社会連携

材料が拓く未来社会

材料が拓く未来社会

インスパイアリング・レクチャーシリーズ

東京工業大学は、各研究分野における卓越した国内外の研究者の講義とともに、本学が取り組む最先端の研究を紹介する講演会「インスパイアリング・レクチャーシリーズ」を開催しています。本学の研究力強化のみならず、若手の研究者・学生にとっても自らの研究テーマに直結した、希少かつ刺激的な講義の場として大いに活用してもらうことを期待しています。

2016年10月13日、「材料が拓く未来社会」と題し、東工大蔵前会館くらまえホールで開催された講演会では、2014年ノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授、そして2016年日本国際賞を受賞した本学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の細野秀雄教授が登壇し、それぞれの専門分野から見通す科学技術の未来について熱弁をふるいました。

インスパイアリング・レクチャーシリーズ

インスパイアリング・レクチャーシリーズ

「GaN の工学と未来社会へのインパクト」 名古屋大学 天野浩教授

まずは、名古屋大学の天野浩教授が、ノーベル物理学賞の受賞理由となった青色発光ダイオード(LED)とその材料となる窒化ガリウム(GaN)について講演しました。数々の失敗の末に成し遂げたLED開発研究をわかりやすく紹介するとともに、LEDが社会へもたらした効果と今後の課題や展望について語りました。

名古屋大学 天野浩教授

LEDは、電力系統にアクセスできない15億人の人々に明かりを与えるなど世界規模で評価され、その一例として、モンゴルではLED照明と太陽電池パネルの普及により、問題となっていた若者の遊牧生活離れと都市部への人口集中に歯止めがかかり、遊牧文化の維持の道を辿っています。LED照明は省エネ対策の切り札として今後ますます普及し、日本では2020年には約70%の照明がLEDになり、約7%の省エネが期待されています。

名古屋大学 天野浩教授

天野教授は、学生時代の恩師であった赤﨑勇名城大学終身教授(名古屋大学特別教授)とともに青色LEDの研究に携わってきました。コンピュータが個人で使えるようになった時代において、青色LEDでブラウン管に取って代わるディスプレイができれば世の中を一変できると考えていました。赤﨑終身教授が、化合物半導体結晶を作製する方法として、高速成長が可能で装置の大型化が容易といった利点のあるMOVPE法(有機金属気相成長法)を採用したことは、実用化に向けて大きな意味があったと天野教授は捉えています。

2000年から米カリフォルニア大学サンタバーバラ校で教鞭をとっている中村修二教授の研究グループが1993年に世界で初めてpn接合型の青色LEDの実用化に成功すると、その成果がスマートフォンに適用されるなど世界が一変しました。現在全ピクセル(画素)がLEDのディスプレイ開発が企業で進められており、これが完成すると、スマートフォンのエネルギー効率は20倍にも跳ね上がる可能性があると言われています。この完全LEDディスプレイの普及は、LEDとしての1つのゴールではないかと考えていると天野教授は述べました。

名古屋大学 天野浩教授

天野教授が現在取り組んでいる課題は「エネルギーの低自給率」の解決です。日本のエネルギーが、その94%を海外からの輸入に頼らざるを得ない状況を睨み、内閣府が2016年に打ち出した次世代の超スマート社会※1を視野に入れ、材料開発に取り組んでいます。例えば、パワーデバイス、パワートランジスタへの応用で、今のパワーシリコントランジスタをすべて窒化ガリウムに変えた場合、9.8%もの省エネが実現できる計算になります。LEDと合わせれば、全体で16%~17%の省エネが期待でき超スマート社会を実現する上で、窒化ガリウム材料は重要な構成要素になるのではとの大きな期待を示しました。

若手研究者の視点から

本学科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の山根大輔助教は、天野教授の講演を下記のように聴講しました。

「ノーベル賞受賞時のエピソードから始まり、LEDの開発から最新成果までお話しいただきました。恩師が示した研究推進における「羅針盤」の重要性、実用化に向けて社会の変化を注視する必要性、米国で気づかされた研究者の高い創造性など成功の影に積み上げられた多くの体験から得た研究者として意識すべきことを学べました。また、天野教授の現在の研究活動から、社会貢献への意識の高さを実感するだけでなく、研究に没頭しがちな若手研究者にとって産学官共創により多くの研究者と繋がり、その英知を広げることが重要であることを痛感しました。」

聴講録(全文)PDF

「元素戦略と未来の材料」 東京工業大学 細野秀雄教授

続いて、本学の細野秀雄教授が、元素戦略の取り組みについて講演しました。これまで取り組んできた数多くの材料開発の成果とともに、学生や若手研究者に向けて視野を広げた研究活動への道筋を示しました。

東京工業大学 細野秀雄教授

元素戦略は、2004年4月に箱根で開かれた国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)箱根ワークショップが出発点です。名称は元素(材料)ですが、世の中が求めているのは、それが持つ「機能」です。その期待に応えるために細野教授は、従来の常識を打破するのが元素戦略であると捉え、IGZO※2をはじめ、これまで数多くの材料開発に取り組んできました。

