研究

東工大ニュース

世界初40GHz帯/60GHz帯協調による次世代高速ワイヤレスアクセスネットワーク構築に成功

2016.03.01

国立大学法人東京工業大学(学長:三島良直/以下、東工大)、ソニー株式会社(代表執行役社長:平井一夫/以下、ソニー)、日本無線株式会社(代表取締役社長:土田隆平/以下、日本無線)、株式会社KDDI研究所(代表取締役所長:中島 康之/以下、KDDI研究所)は、大容量コンテンツ配信のための40GHz帯[用語1]/60GHz帯[用語2]協調による次世代高速ワイヤレスアクセスネットワークの共同研究開発を行い、ネットワーク構築試験に成功しました。これにより、将来のワイヤレスネットワークにおいてミリ波帯[用語3]による高速通信サービスを取り入れる一形態を示すことができました。今後増加が見込まれる移動体通信のトラヒックの一部を、周波数ひっ迫度の低い、ミリ波帯に迂回させることにより、混雑を回避できることが期待されます。2016 年3月2日(水)~3月4日(金)に東京工業大学大岡山キャンパスで開催される移動通信ワークショップ(電子情報通信学会通信ソサイエティの4研究会合同開催)に合わせ、本成果の公開実証実験が行われます。

共同研究開発したシステムの全体像

図1. 共同研究開発したシステムの全体像

なお、本成果は、総務省の電波資源拡大のための研究開発「ミリ波帯ワイヤレスアクセスネットワーク構築のための周波数高度利用技術の研究開発」の一環によるものです。

研究の背景

モバイルトラヒックの急増により、無線周波数資源が不足しており、より高い周波数帯の利活用が望まれています。特に各国で研究が進められている第5世代移動通信システム(以下、5G)が目指す高速通信性能を実現するために、ヘテロジニアスネットワーク※1の一部としてミリ波帯を用いる提案がなされています。ただし、ミリ波帯は、高速なデータ転送が提供可能である一方、電波の減衰が大きく遠くまで電波が届きにくいため、屋内や屋外の小ゾーン形成に用いられ、移動帯通信におけるワイヤレスネットワークとしての利用は難しいとされてきました。特に屋外の利用では、降雨による影響をどのように回避するかが課題の一つになっています。また、高速なデータ転送を実現するためには、無線区間の周波数利用効率の向上(多値変調方式)が必要となると共に、モバイル端末側のデータ処理速度が、現状たかだか数百Mbpsと無線区間の速度(数Gbps)よりも遅いため、この問題をどうやって解決するかが課題となります。

技術的詳細

上記の課題を解決するため、東工大、ソニー、日本無線、KDDI研究所が協力して研究開発を行い、端末側・ネットワーク側が協調し、ギガバイトクラスの大容量コンテンツを高速に配信可能な、40GHz/60GHzを組み合わせた新しいミリ波帯ワイヤレスアクセスネットワークを構築しました。その技術的ポイントは以下の4点になります。

(1)60GHz帯通信において、無線ファイル転送システムとして世界最高のユーザデータ伝送速度 6.1 Gbps を実現(ソニー、東工大)

東工大とソニーは2012年に、60GHz 無線 LSI の共同開発を行い、6.3 Gbps の物理層速度をCMOS LSIとして達成しました※2。今回、東工大において利得 6 dBi のスラブ導波路アンテナ(安藤・広川研究室)、ダイレクトコンバーション方式の65 nm CMOS 60GHz RF LSI と 2.3 G Sample/s 7-bit analog-to-digital converter(ADC)等のアナログ回路(松澤・岡田研究室)、及びソニーにおいて上記アナログ回路とrate-14/15 及び 11/15 の新規Rate-compatible LDPC符号[用語4]を用いた物理層と無線制御(MAC)層を含む 40 nm CMOS Baseband LSIを搭載した無線モジュールを開発し、帯域幅2.16GHzにおいて最大物理層速度6.57Gbpsという、60GHz 帯として高い帯域利用効率を装置として実現いたしました。なお、この無線モジュールは、現在規格化中のIEEE802.15.3e[用語5] の1stドラフトをベースに設計されています。また、端末技術では大容量キャッシュメモリへの高速データアクセスを可能にしたファイル転送システムを開発し、無線モジュールと端末を含めた無線システム全体で6.1 Gbpsという(1Gバイトのファイルを約1.3秒で送れる)世界最高のユーザデータ伝送速度の無線ファイル転送に成功しました。本技術により、モバイル端末の処理速度を上回る高速で、かつ一瞬で大容量ファイルを受け取る事ができます。

60GHz帯無線モジュール(左)とスマートフォンへの6.1 Gbps無線ファイル転送実験の様子(右)

図2. 60GHz帯無線モジュール(左)とスマートフォンへの6.1 Gbps無線ファイル転送実験の様子(右)

(2)60GHz帯ワイヤレス Gigabit Access Transponder Equipment(GATE) システムの実現(日本無線、ソニー、KDDI研究所、東工大)

