研究

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原子核からほんの少しあふれた2個の中性子

2016.03.15

原子核からほんの少しあふれた2個の中性子
―重い酸素同位体の質量測定が明らかにする極限原子核の世界―

要点

  • 中性子の数が極端に多い酸素同位体「酸素26」の質量を高精度で決定
  • 酸素26では2個の中性子をつなぎとめるエネルギーがほんの少し足りない
  • 未解決問題である中性子ドリップライン異常や核力の解明の手掛かりに

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の近藤洋介助教、中村隆司教授、理化学研究所(理研)仁科加速器研究センターの大津秀暁チームリーダー、米田健一郎チームリーダーらの研究グループは、8個の陽子と18個の中性子からなる重い酸素同位体「酸素26」を人工的に生成し、中性子のうち2個は原子核に結びつけておくためのエネルギーがわずかに足りず、その不足分が通常の原子核における2中性子の結合エネルギーの1000分の1程度と極めて小さいこと(いままで観測されたものの中で最小)を見出した。さらに酸素26の励起状態を発見した。

世界的な不安定核研究施設である理研RIビームファクトリー[用語1]に最近建設された高性能の多種粒子測定装置SAMURAI[用語2]により酸素26の質量を精度よく測定することに初めて成功した。

原子核に付け加えることのできる中性子の数が、酸素同位体ではフッ素同位体(酸素の隣の元素)に比べて極端に少ない。今回の結果はこの問題の解決の鍵となる。また、いまだに謎の多い、陽子と中性子を結びつける力「核力」や、中性子が過剰になったときに発現する「魔法数の異常」の理解にもつながると期待される。すれすれで結びついていない状態にある2個の中性子は、ダイニュートロン相関[用語3]をもった2中性子系となる可能性も指摘されている。

この研究は東工大、理研のほか、カン素粒子原子核研究所(LPC-CAEN)(フランス)、ソウル国立大(韓国)等と共同で行いました。研究成果は3月9日に米国物理学会の学術雑誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)」電子版に掲載された。

研究成果

原子核は、いくつかの陽子・中性子が、湯川秀樹博士の提唱した「核力」によって結びついてできている。天然に存在する安定な原子核(安定核)は陽子数と中性子数がほぼ等しく、中性子数を増やしていくと不安定になる(不安定核)。さらに中性子数を加えていくと、中性子を原子核に結びつけておくことができなくなる。中性子をさらに無理矢理結合させようとしたときに原子核はどうなるのか、これがこの研究のテーマである。陽子の2倍以上の中性子を含む酸素26の場合、実際、最後の2個の中性子はもはや結合されていない非束縛の状態にある。

今回の研究では、寿命が極めて短いこの原子核を理研RIBFにおいて2段階の反応(カルシウム48→フッ素27→酸素26)で生成し、酸素26の2つの状態(基底状態、第一励起状態[用語4])の質量を高精度で求めることに成功した。その結果、酸素26(基底状態)は、2個の中性子を原子核に結合させるのに、わずかに18キロ電子ボルトだけ足りないだけの特異な共鳴状態であることが明らかになった。

これは通常2個の中性子を結合しているエネルギー(約16メガ電子ボルト)に比べると、わずか1000分の1程度である。これ以上、中性子を束縛しておけなくなる原子核の限界を「中性子ドリップライン[用語5]」と呼んでいるが、酸素同位体では、付けられる中性子の数が、隣のフッ素同位体(陽子数9)より6個も少なく、この原因が不明であることが問題となっていた(酸素ドリップライン異常)。

今回、高精度で決定されたドリップラインを超えた原子核「酸素26」の質量は、この謎を解明するための鍵になると考えられる。また、得られた2つの状態の質量(エネルギー)は、中性子を原子核に結びつけるのに必要な「核力」の優れたベンチマークになることが、多くの理論計算で示されている。特に、よくわかっていない「三体力」に制限を与えると期待されているが、これは謎に包まれている中性子星の性質を決めるために重要であると最近考えられている。また、中性子過剰核で問題となっている「魔法数の異常」の理解にもつながる結果である。これは、宇宙での元素合成過程の理解に不可欠である。さらに2個の中性子が強く相関している「ダイニュートロン相関」の可能性が指摘されており、原子核の新しい量子相関が見えるかもしれない。一方、酸素26では通常の2中性子を放出する原子核に比べて寿命が長くなる可能性も指摘されている(二中性子放射性)。

2個の中性子が原子核からあふれ出るイメージ

図1. 2個の中性子が原子核からあふれ出るイメージ左側は安定同位体の酸素16、右側は酸素26を示し、赤は陽子、青は中性子を表している。酸素16では陽子・中性子が深く束縛されているのに対し、それよりも10個中性子の多い酸素26では2個の中性子が束縛されることなくあふれ出てしまう。

