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振動発電の高効率化に新展開:強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見

2017.07.13

名古屋大学 大学院工学研究科(研究科長:新美智秀)兼 科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明(やまだ ともあき)准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構 技術開発・共用部門の坂田修身(さかた おさみ)ステーション長、東京工業大学 物質理工学院の舟窪浩(ふなくぼ ひろし)教授、愛知工業大学 工学部の生津資大(なまづ たかひろ)教授、静岡大学 電子工学研究所の脇谷尚樹(わきや なおき)教授、スイス連邦工科大学 ローザンヌ校 材料研究所のNava Setter(ナバ・セッター)名誉教授らの研究グループと共同で、振動発電の効率向上につながる強誘電体[用語1]材料の新たな特性制御手法を発見しました。

代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の膜を、イオンビームで細い棒(ナノロッド)状に切り出すと、そのサイズによって強誘電体の特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が大きく変化することが明らかになりました。この結果は、強誘電体の表面における分極の電荷遮蔽の影響で説明できますが、これは上記のナノロッドが同じサイズであっても、その側面を金属で被覆すると、ドメイン構造が変化することにより証明されました。

本研究成果は、従来から行われてきた材料組成や歪みの制御といったアプローチではなく、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境により、電荷遮蔽を制御することで、強誘電体の特性向上が実現する可能性を示しています。この新しいアプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の効率向上による小型化が期待でき、Internet of Things(IoT)[用語2]で期待される振動センサや圧力センサの自立的な電源として利用できる可能性があります。

この研究成果はネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に7月12日付(日本時間18:00)で公開されました。

ポイント

  • 強誘電体の諸特性を支配する分極の向きの割合(ドメイン構造)が、材料の形状やサイズ、さらには周りの環境で変化することを初めて系統的に明らかにした。
  • 上記のドメイン構造が変化する原因が、分極の電荷遮蔽の影響であることを突き止めた。
  • 本アプローチを応用することで、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の飛躍的な効率向上につながる可能性がある。

研究背景と内容

現在、自然界にある未使用のエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が盛んに研究されています。強誘電体には、優れた機械エネルギーと電気エネルギーの相互変換機能(圧電性)を示す材料があり、これを使用して、環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子(エナジーハーベスタ)の開発が行われています。

圧電性を始めとする強誘電体の諸特性は、その分極の向きの割合(ドメイン構造)に大きく左右されることが知られています。これまで、材料の組成や歪みを制御することでドメイン構造を操作し、これにより特性を向上させようという試みが広く行われてきました。一方で、材料の表面や界面における分極電荷の遮蔽状態もドメイン構造に影響を及ぼすことが知られていましたが、系統的な研究例は少なく、これによるドメイン構造の操作指針は明らかにされていませんでした。

そこで、名古屋大学を中心とする研究グループでは、強誘電体材料をナノサイズ化すると電荷遮蔽の影響が大きくなることに着目し、特にその中でも異方性が大きな棒状の“ナノロッド”を対象に研究を行いました。

ナノロッドの作製とドメイン構造の解析

サイズが正確に制御されたナノロッドを作製するために、まず、代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜を基板上に作製し、集束イオンビーム[用語3]を用いて膜の一部をエッチングすることで、高さが1.2マイクロメートル、幅が最小で200ナノメートル(1万分の2ミリ)のナノロッド形状に切り出しました。その後、エッチングのダメージを取り除くために、加熱処理を行いました。

次に、高輝度な放射光[用語4]X線をレンズで集光してナノロッドに照射することで、ナノロッド1本のX線回折[用語5]測定に成功しました(図1)。本測定システムは、物質・材料研究機構のグループで開発されました。これにより、ナノロッドのドメイン構造を定量的に明らかにすることに成功しました。

放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。
図1.
放射光マイクロX線回折測定のセットアップと試料の概要。放射光X線をレンズで集光してナノロッドに照射し、ロッド1本(単体)の回折測定を行った。

ナノロッドのサイズ制御によるドメイン構造の操作

サイズの異なるロッドのドメイン構造を比較した結果、幅の減少とともにcドメインと呼ばれる垂直分極の領域の割合が増加し、一方で、aドメインと呼ばれる水平分極の領域の割合が減少することがわかりました。この変化の傾向は、基板の種類が異なっても同じでした。また、集束イオンビームを用いずに別の手法で作製した自己組織化ナノロッドでも、これを支持する結果が得られました。(図2(a))

