社会連携

四大学連合文化講演会2014

四大学連合文化講演会2014-安全で安心の出来る社会-

特色ある四大学の講師陣が学術研究の最前線をやさしく解説

四大学連合とは

2001年3月、在京の特色ある、そして、異なる分野の教育研究を実施している4つの国立大学、東京医科歯科大学・東京外国語大学・東京工業大学・一橋大学の間で、新しい人材の育成と、学際領域・複合領域の研究教育の更なる推進を図ることを目的とした「四大学連合憲章」が締結されました。この憲章に基づき、「四大学連合複合領域コース」が設定され、それぞれの大学の特色ある授業科目を相互に提供するなど、相互の交流と教育課程の充実を図る取り組みを実施しています。

四大学連合文化講演会とは

四大学の附置研究所が主体となって、毎年、一般の方を対象に「四大学連合文化講演会」を開催しています。第9回 となる今回は、人文社会学、人類学、医学、工学分野という異なる専門の見地から、「安全・安心」を共通テーマとした4つの話題を提供しました。

一橋講堂

【 第9回 】四大学連合文化講演会

環境・社会・人間における「安全・安心」を探る
― 安全で安心のできる社会 ―

2014年10月10日 13:30~16:00 於:一橋講堂

災厄と保障の3(スリー)D(ディメンジョン) ―経済、社会、そして政治

後藤玲子(ごとう れいこ)

一橋大学経済研究所 教授

後藤 玲子(ごとう れいこ)

1981年一橋大学法学部卒業後一橋大学社会学部助手、高校の専任教諭を経て、一橋大学経済学部に学士入学。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了後、国立社会保障・人口問題研究所、立命館大学大学院先端総合学術研究科を経て2013年より一橋大学経済研究所教授。主な単著に『福祉の経済哲学』(ミネルヴァ書房近刊)、『正義の経済哲学』(東洋経済新報社、2002)など。

本来、リスクには因果性と偶然性の両方が含まれています。したがって、予防と事後補償は、リスクに抗する災害政策の両輪となるはずです。けれども、実際には、事後的な災害政策が公共性を獲得するのは難しいと言われます。なぜなら、災害は一部の人々に「起こった」ことですが、多くの人には「起こらなかった」ものだからです。ここでは、一人ひとりの福祉に配慮する「公共的相互性」を経済・社会・政治の3つの次元で構想します。

第一に、経済の次元です。各人が実際になしている「貢献(気遣い)量」と「気遣いの受給量」は異なるのですが、どの個人も「貢献できるなら貢献し、困窮するなら受給する」というルールを共通に受容している点に着目するとしたら、公共的相互性が成立します。第二の社会の次元は、ジョブ(財やサービスの産出)を通じて、自分が愛する人の世話を他人に託したり、自分が他人の愛する人の世話を託されたりする関係に表出される公共的相互性です。第三の政治の次元は、経済と社会の両方で、自分が他者から支援を受けていると同時に、自分が他者を支援しているという「世界」に関心を持つことです。これを認識すれば支援を受けやすく、また貢献しやすくなります。以上、3つの次元における「公共的相互性」は、人々の認識や行動に影響を与える可能性があります。予防と事後補償を政策的に両立させる秘訣がここにあります。

東アフリカ牧畜社会における民族集団間の関係 ―家畜の略奪と武装解除をめぐって

河合 香吏(かわい かおり)

東京外国語大学
アジア・アフリカ言語文化研究所 教授

河合 香吏(かわい かおり)

1961年生まれ。京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了、博士(理学)。静岡大学人文学部助教授、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教授、同准教授を経て、2014年より現職。専門は人類学、東アフリカ牧畜民研究。著書に『野の医療--牧畜民チャムスの身体世界』、編著書に『生きる場の人類学』、『集団--人類社会の進化』、『制度--人類社会の進化』、"Groups: The Evolution of Human Sociality"など

東アフリカ・ウガンダの北東部に住む牧畜民・ドドスを取り上げ、ここで起こっている家畜の略奪(レイディング)に焦点をあてて、民族集団間の関係についてご紹介します。

ドドスは集落と家畜キャンプに世帯を分散させて暮らしており、前者が半定住的であるのに対して、後者は同じ場所に長くとどまると敵からの襲撃の危険性が増すため、頻繁に移動させて家畜という財産と集団の安全性を守ろうとしています。

