研究

東工大ニュース

最高の超伝導転移温度(Tc)を持った鉄系超伝導物質の新たな特徴を発見

2017.05.23

要点

  • 鉄系超伝導体である砒酸水素化鉄サマリウム(SmFeAsO1-xHx)に対しSmサイトとHサイトの同位体置換に成功
  • 水素アニオンを用いることで従来法よりも5倍量以上の電子注入に成功
  • 過剰に電子を注入すると、鉄ニクタイド中で最も大きな磁気モーメントを持つ反強磁性相が現れる

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の飯村壮史助教、元素戦略研究センターの松石聡准教授、細野秀雄教授、岡西洋志大学院生(現デロイトトーマツコンサルティング)らの研究グループは、鉄系超伝導体中で最も高い超伝導転移温度(Tc)を示す砒酸水素化鉄サマリウム(SmFeAsO1-xHx)のSmサイトとHサイトへの同位体置換に成功し、新たな反強磁性相を発見した。今回発見した反強磁性相が示す磁気モーメントは鉄ニクタイド中で最も大きく、より局在化したスピンが高温超伝導の発現に重要であることが明らかとなった。さらに高いTcをもつ鉄系超伝導物質の設計指針の道が拓けてきた。

本研究は、文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>の一環として行われたもので、一部の実験は高エネルギー加速器研究機構とフランスのラウエ・ランジュバン研究所との共同で実施された。本成果は5月15日に「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」のオンライン速報版に掲載された。

研究の背景

2008年に本研究グループが発見した鉄系超伝導体は、1986年に報告された銅酸化物以来の革新的な高温超伝導物質[用語1]だ。その超伝導転移温度(Tc)の高温化と発現メカニズムの解明を目指し、世界中で激しい競争が繰り広げられている。常圧下での最高TcはSmFeAsO1-xAxA = H or F)が示すTc = 58 Kにまで向上しており、これは銅酸化物系を除くと最も高い値となっている。

鉄は大きな磁気モーメント[用語2]を持つため、超伝導の発現には最も不向きと考えられてきた。しかし、鉄系超伝導物質が発見されて以降は、鉄の磁気モーメントの空間的な揺らぎ[用語3]がむしろ、超伝導を引き起こす起源だと考えられている。

中性子回折法[用語4]は磁気モーメントや磁気構造を調べるための最も強力な手段の一つだ。鉄系超伝導物質の発見当初から中性子回折法を用いて様々な鉄系化合物の反強磁性構造[用語5]が特定されてきた。しかし、サマリウム(Sm)は全元素中でガドリニウムに次いで高い中性子吸収係数[用語6]を持つため、SmFeAsO1-xAxからの回折中性子数が極端に少なく、その磁性に関しては全く研究が進んでいなかった。

本研究では、吸収の大きい天然のSmを吸収の小さな同位体(154Sm)に置換することで、154SmFeAsO1-xAxの中性子回折及び反強磁性構造の決定を試みた。

さらに、本グループが開発した水素置換法を適応することで、従来から用いられていたフッ素よりも5倍以上の電子注入した物質の作製にも成功、その磁気特性も調べた。

研究成果

原料には、砒化鉄(Fe2As、FeAs)、脱水した酸化154サマリウム(154Sm2O3)、54Sm2O3をイオン交換して得た砒化154サマリウム(154SmAs)と154Sm2O3を製錬し重水素化した重水素化154サマリウム(154SmD2)を用いた。これら原料を混合して、成型後、5万気圧、1,300 ℃下で30分加熱することで砒酸重水素化鉄154サマリウム(154SmFeAsO1-xDx)を得た。図1(a)に電子を注入していない154SmFeAsOの反強磁性構造を示す。Fe上の反強磁性構造は、ストライプ型をとり、かつ、鉄の磁気モーメントは0.66(5) μB/Feとなった。これらの特長は鉄系超伝導物質に広く見られる反強磁性相とよく一致する。