研究の背景

すべての物質は原子という基本単位に分解することができるが、原子核はその原子の中心に存在し、大きさが1兆分の1cmに満たないほどの微小な粒子である。この微小な粒子は、いくつかの陽子と中性子が「核力」で互いに結びついてできている。20世紀末になると、陽子数・中性子数が天然に存在する原子核と比べて著しくアンバランスな不安定核のビームを効率よく生成する手法が発明され、陽子数に比べて中性子数の多い中性子過剰核を人工的に作り出すことが可能になった。

中性子数を増やしていくと、結合のエネルギーが減っていき、最終的には原子核にとどめておくことのできる限界に達し、それを超えると中性子は原子核に束縛されずにあふれ出てしまう。この原子核が束縛できるかどうかの境界を中性子ドリップラインと呼んでいる。

図2は束縛することができる原子核(束縛核)を、横軸に中性子数、縦軸に陽子数をとって示した核図表と呼ばれるものである。中性子ドリップラインの位置は原子核を結びつける「核力」や「多体効果」に大きく依存するため、原子核はいったいどこまで存在することができるのか、という根本的な問いは、原子核を理解することに等しい。そのため、この領域の原子核の研究が実験・理論により精力的に行われている。

中性子ドリップラインは安定核から離れたところに位置するので(図2参照)、そこに位置する原子核は生成が難しい。そのため、現在のところ実験的に到達できている中性子ドリップラインは陽子数8の酸素同位体までであり、それより陽子数の大きい領域ではドリップラインの位置は理論計算に頼るしかない。酸素同位体(陽子数8)のドリップラインは中性子数16の酸素24であるのに対し、フッ素同位体(陽子数9)では中性子数22のフッ素31が束縛することが実験的にわかっている。

中性子数・陽子数を軸にとって原子核を表す核図表の一部

図2. 中性子数・陽子数を軸にとって原子核を表す核図表の一部それぞれの四角は原子核を示し、黒い四角は天然に存在する安定核を表している。
今回の研究対象である酸素26(赤色)は中性子ドリップライン(紫色)の外側に位置している。

結合できる中性子数は陽子数が増えるにつれて徐々に増えていくが、酸素・フッ素同位体のように中性子数が6個も変化する例はほかにない。なぜ中性子ドリップラインが急激に変化するのか、その理由は現在のところよくわかっていない。鍵をにぎると考えられているのが、核力でも特に謎の多い「三体力」や、原子核の秩序の崩れである「魔法数の異常」、中性子があふれ出たことによる「連続状態効果」などである。

ドリップラインを超えた原子核、つまり中性子があふれた状態になっている酸素25~酸素28は非常に寿命が短い(10‐22秒から10‐12秒程度)が、もし生成することができれば、「酸素ドリップライン異常」の謎に迫り、さらに上で述べたような興味深い原子核物理の謎を明らかにすることに発展すると期待される。

研究の経緯

本研究の対象である酸素26は、多くの理論では中性子ドリップラインの内側に位置する束縛核であると計算されるのに対し、実験的に中性子ドリップラインの外側に位置する非束縛核であることが知られていた。ただし束縛するために必要なエネルギーはどれくらいなのか、非束縛の度合いはわかっていなかった。

これまで酸素26の質量測定は米国、ドイツで行われた先行研究が2例あったが、生成量が十分でなかったため、質量の上限値しか与えられていなかった。また励起状態については未知であった。本研究では、2012年に新たに建設された理研RIBFの測定装置SAMURAIを用いて実験を行い、先行研究に比べて約5倍の統計量を得ることができ、それにより初めて質量を高精度で決定することに成功した。

さらに、先行研究では確認されていなかった第一励起状態を初めて観測することにも成功した。これらの成果は、原子核反応で放出される複数の粒子を高効率で検出することができるSAMURAIとRIBFが供給することのできる大強度の不安定核ビームを組み合わせることにより初めて達成することができたと言える。

今後の展開

今回得られた結果は、多くの理論研究が束縛すると予想していた酸素26について、非束縛の度合いを初めて実験的に示したものである。これは「中性子ドリップライン異常」の議論において、さまざまなモデルを検証するための重要なベンチマークとなる。三体力、魔法数、ダイニュートロン相関、連続状態などの複合的効果により問題が生じている可能性があり、これらの効果を解き明かしていくためにさらなる理論の進展が期待される。また、第二段階の実験として、酸素26よりもさらに中性子数の多い酸素27、酸素28の質量測定を2015年11月~12月に行った。

これにより、さらに「中性子ドリップライン異常」の謎に迫ることができると期待される。中性子ドリップライン異常を解明することができれば、実験で到達できない領域での原子核の安定性をより高い精度で予想することが可能となり、元素合成の解明や中性子星の性質の理解に大きく貢献すると考えられる。

今回の研究で用いた新しい測定装置SAMURAIは、原子核反応で生じる複数の粒子を高効率で検出できるため、様々な実験に用いることができる。中性子ドリップライン近傍の原子核の研究をはじめ、中性子よりも陽子を多く含む陽子過剰核の研究や、原子核同士の衝突実験などが計画されている。これらの研究は、宇宙での元素合成や中性子星の性質の理解につながるものであり、今後SAMURAIが原子核物理で中心的な役割を果たすと考えられる。

