは、補助タンパク質(ローダーと Pds5-Wapl) の働きによりリングを“開いて”DNAに乗り降りする。 コヒーシンはDNAを束ねるように結合することにより、染色体同士をくっつけたり、染色体の構造を調整すると考えられている。

背景

DNAには生物をかたちづくるのに必要なすべての情報が書き込まれている。DNAは非常に長い分子で、細胞の中ではタンパク質と結合した染色体という形できちんと折りたたまれ、収められている。

この染色体構造の調節を行う重要なタンパク質複合体の一つがコヒーシンである。コヒーシンは巨大なタンパク質のリングで、ゴムバンドのようにDNAを束ねてはたらくと考えられていた(図1)。しかし、コヒーシンがDNAに結合する機構はよくわかっていなかった。

研究の経緯

村山助教らは、細胞からコヒーシンとその制御因子を抽出して精製し、そのDNA結合反応を世界で初めて試験管内で再構成した。この新規の実験系を用いて、コヒーシンのDNA結合と乖離反応のメカニズムの解明を目指した。

今後の展開

コヒーシンや補助因子を直接分子レベルで観察し、コヒーシンが補助因子によってどのように制御されるかについて、さらに詳細に解析してく必要がある。また、コヒーシンの活性はタンパク質修飾[用語5]によっても制御されているという報告があり、そのメカニズムについても、試験管内再構成系によって明らかにしていくことが求められる。

また、近年の研究で、コヒーシンの機能異常・低下が発がんや不妊と関連があることが報告されている。このため、今回研究で得られた知見は、発がんや不妊などの分子機構の基礎研究に貢献すると期待される。

用語説明

[用語1] コヒーシン複合体 : 巨大なリング状のタンパク質複合体。元々、染色体間の接着を行う本体として発見されたが、近年、それに加えて染色体構造の制御にも重要な役割を果たしていることがわかってきた。

[用語2] ローダー複合体 : 2つのタンパク質からできている複合体で、コヒーシンが細胞内で機能するのに必要。

[用語3] Pds5-Wapl 複合体 : コヒーシンに結合する複合体で、コヒーシンのDNA結合の調節を行うと考えられていた。ローダー複合体、Wapl ともに、その機能に異常があると発生異常を引き起こすことが知られている。

[用語4] 試験管内再構成 : 機能タンパク質を精製し、その活性を測定する方法。これにより研究対象としているタンパク質の機能解析を行うことができる。

[用語5] タンパク質修飾 : 低分子化合物や小さいタンパク質をターゲットとなるタンパク質に結合すること。代表的なものとして、リン酸化、アセチル化、糖鎖修飾などがある。

論文情報

掲載誌 :
Cell
論文タイトル :
DNA Entry Into and Exit Out of the Cohesin Ring by an Interlocking Mechanism
著者 :
Yasuto Murayama, Frank Uhlmann
DOI :

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