研究

東工大ニュース

3種の金属を1ナノメートルの粒子に合金化 ―炭化水素の酸化反応は市販触媒の24倍―

2017.08.02

要点

  • 粒径1ナノメートル(nm)程度の極微小なナノ粒子に3種類の金属を精密に合金化する手法を開発
  • 銅と貴金属群の合金界面が炭化水素の酸化反応で高い触媒活性を示すことを発見

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山元公寿教授と山梨大学大学院医工農学総合研究部の高橋正樹助教らの研究グループは、銅と白金、金の3種類の金属を精密に制御した合金ナノ粒子の開発に成功した。

また、この粒子が空気中の酸素を利用した炭化水素での酸化反応[用語1]において市販の白金担持カーボン触媒の24倍もの触媒活性を示すことを発見した。この触媒反応では、合金ナノ粒子表面の銅と他の貴金属の界面の存在により、飛躍的に触媒活性が向上することがわかった。

本研究で得られた知見は、新たな高機能触媒の設計指針となる可能性があり、触媒反応を用いた不活性な炭化水素から付加価値の高い物質への変換技術の発展に貢献することが期待される。

この研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「ERATO山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。

本成果は、2017年7月26日付(米国東海岸時間)の米国オンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載された。

研究の背景

極性官能基を持たない炭化水素化合物の酸化反応には、有害な有機溶媒中で金属の過酸化物を多く使用する手法が用いられてきた。近年、このような溶媒を使用せず、空気中の酸素を用いたクリーンな触媒的酸化反応の研究が盛んに行われている。

なかでも、貴金属のナノ粒子が多孔質のカーボン材料や金属酸化物へ固定された担持触媒の研究は広く行われており、有望な触媒系として期待されている。このような不均一系触媒の反応性を決める上で重要な要素は、金属ナノ粒子の形状やサイズ(粒子径)、金属組成であり、新たな高機能触媒の開発に向けた制御手法が求められている。特に粒子径が2 nm以下の粒子では、触媒の粒子径を小さくしていくと、比表面積が大きくなるだけでなく金属表面の電子状態も大きく変化し、それに伴って反応性が大きく変わることが分かっている。しかし、これまで2 nm以下の金属ナノ粒子の粒子径、組成の両方を制御できる合成法はなかった。今回の研究は、これまで触媒機能が明らかにされてこなかった粒子径が1 nmの合金触媒の合成とその反応性の解明を目的として行い、空気中の酸素を用いた炭化水素の酸化反応の触媒活性を明らかにするとともに、銅と他の貴金属の界面での特異的な触媒活性の向上効果を発見した。

研究成果

山元教授らは、樹状型の規則構造を持つ高分子であるデンドリマーを利用して、複数の金属からなる、1 nm程度の微小な合金ナノ粒子の合成法を開発した。このデンドリマーを用いたナノ粒子合成法[用語2]では、様々な金属の組み合わせで、一般的なナノ粒子の水熱合成などと比較してより粒径の小さく、個々の粒子の合金組成が均一な合金ナノ粒子を合成できる(図)。今回、空気中の酸素分子を酸化剤として用いた際の、常圧下での炭化水素の酸化反応における触媒活性を評価した。その結果、銅原子と他の貴金属からなる合金ナノ粒子が、有機化合物の酸化反応に用いられる市販の白金担持カーボン触媒と比較すると24倍もの活性を有することを見いだした。

また、この触媒は、少量(触媒量)の有機ヒドロペルオキシドを加えることで、常温常圧下で炭化水素のアルデヒドやケトンへの酸化反応を進行させることが分かった。さらに、異なる金属組成による活性の変化や、生成物と中間体であるケトンと有機ヒドロペルオキシドの組成比等を調べることで、金属ナノ粒子の合金化による触媒反応の促進過程を観察することができた。

デンドリマーを用いたナノ粒子合成法

デンドリマーを用いたナノ粒子合成法

今後の展望

本研究で開発した合金ナノ粒子の合成法は、これまで困難であった1 nm前後の合金ナノ粒子の金属組成を適切に制御して合成することができる。

また、この手法はデンドリマー分子に配位させることができる他の金属種へと応用可能で一般性が高い。そのため、今まで触媒機能が不明であった微小なサイズの合金ナノ粒子の反応性を解明する手法としても有用である。銅と他の貴金属界面での触媒活性の向上効果についても炭化水素の酸化反応だけでなく、様々な有機化合物の酸化的変換反応における触媒活性を検討してみる必要があり、より多彩な反応への応用が期待される。

用語説明

[用語1] 炭化水素での酸化反応 : 通常、極性官能基や不飽和結合を持たない炭化水素は非常に安定なC-H結合を有しているため、反応させることは困難である。しかし、反応しやすい構造への分子変換反応を経由しないため、シンプルなプロセスで有用な化合物を合成できる利点があり、有機合成や固体触媒の研究分野で盛んに研究されている。

[用語2] デンドリマーを用いたナノ粒子合成法 : デンドリマーはコア(core)と呼ばれる中心分子と、デンドロン(dendron)と呼ばれる側鎖部分から構成される特殊な樹木型の幾何構造を有する高分子である。一般に高分子はある程度の分子量分布を持つが、高世代のデンドリマーは、分子量数万に達するもののほとんど単一分子量であるという際立った特徴を持つ。金属粒子を得るために金属イオンと複合体を形成できる、ポリアミドアミン構造を持つPAMAMデンドリマーなどは、試薬会社から市販もされているが、本研究は、さらに精密に金属数を規定して複合体形成が可能な、独自設計されたフェニルアゾメチンデンドリマーを用いている。この原子数が明確なデンドリマー-白金イオン複合体を化学的に還元処理すると、原子数が明確な白金粒子が得られている。今回、この配位サイトを持ったデンドリマーを鋳型として、3種類の金属(白金、金、銅)を精密に混合したナノ粒子触媒を合成した。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Finely controlled multimetallic nanocluster catalysts for solvent-free aerobic oxidation of hydrocarbons
著者 :
Masaki Takahashi, Hiromu Koizumi, Wang-Jae Chun, Makoto Kori, Takane Imaoka, Kimihisa Yamamoto
DOI :

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