今回の研究について

今回の研究は科研費若手B(No.24740154)および新学術領域(No.24105005)、韓国の世界水準研究中心大学育成事業(R32-2008-000-10155-0)とグローバルPhDフェローシッププログラム(NRF-2011-0006492)、ドイツ・ヘルムホルツ国際センターの補助を受けている。また共同研究者のN. L. Achouri、F. Delaunay、J. Gibelin、F. M. Marqués、N. A. Orrは仏日国際連携(FJ-NSP)、A. Navinは日本学術振興会の外国人研究者招へいプログラムの補助を受けている。

用語説明

[用語1] RIビームファクトリー(RIBF) : 埼玉県の理化学研究所にあるRIビーム発生系施設と独創的な基幹実験設備で構成される重イオン加速器施設。2基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置「BigRIPS」で構成される。ウランまでの重イオンを核子あたり345メガ電子ボルトまで加速することができ、世界最大強度の不安定核ビームを供給することができる。また、これまで生成不可能であったRIも生成でき、世界最多となる約4,000種のRIを創出できる性能を持つ。そのため、原子核研究の世界的拠点となっている。

[用語2] SAMURAI : 2012年に理研RIビームファクトリーに完成した多種粒子測定装置。最大中心磁場3.1テスラの超伝導双極子磁石、荷電粒子用検出器群、中性子検出器から構成される。原子核反応で放出されるすべての粒子を高効率で検出することができる。

[用語3] ダイニュートロン相関 : 2個の中性子が原子核内で空間的に近い位置に存在するような相関。

[用語4] 基底状態・励起状態 : 原子核には複数の量子状態がある。基底状態はエネルギー(質量)のもっとも小さい安定な状態であり、励起状態はそれよりもエネルギーの高い状態である。基底状態の質量や、励起状態へと励起するためのエネルギーは原子核の構造により大きく変化するので、これらを調べることにより、原子核の構造を知ることができる。

[用語5] 中性子ドリップライン : 陽子数・中性子数がほぼ同数の安定同位体に中性子を加えていくと、あるところで中性子が原子核に結合することができずにこぼれ出てしまう。この境界を中性子ドリップラインと呼ぶ。実験的には陽子数8の酸素同位体までしか確定されていない。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Nucleus 26O: A Barely Unbound System beyond the Drip Line
著者 :
Y. Kondo,1 T. Nakamura,1 R. Tanaka,1 R. Minakata,1 S. Ogoshi,1 N. A. Orr,2 N. L. Achouri,2 T. Aumann,3, 4 H. Baba,5 F. Delaunay,2 P. Doornenbal,5 N. Fukuda,5 J. Gibelin,2 J. W. Hwang,6 N. Inabe,5 T. Isobe,5 D. Kameda,5 D. Kanno,1 S. Kim,6 N. Kobayashi,1 T. Kobayashi,7 T. Kubo,5 S. Leblond,2 J. Lee,5 F. M. Marqu'es,2 T. Motobayashi,5 D. Murai,8 T. Murakami,9 K. Muto,7 T. Nakashima,1 N. Nakatsuka,9 A. Navin,10 S. Nishi,1 H. Otsu,5 H. Sato,5 Y. Satou,6 Y. Shimizu,5 H. Suzuki,5 K. Takahashi,7 H. Takeda,5 S. Takeuchi,5 Y. Togano,4, 1 A. G. Tuff,11 M. Vandebrouck,12 and K. Yoneda5
所属 :
1Department of Physics, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 O-Okayama, Meguro, Tokyo 152-8551, Japan
2LPC Caen, ENSICAEN, Universit'e de Caen, CNRS/IN2P3, F-14050, Caen, France
3Institut f¨ur Kernphysik, Technische Universit¨at Darmstadt, D-64289 Darmstadt, Germany
4ExtreMe Matter Institute EMMI and Research Division, GSI Helmholtzzentrum
f¨ur Schwerionenforschung GmbH, D-64291 Darmstadt, Germany
5RIKEN Nishina Center, Hirosawa 2-1, Wako, Saitama 351-0198, Japan
6Department of Physics and Astronomy, Seoul National University, 599 Gwanak, Seoul 151-742, Republic of Korea
7Department of Physics, Tohoku University, Miyagi 980-8578, Japan
8Departiment of Physics, Rikkyo University, Toshima, Tokyo 171-8501, Japan
9Department of Physics, Kyoto University, Kyoto 606-8502, Japan
10GANIL, CEA/DSM-CNRS/IN2P3, F-14076 Caen Cedex 5, France
11Department of Physics, University of York, Heslington, York YO10 5DD, United Kingdom
12Institut de Physique Nucl'eaire, Universit'e Paris-Sud,IN2P3-CNRS, Universit'e de Paris Sud, F-91406 Orsay, France
DOI :

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Email : media@jim.titech.ac.jp
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