東工大について

グローバルに活躍する女性卒業生

(左から)田中幹子教授、上田紀行副学長、川名晋史准教授(左から)田中幹子教授、上田紀行副学長、川名晋史准教授

小木曽由梨

生命理工学部2005年卒業、武田薬品工業株式会社

福島由里子

大学院総合理工学研究科物質電子化学専攻2013年修了、ENEOS株式会社

川端小織

理事・副学長(法務労政担当)

松下伸広(司会・進行)

副学長(成長戦略担当)、学長特別補佐、物質理工学院・教授

それぞれの歩んだ道のり

川端:まず、小木曽さんからこれまでのキャリアを教えていただけますか。

小木曽由梨さん 小木曽由梨さん

小木曽:東工大時代、現在公式サークルとなっているScience Techno(サイエンステクノ)の初代メンバーでした。日本科学未来館などで科学の面白さを子供達に伝えるイベントを開催するサークルで、メンバー各々の専門知識を生かして、イベントを作り上げていく過程がとても楽しく、学生時代の一番の思い出です。このサークル活動を通して、昆虫が形作られるメカニズムに興味を持ち、大学院からは東大の発生生物学の研究室に移り、博士課程へと進みました。研究生活は楽しかった一方で、少しずつ私の関心は、大学の研究成果を社会とつなげることに移っていき、博士修了後は産学連携を促進する仕事を3年間ほどやりました。その中で、グローバルな取り組みがもっと必要だと感じ、私自身が海外との連携を促進できる人材になりたいと思うようになり、オープンイノベーションのメッカであるアメリカのシリコンバレーに渡りました。現地で就職活動をすること半年、創薬ベンチャーの技術営業のポジションを得ることができました。営業職ほど英会話能力の向上に良い機会はないと感じましたし、顧客となる製薬会社やバイオテックとのつながりを構築する上でも、アメリカのオープンイノベーション環境を学ぶ上でも、大変貴重な機会をいただけたと感じました。その後、シリコンバレーとボストンで4年間仕事をしましたが、毎日のようにオープンイノベーションなるものが目の前で起きており、とてもワクワクする日々を過ごしました。その後、2018年に武田薬品工業が世界に開かれたサイエンスパークを日本にオープンする、というニュースが飛び込んできて、「まさに私がやりたかった仕事ができそう」と感じ、帰国してサイエンスパークを運営する部隊の初期メンバーとして加わりました。今現在は育児休暇中ですが、この期間にMIT(マサチューセッツ工科大学)のMBAスクールに留学しています。

川端:小木曽さんが留学しようと思われた理由を教えてください。また現在の留学生活はどうですか。

小木曽:理由の1つは、上司から女性リーダーとして今後活躍していく道を探してはどうかというアドバイスをいただいて、その方法の1つがMBAを取ることでした。MITでは、グローバルリーダーシップスキルやビジネスの知識を習得したり、ボストンを中心に海外のネットワークを広げていきたいと思っています。現状についてですが、留学のために5月末にボストン入りしてからここまでは、人生で一番過酷な1カ月半でした(笑)。渡米後すぐに始まったオリエンテーションで、なんとクラス120名のうちほぼ半数が新型コロナウィルスに感染し、私も感染してしまい、さらに1歳の娘と夫にも次々感染し、しばらくは勉強どころではなかったです。それでも授業は容赦なく進み、生活のセットアップも終わらぬまま宿題が山積みで、とにかく過酷でした(笑)。

川端:それは大変でしたね。福島さんのこれまでのキャリアはいかがですか。

福島:(小木曽さんと比べると)私はとても平凡なキャリアです。学生時代は指導教員の先生と研究室の仲間と一緒によくラーメンを食べに行ったのも思い出の1つです(笑)。卒業後は転職をしていませんが、会社名は4回ほど変わりました。英語を使った仕事をしたかったので、外資系のエクソンモービルを就職先に決めました。ただし内定決定後にエクソンモービルが日本から撤退し、東燃ゼネラル石油という日本企業になりました。最初の2年半ほどは大阪にある堺製油所でプロセスエンジニアをしました。化学工学の知識が必要な職種で、例えば原油を処理しガソリンを作る際に最も利益があがるための触媒の選定や装置の水素や圧力などの運転条件を決める理系としてコアな仕事をしていました。その後、工場の生産計画を作る部署に異動して、ドライブシーズンの夏にどれだけガソリンを生産するか、寒い冬に灯油をどれだけ生産するか、といった会社でも重要な仕事を2年半経験した後、5年目からは東京本社の需給管理グループに異動し、日本全国の製油所を管理する仕事をしていました。この間も会社名が2回変わり、環境も結構変わりましたが、専門的な仕事自体は特に変わらず続けていきました。その後2年間の産休育休を経て、東京の需給管理グループに戻った年の12月に「来年度はロンドンです」と言われ、4月からロンドンに来ています。