細野教授の元素戦略を語るとき、ルテニウム微粒子を担持した電子化物(12CaO・7Al2O3(C12A7))を触媒に用いたアンモニア合成は欠かせないトピックスです。1910年にハーバー・ボッシュ法が開発されてから1世紀を経た今、多様な用途に応えるためには、大規模設備を必要とするハーバー・ボッシュ法による製造ではなく、必要な量をその場(オンサイト)で生産できる製造プロセスが必要不可欠になっています。そのためには、窒素分子をいかに容易に分解させるかが鍵でした。この課題に対し、本学科学技術創成研究院の原亨和教授らとともに、ルテニウムに吸着した窒素分子に電子化物C12A7から電子を注入するというコンセプトをもって挑戦し、2012年に350℃で従来の触媒とは1桁違うアンモニア触媒活性反応を得ることに成功。将来的にはさらに温和な条件でのアンモニア合成が可能ではないかと細野教授は考えています。

また、有機ELディスプレイに実装されている透明アモルファス酸化物半導体(IGZO)に続いて取り組んだ磁性半導体の研究では、転移温度は6 K(ケルビン)と低いものの従来の常識ではありえなかった鉄を主成分とする超伝導体を2006年に発見しました。さらに2008年にはフッ素を添加することにより転移温度が26 Kに上昇し、世界中で鉄系超伝導体の研究が立ち上がりました。鉄系超伝導体は磁界に強いという特徴を持つことがわかり、開発が進みました。

細野教授は、さらにマテリアルズ・インフォマティクス※3の手法を駆使して、希少元素を使わずに赤く光るという求める機能を実現する物質を探索し、2016年に本学元素戦略研究センターの大場史康教授、平松秀典准教授が中心となって進めた新窒化物半導体の研究においてこれを実現しました。この成果は先進計算科学に基づいたマテリアルズ・インフォマティクスが物質探索を加速することを実証しており、材料開発にとってこの手法が大変有用なアプローチであると細野教授は考えています。

東京工業大学 細野秀雄教授 東京工業大学 細野秀雄教授

「今後東工大が世界を席巻する新材料を開発していくためには、材料の世界だけ見ていてはいけません。ぜひ視野を広げて若い世代の人たちに取り組んでいただきたい。あきらめずに目を凝らせば、必ず先が見えます。」と結び、学生や若手研究者の意欲を喚起しました。

若手研究者の視点から

本学科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の飯村壮史助教は、細野教授の講演を下記のように聴講しました。

「細野教授は酸化物エレクトロニクスの新分野開拓、セメントを原料に用いた室温大気下でも安定な電子化物の合成とそのアンモニア触媒への応用、鉄系高温超伝導体の発見など、異なる分野を横断しつつ輝かしい成果を挙げられている材料科学者です。講演で語られた各研究成果の経緯から、材料という学問分野で一般的な、他材料との界面制御といったプロセスに重点を置いた工学的なアプローチではなく、結晶学や固体化学、物性物理学などの様々な角度からのアプローチを駆使し、いかにして物質を材料に昇華させてきたかがわかりました。いかにして新材料を見つけるかに関心を持っている学生や若い研究者にとって、分野をまたぎ様々な学問に触れ新しい手法を身に着けていくことが大切であるという話は、大いに刺激され勇気づけられるものでした。」

聴講録(全文)PDF

超スマート社会実現へむけた材料開発

天野教授が取り組むGaNパワーデバイスと細野教授の元素戦略で生まれている半導体材料は、いずれも人間が開発したもの、つまり人工物であり、世界を変える材料として将来を嘱望されています。希少な資源を使わず、身近にあるありふれた材料を科学技術の力でどのように加工し活用していくかが、サステナビリティ(持続可能性)という観点からも重要になってきます。開発に携わる材料は違えども、将来を見据える2人の研究者の目は、どちらも研究成果・技術の実用化や産業への応用に向けて動きつつ広い視野と研究者間の繋がりを重視していることが随所にうかがい知れました。ここで参加者、特に学生が享受した多大なる刺激が種となって、効率的でありながら快適な超スマート社会実現に向けて花開くことが期待されます。

※1 次世代の超スマート社会

日本の科学技術政策の基本戦略をまとめた「第5期科学技術基本計画」(2016年内閣が閣議決定)において、実現の構想に上げられた。基本計画での定義は「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」である。

※2 IGZO

インジウム(Indium)、ガリウム(Gallium)、亜鉛(Zinc)、酸素(Oxide)から構成されるアモルファス半導体の略称で、これを利用する液晶ディスプレイ形式の呼称でもある。細野教授が「透明アモルファス酸化物半導体」の一種として設計指針を提唱し、研究開発を進めた。

※3 マテリアルズ・インフォマティクス

計算機の巨大情報処理能力を材料研究に応用する学術領域。計算科学手法、データ科学手法やコンビナトリアル合成・評価により効率的に物質・材料のハイスループット・スクリーニングを実行し、同時に設計・探索指針の構築につなぐ。

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2017年2月掲載