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第3回大岡山健康講座開催報告

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公開日:2017.05.17

2月7日、東工大リベラルアーツ研究教育院は、大岡山駅上にある東急病院との共催で、本学メインキャンパスのある大岡山駅の周辺地域や東急線沿線にお住まいの方々を対象にした「第3回大岡山健康講座」を開催しました。 当日は過去最多の245名の参加があり、健康に対する関心の高さが伺えました。

第3回大岡山健康講座開催報告

東急病院の母体である東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)は、2015年3月に従業員の健康管理を行う優良企業として経済産業省と東京証券取引所より「健康経営銘柄」に選定されました。それに伴い、東急病院のある大岡山駅周辺を「健康ステーション大岡山」と称し、健康の発信拠点として、さまざまな取り組みを実施しています。東工大も、リベラルアーツ研究教育院の林直亨教授の監修のもと、健康啓発ポスターの作成や、工大祭でのウォーキングイベントの開催に取り組んでいます。 今回の本講座も、この取り組みの一環として、2部にわたって開かれました。

第1部「運動することの効果」

  • リベラルアーツ研究教育院 林直亨教授

林教授は、研究者の目線から健康について話しました。

適切な運動処方とは

リベラルアーツ研究教育院 林直亨教授

健康づくりに必要な運動所要量はジョギングなら週に35分、早歩きなら同1時間程度で、短時間・低強度でも良いので、できるだけ運動しましょう、と話がありました。そして、健康増進を果たすための運動の魅力として、「メタボリックシンドロームのリスクを激減」「ガンのリスクも軽減(特に大腸がん)」「メンタルヘルス維持に効果」などを挙げました。

また、人は動物だから動くのが当然と思うかもしれないが、狩猟採取民でさえ2~4時間のみ活動し残りは昼寝やギャンブルをしている、ライオンなどの肉食動物も普段はあまり動かないという例を出し、実態は人も動物も動くのが嫌いだ、と指摘しました。

リスクに配慮しながら運動しよう

運動のリスクが非常にわずかである一方で、「高齢者が」「暑熱環境化で」「体調の悪い時に」「無理をして(高強度の)」運動すると事故の危険性が高まることや、その他の世代においてもひざや熱中症等のリスクを排除しつつ運動するよう会場に語りかけました。

すぐには効果が出ない

運動の効果を観察しやすい指標として血圧と体重(脂肪)を挙げました。但し、40歳台では半数近くが高血圧であり、高血圧が合併症を併発する危険があること、また、データを見ても運動による血圧低下の効果が出るには時間がかかることを述べました。また、男女の体脂肪率別の写真を提示した上で、肥満させて育てる食用ブタの体脂肪率は14~18パーセントであり、人間の写真と比較するとスリムな方に該当すると話しました。内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満とを比較した場合、内臓脂肪型の方が悪さをすることも付け加えました。

やせることに関して

例えば1日10,000歩歩くとして、1日に100~200kcal、1ヵ月だと3,000~6,000 kcalを消費します。脂肪1kgは7,000~9,000 kcal以上なので運動による体重の変化を実感するには「確実に」1ヵ月以上かかります。運動でのエネルギー消費の簡易的な計算方法として「走ったときは体重×距離 kcal、歩いたらその半分」を紹介し、例えば60 kgの方が5 km走ると300 kcalを消費することとなります。一方、食べ物のエネルギーは大きく(おにぎり1個215 kcal、ラーメン1杯700~1000 kcal)、その吸収率は、食事を抜いた後(100%に近い)と暴飲暴食後(40~50%程度)とで違うが、通常は90%以上となっています。食事に比較して運動には減量に対する効果が少ない上に、体重測定の誤差も大きいことから、なかなか痩せられないと説明しました。対策として、嗜好品・お菓子を近くに置かず、お酒を飲む人は買い置きをしないよう注意し、食事の際はよく噛むことで摂取量を抑えること、食後のエネルギー消費を増やすこと、 食べた量を把握することが重要であると話しました。

運動がメンタルヘルスに与える影響

運動が、成績向上、睡眠状態の改善、うつや神経症になりにくいといったメンタルヘルスに影響を与えることがわかってきました。一つの例としてネイパービルの奇跡というものがあります。これはアメリカのネイパービル中央高校で、0時限目に運動を10分間行わせる取り組みを行ったところ、参加した生徒の成績が大幅にアップし、99年には世界トップクラスになると同時に、肥満者の割合が10%を切ったというものです(州平均で35%程度)これをきっかけに研究が進み、運動で脳機能(特に、論理的知性、言語的知性、記憶力の向上)が高まることの論拠が揃いつつあります。続けて、大学体育授業が不眠を改善することや、運動すると不安やうつになりにくいといった話をデータから導きました。

