研究

東工大ニュース

癌再発に深く関わる癌幹細胞が診断薬5-ALAによる検出を免れる特性を発見―癌の再発リスクを抑える診断・治療法の開発に期待―

2017.02.08

ポイント

  • 癌幹細胞は癌の進展と治療抵抗性、再発に深く関与する癌の責任細胞です。
  • 悪性脳腫瘍などの手術時に頻用される光線力学診断薬5-ALAによる癌幹細胞の検出を、癌幹細胞が免れる仕組みを備えていることをマウス脳内移植実験などで明らかにしました。
  • 鉄キレート(捕捉)作用を持つ既存薬DFOと5-ALAの併用で癌幹細胞の検出が可能になることも発見し、手術時に癌幹細胞を見逃さない手法への応用が期待できます。
  • 癌幹細胞の代謝特性に影響を与える物質として鉄やヘムを明らかにしており、今後これらを標的として癌の再発リスクを抑える新たな診断・治療法の開発に道を拓くものです。
癌幹細胞の取りこぼしによる癌再発と改善策の発見

図1. 癌幹細胞の取りこぼしによる癌再発と改善策の発見

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞制御分野の田賀哲也教授、椨康一助教、Wenqian Wang大学院生らの研究グループと、東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の小倉俊一郎准教授らの研究グループは共同で、難治性の癌である悪性脳腫瘍などの術中診断薬(腫瘍細胞検出薬)として用いられている5-アミノレブリン酸(5-ALA)による検出を、腫瘍再発に深く関わる癌幹細胞が免れていることを明らかにし、癌幹細胞の代謝特性の解析から既存の鉄キレート剤デフェロキサミン(DFO)との併用で癌幹細胞の検出が可能になることを発見しました(図1)。この研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築」などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)に、2017年2月7日午前7時(英国時間)にオンライン版で発表されました。

研究の背景

1981年以降日本人の死因の第一位は癌であり、現在も増加の一途を辿っています[引用1]。「癌幹細胞」は癌を構成する多様な細胞を生み出す能力と自ら複製する能力を持ち、従来の放射線化学療法に抵抗性を示すことから、癌の進展と治療抵抗性、再発に深く関わる責任細胞と考えられており、癌の診断・治療法の開発にあたり考慮すべき重要な細胞です。

5-アミノレブリン酸(5-ALA)はその代謝産物で蛍光を発する性質をもつプロトポルフィリンIX(PpIX(ピーピーナイン))が腫瘍特異的に蓄積することから、悪性脳腫瘍などの摘出手術時に光線力学診断[用語1]薬として用いられてきました。しかしながら、5-ALAを用いた術中診断法の癌幹細胞に対する有効性についてはこれまで十分に検討されてきませんでした。

そこで、本研究グループは脳腫瘍細胞についてフローサイトメーターによる1細胞レベルでのPpIX蛍光検出系を開発し、5-ALAによる癌幹細胞の検出効率を検証しました。

研究成果の概要

脳腫瘍の中でも頻度が高く予後の悪い悪性神経膠腫(グリオーマ)の癌幹細胞を用いて、5-ALA処理後に蓄積するPpIXの蛍光強度を比較したところ、癌幹細胞は通常の大多数の癌細胞よりもPpIXの蓄積が少なく、検出が困難であることが明らかとなりました。さらに免疫不全マウスの脳内移植実験において、特にPpIX蓄積性の低い(検出の困難な)細胞群が高い腫瘍形成能を有することが確認されました。

さらに研究グループは、PpIXがヘム(蛍光を発しない)へと変換される際に鉄(Fe)が付与されることに着目し、PpIXの蓄積に対する鉄のキレート効果を検証しました。その結果、鉄キレート剤デフェロキサミン(DFO)と5-ALAを併用することにより、癌幹細胞におけるPpIXの蓄積が通常の大多数の細胞における蓄積レベルまで劇的に亢進することが明らかとなり、5-ALAを用いた癌幹細胞の検出効率を著しく改善することに成功しました。

また癌幹細胞がPpIXの蓄積性が低い一因として、細胞内5-ALA代謝経路のうちPpIXからヘムへの変換後に作用するヘム分解酵素ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の発現が癌幹細胞で高いこと、および細胞内への鉄取り込み受容体(トランスフェリン受容体)の発現も高いことが明らかとなり、癌幹細胞は5-ALAによるPpIXの蓄積を回避して、手術時の検出を免れる利己的な代謝特性を有していることが示されました(図2)。グリオーマ患者の遺伝子発現データベースを用いた解析からも、HO-1遺伝子の発現がグリオーマの中でも最も悪性度の高い神経膠芽腫(グリオブラストーマ)患者で高いことや、グリオーマ患者の予後との間に有意な相関が確認されました。

癌幹細胞に特異的なALA-PplX代謝と検出法の改良の可能性

図2. 癌幹細胞に特異的なALA-PplX代謝と検出法の改良の可能性

研究成果の意義

本研究成果は、現行の術中診断法でグリオーマの癌幹細胞が検出・摘出できていない可能性を指摘しており、臨床診断学的に意義の大きな示唆を与える発見です。鉄キレート剤DFOは我が国で承認済みの既存薬であり、ドラッグ・リポジショニング[用語2]を視野に入れた脳腫瘍診断薬への適応拡大も期待できます。また本研究では癌幹細胞の特性に影響を与える代謝関連因子として鉄以外にもヘムやHO-1の存在を明らかにしており、今後それらを標的とした新たな診断法と根治療法の開発が期待できます。

用語説明

[用語1] 光線力学診断 : 癌細胞特異的に蓄積する光感受性物質にレーザー光を照射し、その蛍光を検出することで癌細胞だけを選択的に可視化する方法。正常組織の摘出を最小限に抑える術中診断法として注目を集めている。

[用語2] ドラッグ・リポジショニング : 既存の医薬品の新しい薬理効果を発見し、別の疾患の治療薬として適用すること。ヒトでの安全性と体内動態が充分に証明されているため、臨床応用が速やかである。

引用

[引用1] 厚生労働省:平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Enhancement of 5-aminolevulinic acid-based fluorescence detection of side population-defined glioma stem cells by iron chelation
著者 :
Wenqian Wang, Kouichi Tabu, Yuichiro Hagiya, Yuta Sugiyama, Yasuhiro Kokubu, Yoshitaka Murota, Shun-ichiro Ogura & Tetsuya Taga
DOI :

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助教 椨康一

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Tel : 03-5803-5814 / Fax : 03-5803-5814

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
准教授 小倉俊一郎

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