研究

東工大ニュース

鉛フリー圧電体の開発に新しい一歩―巨大な正方晶歪み有する新しい極性酸化物を合成―

2016.02.05

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の于潤澤博士研究員と北條元助教、東正樹教授は、環境に有害な鉛を含まず、巨大な正方晶歪みを有した新しい極性酸化物、「亜鉛酸バナジウム酸ビスマス」を合成することに成功した。有害な鉛を廃した新しい圧電体[用語1]の開発につながると期待される。

この成果は、アメリカの科学誌「ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry of Materials)」に掲載された。

研究の背景

電気と運動を変換する圧電体は、センサーやアクチュエーターとして様々な電子機器で使われている。現在の主流はPZTと呼ばれる、チタン酸鉛とジルコン酸鉛の固溶体材料だが、毒性元素である鉛を重量で68%も含むため、代替物質の開発が望まれている。

圧電体は、正の電荷を持つ陽イオンと負の電荷を持つ陰イオンの重心が一致しない、「極性」と呼ばれる結晶構造を持つ。鉛は結晶構造を歪ませる作用があるため、鉛を含む化合物ではこの正電荷と負電荷の不一致(自発分極)が増大される。PZTの優れた圧電特性は、縦方向に分極を持つ正方晶ペロブスカイト[用語2]のチタン酸鉛と、斜め方向に分極を持つ菱面体晶ペロブスカイト[用語3]のジルコン酸鉛との相境界で発現することが知られている。鉛を含まない代替の圧電材料を開発するためには、正方晶または菱面体晶ペロブスカイト構造をもつ新しい極性酸化物を見つけ出す必要がある。

研究成果

非鉛の正方晶ペロブスカイト構造をもつ材料として、亜鉛酸チタン酸ビスマスが知られている。一方、バナジウム酸鉛は、チタン酸鉛と同じ正方晶ペロブスカイト構造をもつことが知られていることから、バナジウムにはチタンと同様に、極性の構造を安定化させる効果があると考え、亜鉛酸バナジウム酸ビスマスを合成した。

電子線回折[用語4]と、大型放射光施設SPring-8[用語5]のビームラインBL02B2での放射光X線回折[用語6]を組み合わせた精密構造解析の結果、亜鉛酸バナジウム酸ビスマスが巨大な正方晶歪みを有した極性構造を持つことを確認した。これまでに報告されている同形物質には、チタン酸鉛、バナジウム酸鉛、コバルト酸ビスマス、亜鉛酸チタン酸ビスマスがあるが、今回発見した亜鉛酸バナジウム酸ビスマスは、これらの中で最も大きな自発分極を持つ。

今後の展開

今回の成果は、巨大な正方晶歪みを有した新しい非鉛の極性酸化物亜鉛酸バナジウム酸ビスマスを合成したことである。今後は、PZTに倣い、亜鉛酸バナジウム酸ビスマスを端成分とした固溶体を合成することで、有害な鉛を廃した新しい圧電材料の開発が進むことが期待できる。

亜鉛酸バナジウム酸ビスマスの結晶構造

図. 亜鉛酸バナジウム酸ビスマスの結晶構造

用語説明

[用語1] 圧電体 : 応力をかけると表面に電荷が現れ、一方電界を印可すると変形する物質。

[用語2] 正方晶ペロブスカイト : ペロブスカイトは一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。結晶構造中の原子の繰り返し周期である単位格子が、立方体ではなく、一方向に伸びた直方体である物を正方晶と呼ぶ。

[用語3] 菱面体晶ペロブスカイト : 単位格子が立方体ではなく、頂点方向に伸びたペロブスカイト。

[用語4] 電子線回折 : 電子顕微鏡の中で試料に電子線を照射し、回折パターンを調べることで、対称性や格子定数(単位格子の長さ)を決定する。

[用語5] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性の高い強力な電磁波のこと。SPring-8 では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語6] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。原子の座標から分極の大きさと方向を計算することができる。

論文情報

掲載誌 :
Chemistry of Materials
論文タイトル :
New PbTiO3-type Giant Tetragonal Compound Bi2ZnVO6 and it Stability under Pressure
著者 :
Runze Yu,1 Hajime Hojo,1 Kengo Oka,1,2 Tetsu Watanuki,3 Akihiko Machida,3 Keisuke Shimizu,1 Kiho Nakano,1 and Masaki Azuma1
所属 :
1Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology
2Department of Applied Chemistry, Faculty of Science and Engineering, Chuo University
3Quantum Beam Science Center, Japan Atomic Energy Agency
DOI :

問い合わせ先

応用セラミックス研究所
教授 東正樹

Email : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315 / Fax : 045-924-5318