理系のキャリア、東工大の良さ、世界に目を向けるきっかけ

川端:お2人が理系に進もうと思った時期や理由、その後のキャリアとの関係を聞かせてください。

小木曽:私は父が生物分野の研究者で、幼い頃から父の研究室に遊びに行っていました。研究成果を楽しそうに話す父を見て、私も将来は研究者になりたいと思っていました。大学では父と同じ、生物系の学部に進学しました。東工大のScience Technoのサークル活動で、ゴキブリを解剖して細かく調べていった際に、昆虫の体は神秘的で本当にうまくできているなと感動し、それがきっかけで大学院での研究テーマが決まりました。このサークル活動は私にとって大きな意味を持ちました。

福島由里子さん
福島由里子さん

福島:私の出身地では、高校を卒業後はそのまま就職する人が大多数です。私はたまたま数学の成績がすごく良かったので、母の友人から「高専目指したら? 高専のほうが就職先いっぱいあるよ」と言われました。当時の高専は校則が厳しくなく、ピアスや髪染めが自由で、制服も好きなようにアレンジして良いし、バイク通学もOKで、何より自分は数学が好きだし、ということで高専に入学しました。高専で専攻科まで進んだ後、東工大の大学院総合理工学研究科物質電子化学専攻修士課程に入学し、生体用のセラミックスプロセスの研究をしました。インプラントに使う低ヤング率の金属ガラスの表面を薄く皮一枚だけナノセラミックス層にして骨にくっつきやすくする研究でした。そこで得られた成果をもとに、国内外で何度も学会発表を行い、国際会議での受賞や論文投稿も経験しました。就職活動の際に、それまでの研究とは関係ないけれど、エネルギーに関係し社会に貢献する石油を扱う会社も良いなと思い、ENEOSに就職しました。

川端:東工大在学中の男女比はどうでしたか。研究室を選ぶ際に研究室に女性が多いことは考慮要素の1つとなりましたか。

小木曽:私がいた生命理工学部には3割ぐらい女性学生がいました。女性が極端に少ない環境ではなかったので、そこは気にしなかったと思います。

福島:私がいた物質電子化学専攻は40人中7人ぐらいだったと思いますが、自分が所属した研究室は女性が半分ぐらいいたので、女性が少ないと思ったことはなかったです。女性に人気の研究テーマというのがありますし、先輩に女性が多い研究室を希望する女性学生も多かったと思います。

川端:もし研究室などで女性1人だったらこんなことが大変だっただろうなとか、そういった環境で知り合いが悩んでいたといったことはありますか。

小木曽:女性の先輩後輩とちょくちょくお茶をしながらワイワイしていた記憶があるので、もし女性1人だったら寂しかっただろうなと思います。

福島:私も女性学生が自分1人だけだったらすごく孤独を感じていたかなと思います。装置を借りて実験していた別の研究室では、女性学生が非常に少なく腫れ物のように扱われたりしました。

川端:お2人とも理系の中でも比較的女性が多い環境の中で学び就職されたわけですが、理系を選んでよかった、とりわけ東工大を卒業して良かったと感じたことはありましたか。

小木曽:私は研究が楽しくて、普通の人は見ることのできない生き物の奥深い世界を垣間見ることができたのはとても貴重な経験でした。またキャリアにおいても、専門知識を活かして、より踏み込んだ仕事が可能になっていると感じます。東工大は卒業生の数は多くはないですが、だからこそ卒業生同士のつながりは濃い気がしていて、たとえばシリコンバレーの蔵前工業会(本学同窓会組織)で出会った先輩方の中には、現地での生活セットアップをがっつりとサポートくださったり、日本出張の際に私の実家に遊びに行ってくださった先輩もいました(笑)。

福島:私がいた「高専」は就職率がほぼ100%ですし、理系は就職先のバリエーションが大変多いです。大卒での就活も理系であったとしても文系採用も受けられるし、選択肢が広がりますね。私は人生をやり直せてもまた理系を選ぶだろうと思います。東工大は卒業生数が多くはないので、同じ出身だと分かっただけで絆は強くなる気がします。当社の副社長の1人も東工大出身で、以前から仲良くさせていただいておりますが、東工大卒業生同士だからこそできた縁だなと思います。

