研究

東工大ニュース

高分子ファイバーでワイヤレス電極をつなぐ―電子デバイス配線への応用に道―

2016.01.26

要点

  • 導電性高分子ファイバーの自発的成長現象を発見
  • ワイヤレス電極(導電体)間のネットワーク化に成功
  • エレクトロニクスデバイスにおける新しい配線技術として期待

概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科の稲木信介准教授、小泉裕貴博士後期課程1年、冨田育義教授らは、ワイヤレス電極(バイポーラ電極[用語1])を用いた電解重合法[用語2]により、導電性高分子[用語3]がファイバー状に成長する現象を発見した。この現象を応用して、ワイヤレス電極間を高分子ファイバーでつなぎ、ネットワーク化することにも成功した。

通常の電解重合法では膜状の導電性高分子が生成するが、稲木准教授らはバイポーラ電極上でモノマー[用語4]の電解重合を行うことで、様々な形状のファイバーを作成する技術を開発、今回は数マイクロメートル(μm)径のファイバー状に成長させた。

ワイヤレス電極に金属線を用いた場合、その末端同士を導電性高分子ファイバーにより選択的につなぎ、ネットワーク化できる開発技術は、エレクトロニクスデバイスにおける配線技術としても期待される。研究成果は1月25日発行の英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」オンライン版に掲載される。

研究成果

稲木准教授らは、バイポーラ電気化学[用語5]に基づくワイヤレス電極上での電解重合を検討した結果、モノマーとして用いた3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の重合体であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)がワイヤレス電極末端からファイバー状に成長する現象を見出した。

図1に示すように、低濃度の電解質を含むアセトニトリル電解液中に独立して並べられた二つの金線の外部より交流電圧を印加し、バイポーラ電極化させた。ワイヤレス電極の両端が陽極、陰極としてそれぞれ振る舞い、その極性は交流周波数に依存し周期的に変化することから、両端においてEDOTの重合が進行した。それぞれの金線末端から外部電場方向にPEDOTファイバーが成長する様子は、光学顕微鏡により観察可能であり、1mm間隔を約90秒で架橋した。また、得られたファイバーの電子顕微鏡像から数μm径のファイバーを形成していることがわかった。モノマー構造を変えることで、多彩なファイバー形状を得ることにも成功した。

交流電場の印加と低電解質濃度条件が鍵であることを実証し、重合初期段階のイオン種が外部電場の影響を受けて電気泳動[用語6]しながらファイバー状の重合体が析出するメカニズムを明らかにした。

ワイヤレス電極上での電解重合により得られた導電性高分子ファイバー。

図1. ワイヤレス電極上での電解重合により得られた導電性高分子ファイバー。

背景と経緯

PEDOTに代表される導電性高分子は有機半導体・導電性材料として有望である。導電性高分子ワイヤやファイバーなどの一次元構造体は、一般にエレクトロスピニング法[用語7]やテンプレート電解重合法[用語8]により得ることができるものの、エレクトロニクス分野における回路の配線には不向きであり、インクジェット法によるプリント配線技術などが近年発展している。

近年、稲木准教授らは、バイポーラ電気化学の特徴を利用した様々な高分子材料開発に成功しており、今回の研究は文部科学省科学研究費新学術領域研究「元素ブロック高分子材料の創出(領域代表:中條善樹京都大学教授)」の一環として行われた。

今後の展開

本研究で発見した電解重合法は、外部から電場を印加するだけの簡便な手法で、金属線末端から導電性高分子を自発的にファイバー成長させることができるため、所望の金属線間を選択的に導電性高分子ファイバーで架橋することができる。これは導電性高分子配線のエレクトロニクス応用に向けた画期的な技術である。

用語説明

[用語1] ワイヤレス電極 : 電源からの給電がないにもかかわらず、電気化学反応を駆動する導電体。バイポーラ電極とも呼ぶ。バイポーラ電気化学[用語5]の原理により発現する。

[用語2] 電解重合法 : 電気化学反応により進行する重合(高分子合成)反応。芳香族化合物の電解酸化反応により、導電性高分子[用語3]が得られる。

[用語3] 導電性高分子 : 芳香族化合物が共役系で連結した高分子の通称。化学的重合法または電解重合法により得られる。高分子主鎖の電子状態により、半導体性~導電性を示す。

[用語4] モノマー : 高分子の前駆体であり、高分子中の繰り返し構造の基本骨格となる。

[用語5] バイポーラ電気化学 : 低電解質濃度条件の電解液中に外部電圧を印加することで、電解液中に生じた電場を駆動力として、ワイヤレス電極(バイポーラ電極)上で酸化反応と還元反応が同時に進行する。この現象を利用した分野をバイポーラ電気化学と呼ぶ。

[用語6] 電気泳動 : 電解液中の電場の影響を受けて荷電粒子が移動する界面動電現象。

[用語7] エレクトロスピニング法 : 高分子溶液に高電圧を印加することで射出しながら高分子ファイバーを製造する方法。

[用語8] テンプレート電解重合法 : 一次元の多孔質膜などをテンプレートとし、制限された空間で電解重合を行うこと。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Electropolymerization on Wireless Electrodes towards Conducting Polymer Microfibre Networks
著者 :
Y. Koizumi, N. Shida, M. Ohira, H. Nishiyama, I. Tomita, S. Inagi
(小泉裕貴、信田尚毅、大平雅人、西山寛樹、冨田育義、稲木信介)
DOI :

研究支援

JSPS科研費(26708013)、MEXT科研費(15H00724)

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 物質電子化学専攻
准教授 稲木信介

Email : inagi@echem.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5407 / Fax : 045-924-5407

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661