最後に特に大切なこととして「運動の効果は短期では現れません」「少しずつでも良いので、運動しましょう(階段、お茶入れなど)」「食事内容だけでなく、食事の仕方に気をつけることも重要です。ながら食いや、早食いを避けてください」「やせるための王道はありません」「 運動は身体だけでなく、脳にも効果的です。メンタルヘルスを維持するためには、最も効果的な手段です」とまとめて講演を締めくくりました。

第2部「MORITAからみた心の健康、いつになっても自分らしく」

  • 東急病院 健康管理センター 伊藤克人所長・心療内科医長

伊藤医長は、医師の視点から健康について話しました。

東急病院 健康管理センター 伊藤克人所長・心療内科医長

精神療法である「森田療法」を創始した医学者・精神科神経科医の森田正馬氏(1874~1938年)の紹介から講演が始まりました。森田氏は大学の進級試験を前に、父親からの送金が遅れ、父親に対する反感で勉強に身が入らない状態となり神経衰弱と脚気を患いました。その際、“反感はどうにもならない、目的のためには死んで構うものか”と発憤し、薬もやめて猛烈な勉強をした結果、試験での好成績を得ることが出来ました。この経験を元に「森田療法」を生み出します。

「森田療法」は海外でもMORITAと発音され、心の健康を保つために自分の長所や自分らしさを伸ばしていく療法で、これは就活、婚活、終活など日常の様々なシーンで役立つものとして認識されています。

MORITAは人間の欲望に光を当てる

欲望の2つの方向として「自分のためになる欲望」と「悩みを何とかしたい欲望」があることを示しました。自分のためになる欲望とは、よりよく生きたい、仕事で成果をあげたい、良い人間関係でいたい、よい音楽を聴きたい、より健康になりたいなどです。自分のためになる欲望が現実生活で思うように発揮できないと悩みが生まれ心配になり、そして心配な「悩みを何とかしたい欲望」へと移っていきます。「悩みを何とかしたい欲望」とはダメな自分を何とかしたい、仕事の失敗を何とかしたい、人間関係の悩みをなくしたい、不快な気分を何とかしたい、気になる症状を何とかしたいなどです。

さらにその悩みは「何とかできるもの」と「何ともできないもの」に分かれます。仕事で失敗したら失敗の原因を考えもう一度頑張ったりすることや、喉が痛かったら風邪薬を飲んだり煙草をやめるというのが「何とかできるもの」の例です。「何ともできないもの」としては、自分の気分や感情、不快な気分・腹立ちの感情、人前での緊張、自分はこうあるべきという思考、他人の心のうちなどがあります。

これまで頑張って「自分のためになる欲望」を実現してきた人は、「何ともできないもの」を何とかしようと頑張って、心の悪循環にはまりやすい傾向があります。そうした状況下においては自分らしい生き方に注意が向かなくなるのを回避するために、感じたまま、あるがままに放っておき、感情のピークが過ぎ去るのを待つ一方で、「自分のためになる欲望」の発揮へと気持ちを向けて生活することで自然に自分らしい生き方へと変わっていくことを説明しました。

「悩みを何とかしたい欲望」により、悩みの解決ばかりを心配している状況は元々ある「自分のためになる欲望」を失くしたわけではないので、むしろ「自分のためになる欲望」を発揮するにはどうしたら良いかに考えをシフトする方が今後のためになる、と自分自身で気付くことが重要であると述べました。

MORITAは今、ここから踏み出していく

MORITAには「過去は問わない」「現在が過去を作る」という考え方があり、今の自分・そのままの自分でよいと考えることが重要であるとし、仕事・就活、家庭・婚活、健康・終活の悩みを例にMORITAを使った解決法を述べました。 まとめとして、「いつになっても自分らしくいるために、自分のためになることを毎日やっていく、自分で何とかなることをやっていく、どうやったら上手くいくかを心配する一方で、何ともならないことは放っておく。分からない事や決められない事はこれからの人生に任せておく」という考え方がMORITAであるとして話を締めました。

昨年9月と10月に行われた第1回、第2回大岡山健康講座に続き、参加者にとって健康について改めて見直すことができ、大変有意義な講座になりました。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

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