これらの結果は、強誘電体の分極電荷の遮蔽が不完全な環境では、ロッドの幅が狭くなるに従ってロッド側面に分極電荷を有する水平分極が不安定になるためと考えられ、電荷遮蔽を考慮したシミュレーションの結果とも一致しました。(図2(b))

特に、幅1マイクロメートル(1,000ナノメートル)未満のロッドではcドメインの割合が100%になりました。一般に、電圧や応力などの外場の印加なしに、分極が完全に一方向に揃ったドメイン構造を作製することはできませんが、ナノサイズ化した強誘電体では、その形状やサイズの制御により、分極方向を揃えられることを初めて見出しました。

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。
図2.

(a)ナノロッドの幅と垂直分極を有するcドメインの割合の関係。基板の種類の違いによらず、幅の減少に伴いcドメイン割合が増加した。

(b)幅2マイクロメートル及び200ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例。

ナノロッドの外界制御によるドメイン構造の操作

上記の考えが正しければ、ナノロッドの電荷遮蔽を促進すると、aドメイン(水平分極)の割合が増えるはずです。そこで、ナノロッドの側面を金属で被覆して、一度加熱してドメインを消去した後、新たに生成したドメイン構造を観察しました。その結果、aドメインの割合が増加することが明らかになり(図3)、シミュレーションとも傾向が一致しました。このことは、ナノロッドの周りの環境(外界)を制御することでドメイン構造が操作できることを示しています。

ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

図3.
ナノロッドの側面を金属(Pt)で被覆し、一度加熱した後のドメイン構造のX線回折結果。電荷遮蔽の促進によって、aドメイン(水平分極)の生成が確認できた。

成果の意義

本研究成果は、強誘電体の諸特性を支配するドメイン構造が、材料の組成や歪みの制御だけでなく、材料の形状やサイズ、さらには、その周りの環境により、分極の電荷遮蔽状態を制御することで、操作できることを示しています。

この新しいアプローチを活用して、強誘電体の圧電特性の飛躍的な向上が達成できれば、例えば、環境中にある微小な振動を効率良く電気エネルギーに変換する小型のエナジーハーベスタの実現が期待でき、Internet of Things(IoT)に代表されるような、数億から数兆個の利用が想定されるセンサの自立的な電源として利用できる可能性があります。特に、電源機能を兼ねた振動センサや圧力センサへの応用が期待できます。さらには、環境適合性やコストの観点から、使用できる材料の元素が限られる用途において、特性向上のアプローチとして利用できる可能性があります。

特記事項

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「ナノシステムと機能創発」領域および「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」領域、日本学術振興会 科学研究費、科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業「Concert-Japan光技術を用いたものづくり」の一環として行われました。また、ドメイン構造解析はSPring-8のBL15XUおよびBL13XUのビームラインで行われました。主な結果はBL15XUでの測定によるもので、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として、物質・材料研究機構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] 強誘電体 : 圧電体の一種で、自発分極を有しており、外部からの電場で分極の向きが反転可能な結晶です。

[用語2] Internet of Things(IoT) : モノのインターネットと言われ、一般に、様々なモノ(デバイス)がインターネットに接続され、相互につながることを指します。

[用語3] 集束イオンビーム : 細く集束したイオンビームを試料表面で走査することで、試料表面を加工する装置です。本研究ではガリウムイオンビームを使用しました。

[用語4] 放射光 : 電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことです。本研究の実験は、兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring-8で行われました。

[用語5] X線回折 : 物質に照射されたX線が回折を起こす現象で、これにより物質の結晶の構造やその配向を調べる事ができます。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Charge screening strategy for domain pattern control in nano-scale ferroelectric systems
(日本語訳:強誘電体ナノスケールシステムにおけるドメインパターン制御のための電荷遮蔽)
著者 :
Tomoaki Yamada, Daisuke Ito, Tomas Sluka, Osami Sakata, Hidenori Tanaka, Hiroshi Funakubo, Takahiro Namazu, Naoki Wakiya, Masahito Yoshino, Takanori Nagasaki, and Nava Setter
DOI :

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