川端:東工大の卒業生のつながりの深さが感じられますね。今はそれぞれボストン、ロンドンにいらっしゃいますが、東工大時代に得た機会や学んだことで、海外での活躍につながったことはありますか。

小木曽:東工大の学生時代、生協においてあった海外ツアーのパンフレットを目にし、世界中の若者が40~50人集まってバスで2週間ほどかけてヨーロッパ約10カ国を周遊するというコンチキツアーに参加しました。その時に初めて、様々な国の方々と接して、視野がぐっと広がり、日本だけに閉じこもるよりも世界に出たいと思いました。

福島:修士の時に国際学会に参加した際に、国内よりも情報量がずっと多いと感じ、仕事するなら世界の人達と情報交換しながらやれたらいいなと思いました。そういう意味で、東工大への進学が今の私の人生につながっていますね。

川端:学生時代のエピソードや強く印象に残っていることはありますか。

小木曽:学部4年生の時に所属した研究室の先輩はとても人間的にかっこいい男性でした。20年経った今でも覚えているアドバイスが「サンプルと男は最後まで捨てるな」です(笑)。

松下:かっこいい!

福島:私は高専の専攻科在学時に東工大大学院の説明を受けて、楽しい研究室生活になりそうだなと感じたので、東工大の研究室を見学することに決めました。あらかじめ他大学の研究室に実際に行って研究内容の説明を受ける機会を複数回経験していたのですが、研究室を選ぶにあたって重要視したのは研究室の雰囲気が良く、学生がみんな楽しそうに研究しているかという点でした。そうした中で、学生それぞれが興味あるテーマを楽しく研究している研究室を志望し、無事に合格することが出来ました。また、女性が入れる寮があると伺ったことも東工大進学の大きな理由の一つでした。入学後に「すずかけ台ハウス」(3名1部屋(男女別)でシェアの学生寮)で3LDKの家を日本人である私と海外留学生2人でシェアしていました。留学生は2人ともきれい好きなのに、私はリビングやキッチンなどをあまりきれいに使っていたわけではなく…。学生時代に留学生と家事をやりくりしたことはいい体験となりましたし、とても楽しかったです。そういった経験があったので、国際感覚やたくましさが身に付いたのかもしれません。

プレッシャーを乗り越えた経験、憧れる女性リーダー、マネジメントに対する意識

川端小織 理事・副学長
川端小織 理事・副学長

川端:仕事をする上で心掛けていることやモットーはありますか

小木曽:私は特に信頼関係を大事にしています。そのために期待されている以上の成果を出すことを意識しています。

福島:私は前の職場で調整役としてみんなが嫌がることを依頼する立場だったので、相手が引き受けてくれるような依頼方法を考えることを心掛けました。最初のころは理不尽な断られ方をされ、私も短気なので、言い返したくなるのを抑えるのが大変だったこともあります。

川端:小木曽さんは海外でいろいろな経験をされていますが、海外で体感した「こうすればうまくいく」という秘訣はありますか。

小木曽:アメリカには文化の違う様々な国の人が集まってきているので、日本での常識は通用せず「思っていることは口に出して言わないと、気持ちを理解してもらえない」と感じました。あとは、ネゴシエーションすればどうにかなることも多いので、とにかく言ってみる、トライしてみる、ということが重要だと感じています。

川端:今までのキャリアの中で非常にプレッシャーを感じるような大きな仕事や厳しい仕事はありましたか。

福島:ロンドンに来る前の部署では全国にある24時間運転の製油所を管理する仕事をしており、毎日がプレッシャーとの闘いでした。というのも工場は一旦止めると再立上げに数週間掛かかるのです。「原料が足りないから急いで東北から関東に運んで!明日までに持ってこないと装置止まります!」と言われても、急には運搬する船がないわけです。しかし、それをなんとかしないと1日に何億円、何十億円という損失が会社に発生するという状況が毎日のように続くのです。もともとその部署は、ストレス耐性がすごく強い人でないと配属されないようです。私以外にもう1人ストレス耐性が強い女性がいて、2人で毎日のように励まし合いながら仕事をしていたのですが、ちなみにその女性社員も東工大出身者です(笑)。

