研究

東工大ニュース

混ぜるだけで簡単に有機エレクトロニクス材料を合成―新反応により多様なπ共役化合物合成を簡便・低コストで実現―

2016.09.02

要点

  • ホウ素があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見
  • 有機エレクトロニクス材料開発への応用が期待
  • 本手法で用いるホウ素化合物を販売予定

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の庄子良晃助教・福島孝典教授らの研究グループは、典型元素である“ホウ素”があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見しました。これにより、アセチレン[用語1]誘導体をひとつの反応容器で行う反応(ワンポット反応)で芳香環化[用語2]できることから、様々なπ共役化合物[用語3]を極めて容易に合成できます。今後、有機エレクトロニクス[用語4]材料開発への応用が期待されます。

π共役化合物は、近年盛んに応用開発が行われている有機エレクトロニクスの基盤となる化合物群です。研究グループでは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を引き起こし、最終的にホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素骨格からなるπ共役化合物が得られることを見出しました。このような反応パターンは、遷移金属が触媒する結合形成反応ではよく知られていますが、典型元素であるホウ素では初めての例となります。本成果は、幅広いπ共役化合物の新合成手法としてばかりでなく、基礎化学的にも、典型元素の化学のより深い理解へつながると考えられます。

本成果は、2016年9月1日に英国科学雑誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。また、本手法で用いるホウ素化合物が、有機合成用試薬として東京化成工業株式会社より販売される予定です。

研究の背景

π共役化合物は、近年注目を集めている有機エレクトロニクスの分野で基盤となる物質です。π共役系がどのようにつながっているか、あるいはどのような立体構造を持つかで、π共役化合物の性質は大きく変わります。そのため、目的の構造をもったπ共役化合物を効率的に合成する手法が求められていました。従来、巨大なπ共役系を有する化合物を合成しようとすると、多段階で手間のかかる合成作業が必要でした。π共役化合物の簡便な合成を可能にする強力な手法として、ノーベル賞で話題になったクロスカップリング[用語5]が挙げられますが、多段階反応かつ高価で希少な遷移金属触媒の利用や、特殊な合成技術が必要などといった課題がありました。

研究内容と成果

東工大の庄子助教・福島教授らの研究グループは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を無触媒で引き起こすことを見出しました(図1)。最終的にはホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素骨格からなるπ共役化合物が得られます。この反応は (1)ボラフルオレンというホウ素化合物による、アセチレンの1,2-カルボホウ素化[用語6]反応と、(2)その生成物(ボレピン)の一電子酸化による脱ホウ素化/C-C結合形成反応の2段階からなります(図1)。この2段階目の反応は、これまで知られていなかった新しい反応です。形式的に高エネルギーなホウ素のカチオン種([B-Cl]・+)の脱離を伴うため、これまでの常識を外れた反応と言えます。

ホウ素化合物による連続的炭素-炭素結合形成反応の概略

図1. ホウ素化合物による連続的炭素-炭素結合形成反応の概略

この反応は官能基許容性および基質適用性に優れています。反応を行うのに必要な操作は、「ボラフルオレンとアセチレン誘導体を混ぜ、温めながら撹拌した後で、反応系に安価な酸化剤(塩化鉄(III)など)を加えるだけ」というごく簡便なものです。様々なアセチレン誘導体をワンポット反応で簡便に芳香環化することが可能です。そのため、この反応により、巨大なπ共役系や、複雑な湾曲構造、三次元的な分子骨格をもつものなど、特徴的なπ共役化合物を簡便かつ高価な触媒を使わないで低コストに得ることができます(図2)。

本反応により得られるπ共役化合物の例

図2. 本反応により得られるπ共役化合物の例

今回新たに発見したホウ素化合物の反応(図3A)は、遷移金属錯体に典型的に見られる連続的な結合形成反応(図3B)と反応パターンが類似しています。典型元素であるホウ素が、反応においてあたかも遷移金属のように振る舞うという今回の発見は、ホウ素を始めとする典型元素の化学をより深く理解するための重要な知見であると考えられます。