一方、重水素置換を介して電子を過剰に注入した154SmFeAsO0.27D0.73では、低温で正方晶から斜方晶への構造相転移、及び常磁性から反強磁性への磁気転移が観測された。この反強磁性相は原子の周期構造からずれた格子非整合構造[用語7]を持つことが分かり、さらに鉄の磁気モーメントは10 K下において2.73(6) μB/Feと非常に大きな値を示した。この値は鉄が欠損し絶縁体化した鉄セレナイドに次いで大きく、鉄ニクタイド中では最大である。

154SmFeAsO(a)と 154SmFeAsO0.27D0.73(b)の反強磁性構造

図1. 154SmFeAsO(a)と154SmFeAsO0.27D0.73(b)の反強磁性構造

図2に154SmFeAsO1-xDxの電子注入量(x)に対する各転移温度の依存性を示す。鉄系中で最も高いTcを示す超伝導相は0.05 < x ≤ 0.45において生じる。その左右を囲むように二つの反強磁性相が発達することが本研究によって初めて明らかとなった。第一反強磁性相(0.00 ≤ x ≤ 0.05)は他の鉄系超伝導体全般に見られるストライプ型の磁気構造をとる。一方で、第二反強磁性相(0.56 ≤ x ≤ 0.81)は鉄ニクタイド中で最大の磁気モーメントと特異な格子非整合構造を持つ。これらの結果は、第二反強磁性相から生じる大きな磁気モーメントの揺らぎが高い温度での超伝導の発現に重要な役割を果たしていることを示唆している。

明らかになった154SmFeAsO1–xDxの電子相図

図2. 明らかになった154SmFeAsO1-xDxの電子相図

今後の展望

今回の結果により、大きな磁気モーメントを持つ反強磁性相の近傍で、高い温度での超伝導が発現することが明らかとなった。今後、第二反強磁性相の発現機構を詳細に解析することにより、高いTcを持つ画期的な高温超伝導物質の材料設計が可能になると考えられる。

用語説明

[用語1] 高温超伝導物質 : 一般に単体金属や合金に見られる超伝導転移温度(最高で~30 Kほど)よりも高い温度で超伝導を示す物質。1986年に発見された銅酸化物系と2008年に発見された鉄系超伝導体が主な代表例である。

[用語2] 磁気モーメント : 磁石の強さを表すベクトル量。電子の自転や原子核周りを周回する電子の軌道運動によって生じ、磁性イオンと呼ばれる鉄やコバルトの陽イオンは大きな磁気モーメントを持つ。

[用語3] 揺らぎ : ある測定量の空間的もしくは時間的な平均値からの変動。超伝導の発現には磁気モーメントが縦、横方向に揺らぐ空間的な揺らぎが寄与する。

[用語4] 中性子回折法 : 物質中の原子間隔と近い波長を持つ中性子を照射し、原子核や磁気モーメントによって反射された中性子線を解析することで結晶や磁気モーメントの周期構造を決定する手法。中性子は磁気モーメントを持つため、X線では観測できない磁気構造の解析が可能になる。

[用語5] 反強磁性構造 : 隣接する磁気モーメントが互いに反平行に整列している磁気構造。

[用語6] 中性子吸収係数 : 中性子が原子の原子核に衝突し吸収反応を起こす確率を表す量。中性子は電荷をもたないため、物質内で容易に原子核に接近し各種の相互作用を起こす。そのうち吸収反応に起因する割合が中性子吸収係数で表される。

[用語7] 格子非整合構造 : 磁気モーメントの周期が結晶中の原子の周期から非整数倍ずれた構造。磁気モーメントと原子配列の周期が一致した構造を格子整合構造と呼ぶ。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル :
Large-moment antiferromagnetic order in overdoped high–Tc superconductor 154SmFeAsO1−xDx
(和訳:過剰ドープ高温超伝導体154SmFeAsO1-xDxにおける大きなモーメントを持つ反強磁性秩序)
著者 :
Soshi Iimura, Hiroshi Okanishi, Satoru Matsuishi, Haruhiro Hiraka, Takashi Honda, Kazutaka Ikeda, Thomas C. Hansen, Toshiya Otomo, and Hideo Hosono
(飯村 壮史、岡西 洋志、松石 聡、平賀 晴弘、本田 孝志、池田 一貴、トーマス ハンセン、大友 季哉、細野 秀雄)
DOI :

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