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地球内部に最も多いブリッジマナイトの結晶選択配向の決定 沈み込んでいくプレートの流れる方向を解明

2016.10.19

地球内部に最も多いブリッジマナイトの結晶選択配向の決定 沈み込んでいくプレートの流れる方向を解明
―火山や地震に影響を与えるマントルダイナミクスの解明に前進―

岡山大学 惑星物質研究所の辻野典秀JSPS特別研究員(PD)、山崎大輔准教授と愛媛大学、神戸大学、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)、東京工業大学の共同研究グループは、地球内部で最も多く存在するブリッジマナイト[用語1](図1)多結晶体のせん断変形による結晶選択配向[用語2]を実験により解明。スラブ(沈み込んだプレート)近傍の地球下部マントル[用語3]の流れ場(図2)を明らかにしました。本研究結果は10月17日(英国時間午後4時)、英国の科学雑誌「Nature」のLetterとして公開されました。

本研究成果により、地震波異方性が観察されている領域の流れ場を明らかにすることができ、火山や地震に影響を与えるマントルダイナミクスに重要な知見を与えることが期待されます。

ブリッジマナイトの結晶構造

図1. ブリッジマナイトの結晶構造

トンガーケルマディックスラブ近傍の地球マントルの内部構造

図2. トンガーケルマディックスラブ近傍の地球マントルの内部構造

業績

岡山大学 惑星物質研究所の辻野典秀JSPS特別研究員(PD)、山崎大輔准教授と愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西原遊准教授、神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻の瀬戸雄介講師、公益財団法人高輝度光科学研究センターの肥後祐司研究員、東京工業大学 理学院の高橋栄一教授らの共同グループは、高圧実験技術の改良により、ブリッジマナイト多結晶体の大歪(だいひずみ)せん断変形実験に成功。SPring-8[用語4]のBL04B1の高輝度単色X線を利用して、回収試料の変形したブリッジマナイト多結晶体の結晶選択配向を決定しました。決定した結晶選択配向をもとに、これまで報告されている地震波速度異方性から、沈み込んでいるスラブの流れの方向を明らかにしました。

背景

地球マントルの物質循環(プレートの沈み込み、プルームの上昇、対流様式等)を理解する上で、マントルのレオロジー(流動特性)を知ることは必要不可欠です。特に、深さ660 km以深の下部マントルはマントル全体の約70体積%を占め、また、下部マントルのおよそ77体積%はブリッジマナイトという鉱物が占めると考えられていることから、ブリッジマナイトの流動特性の解明は下部マントルの流動特性を理解するために必須です。

地球物理学的観測によって、スラブ周辺の下部マントルにおいて、S波[用語5]の地震波速度の異方性が観測されています。この異方性の要因として、マントル鉱物、この場合はブリッジマナイトのせん断変形による結晶選択配向が考えられます。しかしながら、これまで実験的困難さから、下部マントル条件下でせん断変形によって引き起こされるブリッジマナイトの結晶選択配向は明らかとなっていません。そのため、地震波速度の異方性の成因は未解決の問題でした。

見込まれる成果

下部マントル上部の温度圧力条件(25万気圧、1600 ℃)でせん断変形実験を行うことによって、世界で初めて変形に伴うブリッジマナイトの結晶選択配向を明らかにし、 結晶のa面内をc軸方向に転位[用語6]が移動するすべり系が主要になっていると推定しました。これらの結果とこれまでに報告されているブリッジマナイトの弾性定数と組み合わせることにより、下部マントルでのスラブ近傍で観測されている地震波速度異方性がスラブに沿った変形によって説明できることを明示しました。

結晶選択配向は地震波異方性を引き起こす重要な要因のうちの一つです。実験的に各マントル鉱物の変形による結晶選択配向を明らかにすることは、マントルダイナミクスを理解するうえで重要なアプローチの一つです。本研究成果は、これまで、明らかにされていなかったブリッジマナイトのせん断変形誘起の結晶選択配向を明らかにし、スラブの流動方向を確定しました。さらに、本研究での変形実験技術の開発で下部マントル条件での大歪変形実験を可能としたことにより、今後更なる下部マントル鉱物のレオロジー(特に粘性率)に関する重要な知見を提供できるようになると期待されます。

用語説明

[用語1] ブリッジマナイト : 深さ660 km - 2900 kmに広がる下部マントルの最主要鉱物(77体積%)であると考えられている鉱物です。主な組成は(Mg,Fe)SiO3であり、結晶構造はペロブスカイト型構造です。2014年に国際鉱物学連合によりブリッジマナイトという名称が承認されました。この名称は高圧物理学でノーベル物理学賞を受賞したパーシー・ブリッジマンに由来します。

[用語2] 結晶選択配向 : 鉱物の多結晶体の各粒子がランダムな方位を向いているのでなく、ある特定の方位を向いている状態。地球マントルでの結晶選択配向は主に、マントル対流(塑性変形)により発達すると考えられています。

[用語3] マントル : 地球型惑星では金属核の外側に広がる岩石層。地球において、大陸地域では地表下30 - 70 kmから、海洋地域では海底面下約7 kmから約2900 kmの深さまでに広がっています。また、地震学的観測および鉱物学的検討から深さ410 kmまでを上部マントル、深さ410 - 660 kmを遷移層、深さ660 km - 2900 kmを下部マントルと呼びます。

[用語4] SPring-8 : 兵庫県にある世界最大級の大型放射光施設。リング型の施設で、電子を光速程度まで加速して得られる非常に強いX線を用いて、様々な研究が行われています。

[用語5] S波 : Secondary wave(第二波)の略称。進行方向に対し、直交した方向に振動する弾性波です。

[用語6] 転位 : 結晶中に含まれる線状の結晶欠陥。転位が生成され、移動することによって、結晶の変形に要する力は、結晶内での原子間の結合力よりも小さくなります。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Mantle dynamics inferred from the crystallographic preferred orientation of bridgmanite
「ブリッジマナイトの結晶選択配向から読み解くマントルダイナミクス(仮)」
著者 :
Noriyoshi Tsujino, Yu Nishihara, Daisuke Yamazaki, Yusuke Seto, Yuji Higo, Eiichi Takahashi
DOI :

この研究は辻野典秀JSPS特別研究員の東京工業大学での博士論文研究を発端とし、JSPS KAKENHI Grant Number 15J09669, 25247088, 21109001によって支援されました。

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10月21日15:10 用語説明に誤字があったため、修正しました。