小木曽:私は武田薬品工業がオープンしたサイエンスパーク、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)の事業開発部に所属していて、入居誘致活動や入居企業の研究、ビジネス、海外進出をサポートする業務を行っています。入社して1年目のころ、海外進出サポートの一貫としてアイパークワールドツアーを立案し、初回をボストンで開催しました。CEOクラス含む約20名をボストンにお連れして、現地のバイオテックや大学・研究機関をツアーをしたり、有名なイノベーションセンターを貸し切って、大きなパートナリングイベントを開催したことがありました。このイベント開催にあたり、ボストン側との事前打ち合わせが思うように進まず、大御所を引き連れてのイベントだったために最後までハラハラドキドキで、当時は大きなプレッシャーでしたが結果的にイベントは大盛況となり、社内外の方々からも評価をいただきました。

川端:そういうことを乗り越えた時に、1つランクアップするとか、自信が付く、といった実感はありましたか。

小木曽:学んだことはたくさんあり、またすごく自信にもなりました。チーム内でのポジションを少し確立できたという達成感もありました。

川端:その時点では目一杯だったとしても、それをなんとかこなすことで次はもう少し余裕を持つことが出来たり、自分自身もう少しできるという前向きな気持ちになれたりしますよね。これまでのキャリアの中で、お手本にしたり、憧れたりする女性リーダーはいましたか。

小木曽:シリコンバレーの創薬ベンチャーで働いていた時の女性CEOです。彼女はコンサル会社も経営していて、幼いお子さんが2人もいました。さらに最近になって、新たに創薬ベンチャーを立ち上げられたようです。有言実行で、「やりたいことをやり尽くす」ように見える彼女の生き方はとてもかっこよく、すごくエネルギーをもらっています。

福島:その方の具体的な工夫とかやり方で参考になったことはありますか。

小木曽:当時、幼いお子さんの世話をお手伝いさんがサポートしていましたが、日本では周囲にそういう方はいなかったので、家庭と仕事の両立方法として参考になりました。ちなみに今私がいるMITでも、子供を持つ女性クラスメートは多く、中には専属のお手伝いさんを自国からボストンに連れてきている方もいたりと、グローバルな環境で日々学ばせてもらっています。

福島:私が社内で参考にしているのは東工大出身の女性達です。男性からも女性からも、上司からも部下からも、とても頼りにされている東工大出身の女性が2名います。そういう女性になりたいし、キャリアも目標にしたいなと思っています。

川端:社内に2名もいらっしゃるなんて素晴らしい。お2人共これからご自身がマネジメントも担当する立場になっていくと思いますが、いかがでしょう、マネジメントや経営にタッチすることに興味はありますか。

小木曽:はい。今後、より一層インパクトの大きな仕事ができるよう、今いるMITで必要なビジネススキルや知識を習得したいと思っています。

福島:私が働いている会社はもともと石油会社ですが、新エネルギーなど新しいビジネス分野にも携わっており、その中であれば、当面はプレーヤーとして仕事をするのも楽しそうだなと思っています。マネジメントになると、動くのは部下で、その管理・承認をする立場になるイメージです。弊社の場合はかなり社員数も多く、そういう立場になるのにはあと何年掛かるのだろうとも思いますし、今後ゆっくり決めていこうかなという気持ちもあります。

川端:女性の部長や役員は周りにいますか。そういった方から何か影響を受けましたか。

福島:おります。その役員の方が女性同士でざっくばらんに話せる雰囲気のランチミーティングを開いてくださっています。当社は女性がかなり働きやすい会社かと思います。

小木曽:以前とある別の大企業の女性社長にお話を聞く機会がありました。どうして社長になられたのかを伺ったところ「自分の人生で成し遂げたいことがあって、最短の方法が社長になることだったから」と言われ、なるほどと思った覚えがあります。

川端:社内では男性社会がまだ残っていますか。

福島: 女性採用をかなり増やしており、技術系でも女性社員は増えてはいますが、それでも全体の20~30%ぐらいでしょうか。高卒、高専卒が配属される現場にはほぼおらず、いても10%弱程度かなとは思います。製油所によっては現場の女性社員が1名だけなので、大変そうでした。

小木曽:私の会社でも女性採用には力を入れていて、私のチームの男女比はほぼ半々ですが、上層部は男性が多いという現状はあります。

川端:理系の女性が注目され、女性自体の採用を増やす会社も多くなり、お2人の職場でも後輩女性が増えていると思います。女性の後輩に対して何か伝えたいことはありますか。東工大の後輩、女性学生に対するメッセージでも。

