社会連携

暮らしを支えるロボット技術

暮らしを支えるロボット技術

身体が不自由な人の暮らしをロボットが支える。近い将来、そんな社会が実現するかもしれません。ロボット技術を使って、誰もが暮らしやすい社会を目指す研究を紹介します。(2014年3月取材)

松葉杖形歩行支援機械

松葉杖形歩行支援機械とは

両脚が不自由な使用者を想定し、直立姿勢を保ったまま移動できるようにする、簡便で低コストの装置です。大学院理工学研究科機械物理工学専攻 武田研究室が開発を行っています。

厚生労働省による、平成23年 全国在宅障害児・者等実態調査 outerによると、日本国内では約82万人が脚に障がいをもって暮らしており、その多くは車椅子を使用しています。しかし、車椅子は安全で簡単に使える反面、高いところへ手が届かないことや、周囲の歩行者・自動車から見えづらいことなど、日常生活を送る上で不便なところが多々あります。松葉杖形歩行支援機械は、これらの人々の生活の質を向上させ、社会参加を促進することを目指しています。

松葉杖形歩行支援機械のコンセプト 松葉杖形歩行支援機械のコンセプト

シンプルで扱いやすく、安価に直立姿勢を実現

直立姿勢での移動を支援する機械を設計する上で多く採用されているアプローチは、人間の各関節相当の位置にモータを配置した、2足歩行ロボットに近い装置を用いて脚の動きを生み出す方法です。しかし、この方法では多数のモータやセンサを使用するため、装置の構造や制御アルゴリズムが複雑になり、使用者がひとりで装置を着脱することが難しく、また、操作方法に慣れることも難しいなどの問題が生じる可能性があります。

そこで、よりシンプルな構造の機械で、直立移動の支援を実現することを考えました。一般に、脚に障がいがある人でも、腕や手は健康な場合が多く、松葉杖を使うことができます。そこで、松葉杖形歩行支援機械は、歩行の安定化や歩幅の調整などの複雑な機能の大部分を腕や手によって実現し、機械が担う機能は使用者の「足の伸び縮みのみとすることにしました。

そのため、本機械は1台のアクチュエータ(駆動部)とその動力源となるバッテリ、アクチュエータの制御や使用者の操作を受け付けるためのマイクロコントローラ、動力の伝達部品やフレーム部材等で構成されますが、これは基本的には現在広く普及している電動アシスト自転車と同等の構成と言えます。つまり、原理上はそれと同程度の価格で製造することが可能です。

また、この機械は三脚構造なので、安定な姿勢を保持することができ、使用者が操作に習熟していない状態でも転倒の危険を低くすることができます。現在進行中の研究では、様々な歩幅での歩行や段差乗り越えを行うための機械の動作パターンの決定方法、低消費エネルギーかつ乗り心地の良い機械を作るための設計/制御の方法を開発中です。

電動アシスト自転車のような普及を目指して

よく「健康は脚から」と言われるように、自立した移動は日常生活を営む上で欠かせない身体機能のひとつです。松葉杖形歩行支援機械は、障がいがある場合だけでなく、高齢者や怪我からのリハビリ中の方も使用でき、将来の持続可能な高齢社会を実現する上でも重要なものになると考えています。

2012年秋には、ドイツ・デュッセルドルフ市で開催された世界最大の福祉機器見本市「Rehacare」にて試作機を展示しました。この時は、車椅子で生活している来場者から、すでに販売されているのか、価格はいくらかと尋ねられたり、地元テレビ局の取材を受けるなど、好意的な反応が多数寄せられました。また、障がいを持つ児童・生徒が、障害を持たない者を含む大人数のグループで、様々な活動を行うという療養法を推進している研究者からは、このような機械が大いに役に立つだろうとの感想が寄せられました。

こうした経験からも、簡便な方法による自立歩行の支援には大きな需要があることを実感しています。将来は、現在の電動アシスト自転車のように一般に広く歩行支援機械が使用されるような社会が来ることを目指しています。

  • 展示中の試作3号機

    展示中の試作3号機

  • 地元テレビ局の取材

    地元テレビ局の取材

大学院理工学研究科 機械物理工学専攻 武田研究室

助教 松浦 大輔

酸素運搬ロボット

酸素機器を積載し自動で付いてくる電動型搬送移動体

在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy、以下HOT)という治療法をご存知でしょうか?HOTは肺機能の低下した患者に対し、高濃度の酸素を鼻や口から供給することで血中酸素濃度を保つ治療法で、日本にはおよそ16万人の患者がいます。患者は生活の質や体力を維持するため、散歩などの運動が一般に推奨されているのですが、外出の際には携帯用酸素ボンベと、それを運ぶカート(総重量はおよそ4 kg)を運ばなければなりません。そのため、外出がおっくうになって家に引きこもりがちになったり、鬱症状に陥ったりすることもあります。

そこで、大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻 福島研究室では、遠藤玄助教を中心として、より気軽に外出し、患者の生活の質を高めることができるよう、酸素機器を積載し自動で付いてくる電動型搬送移動体、いわゆる「酸素運搬ロボットの研究開発を行っています。

犬の散歩のようなイメージ

犬の散歩のようなイメージ

「人に追従し荷物を運ぶロボット」というアイディア自体はとても古くからあり、一見すぐに実現できそうに思えます。しかし、今までに開発されたロボットの多くは、レーザーレンジファインダやステレオカメラなど、無線式の計測装置を用いていました。しかし、それらの装置は何十万円もする高価なものであったり、屋外で精度よく先導する人の位置を測ることが難しかったりしました。

これに対し、本機器では、患者と移動体が酸素を供給するためのチューブでもともと繋がれていることに着目して、紐(テザー)を用いることにしました。使用者は紐の端部を手に持ったり、腰に付けたりします。もう一方の端部は、巻き取り式のリールを介して移動ロボットに取り付けます。紐の長さと向きを計測すれば先導する人の相対位置が分かるため、この距離を一定に保つように車両の進行速度を制御すれば、人に追従することができます。ちょうど犬の散歩のようなイメージです。このような計測装置であればとても安価に、確実に使用者の位置を知ることが出来ます。

踏破性と軽量を両立する構造

踏破性と軽量を両立する構造

また、屋外の歩道を走行することを考えて、歩道と車道を隔てる一般的段差80mmを乗り降りすることができて、かつ、軽量コンパクトになる車両構造を検討しました。このため、地面が整っていなくても進むことができる惑星探査車両の構造を参考に、前後に動力をもたない車輪を1輪ずつ、中央左右に駆動輪を2輪配置する菱形配置を考案しました。

前輪と駆動輪を平行リンク機構で接続することで、段差を越える時の重量バランスを適切に配置することができ、従来型の4輪車両に比しておよそ2倍の高さの段差を走破できます。試作機の大きさは670×460×420mm、 質量7.5kg(バッテリ・ボンベ含む)。およそ2.5kgの酸素機器を積載して、一回の充電で3時間以上、距離にして15km以上走行することが出来ます。

実用化に向けて

現在、複数の医療関係者・患者団体の協力により、試用テスト並びにユーザニーズに基づく継続的な改良を続けています。このような機器が実用化すれば、在宅酸素の患者だけでなく、買い物に行くのに苦労しているお年寄りに使って頂くことも出来ます。また、車両機構だけでも楽に段差を乗り越えられる車椅子やベビーカーなどに発展させていくことができるでしょう。

大学院理工学研究科 機械宇宙システム学専攻 福島研究室
助教 遠藤 玄