ドドスや隣接諸民族はレイディングをどうしても避けなければならないこととは考えていません。ここにはいまだ未解決の重い課題が残されています。この地域の民族集団同士の関係は、敵と味方といった2つに分類できるようなものではなく、複数の集団にまたがる敵対と非敵対の関係が錯綜し、絶え間なく関係が変化しています。集団間関係を把握するためには、民族集団レベルだけではなく個人のレベルにまで降りていき、その具体的な行為のプロセスを追い、人々の生きる現場を包括的にとらえていく必要があります。

心不全・突然死の遺伝子

木村 彰方(きむら あきのり)

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授

木村 彰方(きむら あきのり)

1953年生まれ。1978年九州大学医学部卒業、医師国家試験合格。1983年同大大学院医学研究科(内科系専攻)修了、医学博士。同年同大生体防御医学研究所助手に採用。同年よりパスツール研究所免疫部門に留学し、1986年帰国後同研究所助教授を経て、1995年3月より現職。専門は人類遺伝学。

心不全や突然死を起こす病気のうち、原因不明の難病とされる特発性心筋症には心臓の筋肉が肥大する肥大型心筋症と、心臓が拡大する拡張型心筋症があります。肥大型心筋症はまれな病気かというとそうではなく、全世界どこの民族を調べても500人に1人がこの病気だと言うことが分かっていますが、優性遺伝のため、家系内に同じ病気の方がいらっしゃいます。一方、拡張型心筋症も家系をよく調べると2~3割は遺伝性であると分かってきました。最近の研究で、特発性心筋症の原因は遺伝子変異であることが明らかになっており、遺伝子変異がどのようにして心臓の機能異常を起こすかが分かってきましたので、機能異常を元にもどす治療法の開発が行われています。

原因不明の不整脈によって家族性に突然死が起こる病気があり、家族性突然死症候群と言われます。心臓の膜を通してイオンを交換するチャネルの遺伝子に異常があると不整脈や突然死が起こるのですが、どの遺伝子に異常があるかによって運動や音、薬、睡眠など、不整脈誘発因子が違い、治療薬の選択も違ってきます。 遺伝子解析によって循環器系の難病の原因を究明し、診断や治療に役立つよう、今後も研究を続けます。

放射線からDNAを守る仕組み

松本 義久(まつもと よしひさ)

東京工業大学 原子炉工学研究所 准教授

松本 義久(まつもと よしひさ)

1970年佐賀県生まれ。1998年3月東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了、博士(理学)。1996年5月~1998年3月日本学術振興会特別研究員、1998年5月~2006年11月東京大学大学院医学系研究科助手、2006年12月より現職。平成17年度日本放射線影響学会奨励賞、平成19年度東京工業大学挑戦的研究賞、平成23年原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ若手表彰を受賞。専門は分子・細胞放射線生物学

放射線はなぜ人体に影響を及ぼすのでしょうか。放射線によって生じるDNAの傷にはさまざまなものがありますが、中でも、二重らせんの両方が切れる二重鎖切断が最も重傷であり、放射線の人体への影響の主な原因と考えられています。

私はDNA二重鎖切断が起こったとき、細胞がどのようにして細胞自身や体を守るかを研究しています。私たちの細胞には、DNA二重鎖切断を修復する機構が備わっています。また、DNA損傷が多く、正確に修復できないような場合、細胞が自ら死ぬことによって、がんや子孫への影響を防ぐ仕組みもあります。

このようにして放射線によるDNA損傷から体や子孫を守る仕組みは、細胞がDNAの傷に気がつくことに始まります。DNA二重鎖切断が起こると、新しくDNAの「端」ができます。DNAの端にまずKuというタンパク質が結合し、次にDNA-PKcsというタンパク質が結合します。DNA-PKcsはさまざまなタンパク質にリン酸をくっつけることにより、機能を調節すると考えられています。しかし、世界中での長年の研究にもかかわらず、DNA-PKcsがどのタンパク質の、どの部分に、何のためにリン酸をくっつけるかは分かっていません。私たちは、DNA二重鎖切断を最終的につなげる反応に関わるXRCC4というタンパク質に特に注目して研究を行っています。これを解明すれば、がん放射線治療の向上への道も開けると考えています。

将来に向けて

大学が生み出した知的財産を一般社会と共有し、それを普及していくことは大学にとっての責務でもあり、重要な活動です。今後も四大学連合の特色を活かし、様々な社会的問題に対し、各々の大学の専門を生かした情報をみなさまに発信していけるよう取り組みを続けていきたいと思います。