福島:友人と話していると、男性社員が多い職場でのセクハラの話も聞きます。自分が不快に感じて声をあげた場合に、相手が処分されてしまうかもしれない、その人の人生に影響を及ぼすのは嫌だな、と我慢する女性が結構いるみたいです。そこはしっかり不快に感じていることを伝えるべきだと思います。相手も、悪気はなく接しているだけかもしれません。自分が我慢して、耐えられなくて会社を辞めるのが一番損だと思います。

川端:私は人事労務を専門とする弁護士として、ハラスメントについてよく相談を受けたり講演したりします。ハラスメント、セクハラはもちろん問題外なのできちんと相談や通報をすべきですが、そこまでいかないけれど「女性だからそういう対応をされるの?」という微妙なものが結構ありますよね。例えば、相手に悪気はなさそうで面と向かって言いにくいけれど「(女性だから)社長の隣に座って」「女性から花束渡して」といった微妙なものもあるじゃないですか。直ちにセクハラとまでは言わないけれど、周りも気を使って悪気なくやっているのかもしれないけれど、今時それでいいのか、と。そういうことを感じている女性が多いのかなと思いますが、上手な対処の仕方はありますか。

福島:そこは難しいですよね。2つに分かれると思います。女性であることで物事がより上手く運ぶことをプラスに捉える女性もいますし、同じことであっても「これはセクハラで嫌だ。」となる女性もいて、個人の捉え方の問題ですよね。

川端:現在お住まいのボストンとロンドンでは、何か楽しみは見つけられましたか。コロナ禍もまだ完全に収束していないですし、それどころではないですか。

小木曽:こちらでは、すでにコロナ禍は過去のものになったかのような錯覚に陥るくらい、良くも悪くもほぼ通常通りの生活に戻っています。ネットワーキングイベントなども毎日のように開催されていて、仲の良いクラスメートが増えてきているのも嬉しいです。

福島:ロンドンは入国制限をかなり早く撤廃していて、みんなノーマスクです。会社の中でコロナ感染歴が無いのは私ともう1人ぐらい。もっとも、4月に夫が来英した際に夫も息子も感染したので、実は私も無症状なだけで感染はしているのかもしれませんが。
ロンドンは公園や博物館、美術館等が無料で充実しているので毎日行っており、ロンドン生活をとても楽しんでいます。現在夫は日本で仕事をしていますが、8月からまたこちらに来るので、ヨーロッパ内を旅行したいと思っています。

川端:夏休みでロンドンに来られるのですか。それとも赴任ですか。

福島:配偶者の休職制度というのがあって、それで5年間まで休めるのです。それを利用してこちらの大学院で学位を取ろうとしています。

小木曽:私の夫も現在ハーバードで学生をしているので、現在は2人ともボストンです。

川端:育児やパートナーの留学など、海外赴任等は家族のこともありタイミングを図るのが難しいと思いますが。

小木曽:私の場合は夫が大学院に行く計画を立てていて、私もできれば育休期間中に留学したいと考えていて、同じ時期に同じ場所に行けるように調整しました。

松下伸広 副学長
松下伸広 副学長

松下:ハーバード大学にもMBAスクールがありますが、どうしてMITを選んだのですか。

小木曽:通常MBAは2年制のコースが多いですが、私は1年間で終わらせたく、1年制MBAコースがあるMITにしました。アメリカで1年制のビジネススクールがある大学は限られていて、ハーバード大学にはありませんでした。

川端:キャリアプランや目標についてはどのように考えていますか。

福島:私はまだ定まっていないところがあります。石油業界に入って今も同じ会社に勤めていますが、弊社は石油分野だけではなく新ビジネスにも沢山進出しています。例えば、ドローンのようなエアモビリティの社会実装などもやっており、選択肢が社内にあり過ぎて、自分がどれに興味があるのか、自分の知識を生かせるのはどこか、というのをパズルのような感じで組み合わせている最中です。キャリアプランは難しいです

松下:社内に悩むほど選択肢がある会社というのはいいですね。

川端:今はいろいろなことが急速に変わりつつあるので、その中でキャリアをどう考えていくかとても難しいですね。それこそ選択肢も広がっているし、自分自身もブラッシュアップしていかないといけないですし。周囲の方とそのような話をすることはありますか。

福島:当社の場合は、年1回希望するキャリアプランを表明する必要があり、同期と頻繁にそれぞれの部署の情報交換を行うのですが、自分がどういう方向に進みたいかを考える機会になります。

