社会連携

Art at Tokyo Tech 2013 Autumn

ベヒシュタインピアノの90年

芸術と科学技術の融合

 東京工業大学は1881年の設立当初からワグネル博士のセラミックス研究など芸術と科学技術を融合した研究教育を行ってきました。これまで陶芸家の板谷波山や浜田庄司、あるいは建築家の谷口吉郎ら、多くの作品を生み出し、芸術分野で活躍する卒業生を輩出してきました。
 このような本学の伝統を受け継ぎ、2004年から「Art at Tokyo Tech」を開始しました。世界から実力あるアーティストを招聘し、講演会や演奏会、展覧会などの企画を通して、芸術と科学の融合教育を発展させてきました。
この「Art at Tokyo Tech」を始める上で重要となったのが、ドイツ・ベルリンで1923年に製造され、世界の名器と言われた「ベヒシュタイン・グランドピアノモデル E」の存在です。

ドイツから東工大へ

ベヒシュタインピアノ1

 東工大には、第2次大戦前には世界最高のピアノと言われ、現在でもアメリカのスタインウェイ、オーストリアのべーゼンドルファーとともに3大ピアノの一つである、ドイツのカールベヒシュタイン社製フルコンサートピアノのModel Eがあります。このピアノには製造番号がなく、それに替わるケース番号をもとに、おおよそ1920年代初期に製造されたと推測できます。この時期につくられ、現在我が国に存在するのは数台で、90年経った今でも現役として頻繁に公開コンサートで使用されているのは、おそらく東工大にあるこのピアノだけです。

ベヒシュタインピアノ2

 このピアノはハンブルグの港を出発して、スエズ運河、シンガポール、上海などを経て、1923年の夏頃に横浜港に着いたと推測できます。筆者が2013年7月にベヒシュタイン社を訪れ、当時の販売記録を確認したところ、1923年4月7日にModel E がKyogeki shoshaに1台出荷されたとありました。1920年から1925年の間に製造されたモデルEのピアノで日本に送られたもの他にはないようでした。

ベヒシュタインピアノ3

 このピアノは来日後、はじめは東京音楽学校(現在の東京芸術大学)に運ばれ、学生の教育に使用されました。そして1920年代後半に、当時東京芸術大学の先生が東工大で行っていた声楽の授業のために、大岡山に持ち込まれたのではないかと思われます。第二次世界大戦を経て、1968年に芸大から正式に東工大へ移管されましたが、ピアノは長く使用されていませんでした。
1985年、それまで講堂に置かれたままになっていたピアノが修理され、再び日の目を見ることになり、1986年から2007年には毎年入学式のコンサートで使用されました。
そして、2004年の大修理を経て、現在は、Art at Tokyo Techのコンサート、プロムナードコンサート、エントランスホールコンサートで活躍しています。

「Art at Tokyo Tech 2013」

 今年のArt at Tokyo Techは、東工大のベヒシュタインピアノが製造されてから90周年を記念して、「Cerebrating 90 years of Bechstein Piano」をテーマに開催します。19世紀から20世紀にかけての音を現代に甦らせる試みです。

Art at Tokyo Tech 2013 Autumn Bechstein Week

■2013年10月15日(火)18:30〜20:00

講演:「日本のピアノ界の繁栄とその中で失われたもの」
諸石幸生氏(音楽評論家)

講演:「ドイツの中産階級のマネージメント-ピアノ製造、芸術、ピアノのような手工業製品の原理-」
カール・シュルツ氏(ベヒシュタイン社社長)

ピアノはその前身といえるチェンバロなどの単に弦をたたくという構造とは異なり、複雑な機構を有する精密な機械であるため、18、19世紀の産業革命を経てはじめて製造が可能となった楽器です。
その進化について、企業家であり、博士、かつピアノマイスターでもあるシュルツ氏からお話いただきます。

■2013年10月28日(月)18:30〜20:00

演奏会:村上千佳氏(ピアニスト)

フランス音楽および20世紀音楽の演奏に定評のある同氏に、ラベル(1875-1937)、ガーシュイン(1898-1937)をベヒシュタインピアノで演奏していただきます。

■2013年10月30日(水)14:00〜19:00

イヴ・アンリ教授(パリ・コンルバトワール教授)の公開マスタークラスと演奏会

本学学生から選ばれた演奏家たちが教授から直接の指導を受けます。
山野花穂(ピアノ)、岸本史直(イングリッシュホルン)、川村弥(ピアノ)、三宅雅也(フルート)、遠藤直輝(ピアノ)、竹森那由多(ピアノ)

■2013年10月31日(木)18:30〜20:00

イヴ・アンリ教授によるレクチャーコンサート
「ピアノの技術的進化と19世紀のピアノ作品との関係−シューベルト、ショパン、シューマン、リスト、ラフマニノフ、ドビュッシーおよびラヴェルの作品−」

ベヒシュタインピアノが製造された19世紀初頭から、各作曲家・演奏家のピアノ作品とピアノの関係を解説・演奏していただきます。

場所: 大岡山キャンパス 西9号館ホール

 普段、クラシック音楽になじみのない方も、丁寧な解説によって、ピアノとピアノ曲の歴史をご理解いただけ、また、音楽に精通した方には、立体的なプログラムから新たな発見がある企画であると考えております。この野心的なプログラムに、皆様ぜひご参加ください。

大学院社会理工学研究科 教授
肥田野 登
(Hidano, Noboru)

【参考文献】

  • 肥田野登 Art at Tokyo Tech--東工大のベヒシュタインピアノの製造時期について-- 東工大クロニクルNo.420,2007
  • 川代重富 大岡山に蘇るベヒシュタインピアノ 東工大クロニクルNo.188 1986