60GHz帯の高速性、空間分離性といった特性を最大限に活かすために、例えば駅の改札ゲートのように、隣接して複数の装置が設置されていても、無線区間で混信することなく、それぞれ独立した装置として動作するようなシステム(以下GATEシステム)を実現しました。ここでは、東工大(安藤・広川研究室)で開発された、空間分離を可能にする高利得スロットアレイアンテナ(構築試験では1000素子程度)により、アンテナの前方10m以上に渡り、電波が拡散しない筒状のサービスエリアを実現しました。また、このエリアをユーザが短時間で通過するシナリオを想定し、通信可能になるまでのリンクセットアップ時間を2ms以下まで低減可能な無線通信制御システムを、(1)において開発したRF/BB LSI上にソニーが実装しました。これら技術を日本無線がGATEシステムとして統合しました。また、Content Centric Networking(CCN)[用語6]という次世代のネットワークアーキテクチャ技術を用いて、KDDI研究所が開発※3した、ヘテロジニアスネットワークにおける大ゾーン long-term evolution (LTE)とミリ波小ゾーン(60GHz帯)とを協調動作させる方式を本システムに採用することにより、GATEシステムを通過時にユーザが意識することなくミリ波帯で高速ファイル転送を利用することができます。

60GHz帯ワイヤレス GATE システム

図3. 60GHz帯ワイヤレス GATE システム

(3)40GHz帯通信において、Directional Division Duplex(DDD)無線通信方式[用語7]により、2倍の周波数効率を実現(日本無線、東工大)

小型でポータブルなアクセスポイントである60GHz帯ワイヤレス GATE システムを迅速にかつ自在に配置しサービスエリアを構築するには、これをネットワークに収容するための、やはり設置の自由度が高いワイヤレスリンクが有利です。組み合わせの一例として通信速度1Gbpsで伝送距離1km以上の40GHz帯無線伝送システムと、60GHz帯GATEシステムを協調動作させる構成も実フィールドで実証しました。40GHz帯の無線通信方式は同一周波数・同一偏波で同時双方向通信を実現することにより、従来のFrequency Division Duplex(FDD)方式やTime Division Duplex(TDD)方式と比較して原理的に2倍の周波数利用効率を実現しています。本方式の実現のため「高アイソレーション送受信アンテナ並列配置技術」と「自局送信波回り込みキャンセル技術」を世界で初めて調和的に動作させています。

40GHz帯DDD方式 無線通信装置
40GHz帯DDD方式 無線通信装置

図4. 40GHz帯DDD方式 無線通信装置

(4)ミリ波ワイヤレスアクセスネットワークのための経路制御技術(KDDI研究所、東工大)

ミリ波帯の通信路は降雨による減衰が大きく40GHz帯システムは主に1km程度の近距離で使用しますが、ゲリラ豪雨に代表される局地的な豪雨では回線断が発生します。これを防ぐため「降雨予測に基づいた経路制御技術」を開発し、あらかじめトラヒックの一部をう回させることにより、ネットワークとしての通信容量低下を抑える運用を行い、継続的な通信サービスを実現します。

用語説明

[用語1] 40GHz帯 : ITU WRC-2000(World Radio communication Conference)において 「固定業務における高密度に配置して使用する無線通信システムに利用可能である」という議決がなされた帯域に該当するものであり、国内周波数分配の脚注 J260 にも同様の記載のあるものです。

[用語2] 60GHz帯 : 60GHzを中心に世界中で免許不要で利用できる帯域として割り当てられている周波数帯です。日本国内では57~66GHzの周波数帯域が使用可能となっています。

[用語3] ミリ波帯 : 一般的に、波長がmmオーダとなる30GHz帯以上の周波数帯です。

[用語4] Rate-compatible LDPC符号 : 複数の符号を1つ分の符号の回路で復号可能(rate compatible)なlow-density parity-check(LDPC)誤り訂正符号です。

[用語5] IEEE802.15.3e : 最大 100 Gbps までの物理層データ伝送速度とリンクセットアップ時間2 ms をサポートする次世代60GHz 無線通信規格です。

[用語6] Content Centric Networking(CCN) : 現在 Internet Research Task Force(IRTF)で議論がなされている、Internet Protocol(IP)に変わる新しいプロトコルです。現在のIPが端末間を接続することを目的としているのに対して、「コンテンツ」の配信を目的としてネットワークを構築し直すという考え方に基づいています。

[用語7] Directional Division Duplex(DDD)無線通信方式 : 3GPP等でも近年注目され始めた技術で、「Full Duplex」とも呼ばれています。

補足説明

※1
セル半径や方式の異なるシステムを同一エリアに混用するネットワーク技術でHetNetとも呼ばれています。小セルにミリ波を適用する提案として、例えば以下があります。
Millimeter-Wave Evolution for 5G Cellular Networks outer
※2
ニュースリリース: 世界最高 のデータ伝送速度6.3 Gb/sを実現する低消費電力・広帯域ミリ波無線用LSIを共同開発~モバイル機器搭載を想定した低消費電力動作を実現~
Sony Japan outer / 東京工業大学 outer
※3
プレスリリース: 60GHz帯通信とLTEを協調動作させる通信方式の開発~5G時代の新しい通信プロトコル~
株式会社KDDI研究所 outer

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ソニー株式会社 広報・CSR部

Tel : 03-6748-2200

日本無線株式会社 経営企画部 広報担当

Tel : 03-6832-0455

株式会社KDDI研究所 営業・広報部

Email : inquiry@kddilabs.jp
Tel : 049-278-7464

3月2日 9:30 図4の画像が不足していたため、追加しました。