東工大ニュース

光ファイバーセンサーの超高速化に成功―社会インフラの劣化や損傷の迅速な検出、ロボットの「神経」利用に期待―

RSS

公開日:2016.12.16

要点

  • 光ファイバー中の変形(伸び)や温度をリアルタイムに検出するシステムを開発した。
  • 片端からの光入射で動作するため、たとえ光ファイバーの内部が破断しても動作が継続する。
  • 従来法の5,000倍以上の動作速度を達成し、たわみ変形の伝搬の追跡も実証した。
  • 防災・危機管理技術としての応用を広げるとともに、ロボットの「神経」としての活用も期待される。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の水野洋輔助教と中村健太郎教授は、日本学術振興会特別研究員PDの林寧生博士、ファナック株式会社 サーボ研究所の福田英幸氏(元東京工業大学中村研究室所属)、韓国中央大学 物理学科の宋光容教授とともに、光ファイバー中の変形(伸び)と温度を検出できる分布型光ファイバーセンサーの性能向上に取り組み、片端からの光入射とリアルタイム動作の両立に世界で初めて成功しました。

近年、社会インフラの経年劣化や、地震等の自然災害対策が大きな社会問題として浮上していますが、ビル、トンネル、橋梁などの構造物に光ファイバーを「神経」として埋め込むことによって、構造物の変形を正確に監視できます。

これまでの手法は、光ファイバーの両端から光を入射していましたが、センサーの敷設に手間がかかるばかりか、光ファイバーが途中で1か所でも破断すると動作が停止してしまう難点がありました。今回、位相検波[用語1]技術に基づいて、片端からの光入射による分布型光ファイバーセンサーの超高速化に成功し、これらの問題点を克服しました。その結果、従来法の5,000倍以上となる測定速度である100 kHzのサンプリングレート[用語2]を達成し、たわみ変形の伝搬を追跡することでリアルタイム動作を実証しました。

本システムは、防災・危機管理技術としての応用範囲を広げ、生活の安全性向上に寄与するとともに、ロボットの新たな「神経」としての応用も期待できます。

研究成果は、2016年12月16日発行の英国科学誌ネイチャー(Nature)系の光学専門誌「ライト:サイエンス・アンド・アプリケーションズ(Light: Science & Applications)」に掲載されました。

背景

1960年代から70年代にかけての高度経済成長期に、集中的に建設された社会インフラの経年劣化が進んでいます。また、地震等の自然災害による損傷も蓄積して大きな社会問題に浮上してきています。この有力な対策として構造物に光ファイバーを埋め込むことで、構造物内の変形や温度を分布的に測定するシステムが使われつつあります。長距離にわたって測定が可能なうえ、電磁ノイズに強い等の利点があり、注目を集めています(図1)。

特に、光ファイバー中のブリルアン散乱[用語3]の周波数シフト(BFS)を用いた分布型の伸び・温度センサーは、他の手法に比べて高精度・高安定であることが知られています。中でも、ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)[用語4]と呼ばれる手法は、光ファイバーの片端から光を入射するだけでの動作、および、高空間分解能[用語5]、低コストなどの利点を併せ持っています。すでに、1 cm以下の分解能の実現など、多くの成果が得られています。しかし、サンプリングレートは19 Hzが最高であり、結果として分布測定に比較的長時間(数十秒~数分)がかかるという問題がありました。

分布型光ファイバーセンサーの概念

図1. 分布型光ファイバーセンサーの概念

研究の経緯

従来のシステムでは、ブリルアン散乱スペクトル全体を電気スペクトルアナライザーの周波数掃引機能を用いて取得した後、そのピーク値を与える周波数(BFS)を算出していました。その結果、サンプリングレートは19 Hzに制限されていました。そこで、電圧制御発振器を用いて周波数掃引を行うことで、高速なスペクトルの取得を実現しました(図2左)。しかし、そのままではBFSの算出が速度を制限してしまいます。そのため、さらに取得したスペクトルを狭帯域通過フィルター(BPF)により正弦波に近似して、排他的論理和(XOR)の論理ゲートと低域通過フィルター(LPF)を用いて位相検波を行いました(図2右)。これにより、BFSと1対1対応となる量を直接取得することが可能となりました。結果として、100 kHzを超えるサンプリングレートを達成することができました。

超高速化の原理

図2. 超高速化の原理

研究成果

反射光の解析に位相検波を導入することで、片端からの光入射による分布型光ファイバーセンサーの超高速化に成功しました。これにより、光ファイバー中の任意の位置での伸びや温度変化を、1秒間に10万回測定できるようにしました。これは従来法の5,000倍以上の速度です。

まず、1 kHzの局所的な振動の検出に成功しました。次に、光ファイバーをたわませて発生させた変形の伝搬を検出しました(図3)。以上により、リアルタイム動作が確認できました。関連動画も参照ください。

伝搬するたわみ変形のリアルタイム検出

図3. 伝搬するたわみ変形のリアルタイム検出

今後の展開

本手法は、伸び縮み(振動)や温度変化の分布情報を片端からの光入射で、リアルタイムかつ高空間分解能で取得できるため、様々な構造物(ビル・橋梁・トンネル・ダム・堤防・パイプライン・風車の羽根・航空機の翼など)に関わる防災・危機管理技術として幅広く活用することができます。また、アームに巻き付けることで、任意の位置で接触や変形、温度変化を検出するロボットの新しい「神経」としての応用も期待できます。

用語説明

[用語1] 位相検波 : 2つの正弦波が時間的にどれくらいずれているかを検出すること。

[用語2] サンプリングレート : 光ファイバー中のある1点の伸びや温度を、1秒間あたりに測定できる回数。例えば、サンプリングレートが100 kHzであるとは、ある位置での伸びや温度を1秒間に10万回測定できることを意味する。

[用語3] ブリルアン散乱 : 光ファイバー中に存在する微弱な超音波により入射光が散乱され、周波数のダウンシフトを伴って反射される現象。周波数シフト量(BFS)が伸びや温度に依存するため、センシングの原理として利用されている。

[用語4] ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR) : 入射光に巧みな周波数変調を施すことで、光ファイバーのある特定の箇所で生じたブリルアン散乱信号のみを選択的に抽出し、分布測定を実現する手法。光ファイバーの片端からの光入射で動作するのが最大の特長である。

[用語5] 空間分解能 : 検出可能な伸びや温度変化区間の最短の長さ。

研究サポート

本研究は、科学研究費補助金(25709032、26630180、25007652)の支援を受けました。

論文情報

掲載誌 :
Light: Science & Applications
論文タイトル :
Ultrahigh-speed distributed Brillouin reflectometry
(超高速分布型ブリルアン反射計)
著者 :
Yosuke Mizuno, Neisei Hayashi, Hideyuki Fukuda, Kwang Yong Song, and Kentaro Nakamura
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
助教 水野洋輔

E-mail : ymizuno@sonic.pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5052 / Fax : 045-924-5091

日本学術振興会特別研究員 林寧生
(東京大学 先端科学技術研究センター 情報デバイス分野)

E-mail : hayashi@cntp.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5452-5155 / Fax : 03-5452-5151

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

RSS