今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性

図3. 今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性

今後の展開

今回の新合成手法によって、様々なπ共役化合物を、極めて簡便かつ安価に合成する道が拓けました。このようなπ共役化合物は、有機半導体材料、発光材料、動的な性質やキラル[用語7]な構造に基づく新機能材料など、次世代技術である有機エレクトロニクスを支える物質としての活用が期待されます。現在、研究グループでは、この手法を利用した機能性π共役化合物の開発に取り組んでいます。また、典型元素化学のより深い理解へ向け、この反応のメカニズムの詳細な解析に力を入れています。

有機合成上の有用性が高く「混ぜるだけ」で実施できる本手法を、より多くの研究者が利用できるよう、東京化成工業株式会社から、この手法で利用するボラフルオレンを、有機合成用試薬(製品コードC3421)として販売予定です。また、新合成手法のプロトコルを記載したパンフレットも配布予定です。

本成果は、以下の研究支援により得られました。

  • 研究課題:
    科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)
    「大規模分子集積化による巨視的π造形システム」
  • 研究代表者:
    福島 孝典(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授)
  • 研究期間:
    平成26~30年度
  • 研究課題:
    科研費 挑戦的萌芽研究
    「空軌道エンジニアリングによる電子輸送システムの構築」
  • 研究代表者:
    庄子 良晃(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教)
  • 研究期間:
    平成26~27年度

用語説明

[用語1] アセチレン : 炭素-炭素三重結合をもつ化合物を総称してアセチレンと呼ぶ。狭義には、最小の炭素-炭素三重結合化合物 C2H2(HC≡CH)を指す。

[用語2] 芳香環化(用語3も参照のこと) : 芳香環を形成する反応。芳香環とは、ベンゼンに代表される、芳香族性をもった環状構造のことを指し、共平面性をもって環状共役した(4n + 2)個のπ電子(nは整数)から構成される。この環状共役によって、芳香族化合物は特別な安定化を受けている。芳香環をもつ化合物は、様々な機能材料のコンポーネントとして重要である。また芳香環は、DNAやタンパク質にも含まれており、それらの立体構造の制御や機能発現に大きく寄与している。

[用語3] π(パイ)共役化合物 : π共役系から構成される化合物。π共役系は、交互につながった単結合と多重結合からなり、非局在化した電子(π電子)を有する。π電子は、光吸収・発光特性、電導性、磁性など、π共役化合物が発現する様々な物性を司っている。

[用語4] 有機エレクトロニクス : 有機材料を基盤としたエレクトロニクス。有機トランジスタや有機EL(エレクトロルミネッセンス)など。現在、有機材料に特有な柔軟性、軽量性やプロセス容易性を活かした素子開発が盛んに行われている。

[用語5] クロスカップリング : 二つの有機化合物同士を結合させる反応。パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応は、2010年のノーベル化学賞の対象となった。

[用語6] カルボホウ素化 : 多重結合に、ホウ素と有機基を単工程で導入する反応。多重結合を構成する炭素原子のうち、一方にホウ素、もう一方に有機基が導入される反応を1,2-カルボホウ素化反応と呼ぶ。それに対して、同一の炭素原子上にホウ素と有機基が導入される反応を1,1-カルボホウ素化反応と呼ぶ。

[用語7] キラル : 鏡像同士を重ね合わせることができない性質。右手と左手の関係。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
"Boron-mediated sequential alkyne insertion and C-C coupling reactions affording extended π-conjugated molecules"
著者 :
Y. Shoji, N. Tanaka, S. Muranaka, N. Shigeno, H. Sugiyama, K. Takenouchi, F. Hajjaj and T. Fukushima*
DOI :

特許情報

本学産学連携推進本部を通じて、本成果を基にした特許出願を行っています(特願2016-037295)。

問い合わせ先

試薬販売・パンフレットに関すること

東京化成工業株式会社
本社営業部

Email : Sales-JP@TCIchemicals.com
Tel : 03-3368-0489 / Fax : 03-3368-0520

大阪営業部

Email : osaka-s@TCIchemicals.com
Tel : 06-6228-1155 / Fax : 06-6228-1158

取材に関すること

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661