小木曽:私はもともと、日本の産学連携を促進したい、海外との連携をもっと強化したい、日本のエコシステムを活性化したい、という思いがあり、そのために今後自分ができることを模索中です。

東工大の女性学生へのアピールとブランディング

川端小織 理事・副学長

川端:小木曽さんは、東工大時代にサークル活動で子供に科学の楽しさを伝える活動をしていたということですが、その子供達は男の子中心ですか。女の子もいましたか。

小木曽:日本科学未来館というお台場にある科学館の一部を借りてイベントを開催していました。科学未来館に遊びに来ていた親子が立ち寄ってくれていましたが、男女比の偏りが気になった記憶はないです。

松下:理系の女性を増やさなければという議論があります。小学校ぐらいまでは男女同じぐらいの割合で理系に興味を持っているけれど、中学校くらいから男性の割合が増え始め、高校になると一気に女性の割合が減ってしまう。福島さんは中学校から高専に入る段階で理系の選択をし、小木曽さんはお父様の影響で研究者になりたいと感じたところからすでに理系を選択していたと思います。自分の周りで、例えばもともと数学得意だった子が途中から文系のことを考えていた、ということはありましたか。

小木曽:昔のこと過ぎてよく覚えていないですが…、私は女子高で理系の人の割合が少なった覚えがありますが、途中から文転したという友人はいなかった気がします。

松下:理系が好きなのに文系にするというケースがあると聞いており、それはご両親の影響も結構大きいようです。今日の座談会は女性学生のご両親に東工大のファンになってもらいたいというのが目的の一つです。東工大出身でお2人のように生き生き溌剌としている女性の卒業生がいるのを知ってほしい、という思いもあります。

小木曽:私が受験した時の東工大のイメージは、男性ばかりで雰囲気が暗くて、夕方になると鳥がいっぱい来るという…(笑)。

松下: 大岡山のインコですね。17時ちょうどになるとたくさんのインコが集まって来る木々が学内にあり、私のいた研究室はちょうどその向かいだったので、時計代わりにして、そろそろ夕食の時間だなと思っていました(笑)。

川端:東工大のそういったイメージも変わりつつあるのでしょうが、もっとこうしたらいいという点はありますか。

小木曽:私は、理系のオタクが集まる、華やかとは言い難い世界に魅力を感じて、東工大を選んだところがあります。

川端:東工大は無理に変わる必要はない?

小木曽:華やかな大学は沢山あるので、そこに力をいれるよりも、例えば東工大には世界最高峰の技術力、研究力があることをアピールしていく方がいいのかなと思います。

川端:オタク的な世界をかっこいいとか素敵だと思う人だって沢山いるはずですよね。

小木曽:大学での研究だけでなく、またそこから、数多くのスタートアップが生まれ、大成功しているとか。

松下:本学もそれをアピールできるように、本年4月にイノベーションデザイン機構を設置するなど、サポート体制を整えています。

福島:私は九州出身ですが、福岡や佐賀では東工大を知らない人ばかりでした。関東近辺でも知らない人は多いと思うので、まずは東工大という存在を知ってもらうことが重要だと思います。

川端:私は文系だったので高校生の頃は東工大をよく知りませんでした。同級生が学年で1人東工大に受かったのですが、それって難しい大学なの、という程度の認識しかその当時はなかったです。

福島:私も東工大に受かったと言っても褒めてくれる人は全然いなかったです。

川端:地方では知名度が低いということですね。

松下:私は高専出身の優秀な学生を沢山見てきたので、高専の専攻科から東工大の修士課程に入る推薦枠をつくれば良いと思っています。もともと本学学士課程出身者だけでは半分程度しか埋まらないぐらい大きな修士課程入学者数の枠があり、優秀な外部学生を取るならば、高専の専攻科出身者は大変有力な候補となります。しかも高専は全国にあり、その高専から東工大の修士課程に入るパスがあるとなれば、全国の高専入学時の競争率が上がる可能性もあります。

福島:それはあります。

松下:東工大のブランドをアピールして、全国の高専生が修士課程から本学を目指すようになれば、優秀な生徒が専攻科に集まり各高専にとっても望ましい状況ですし、その後本学に入学すればそれは本学の設立趣旨にもかなっています。全国の高専の女性学生を増やすためにも、本学への高専女性枠をつくっても良いのではないかと私は思っています。

未来の女性リーダー活躍の背景には

松下:お2人のように、海外留学や海外赴任をするには家族でサポートし合うことが重要になると思います。お2人のご主人も留学を予定されているか、すでに始められているということですが、夫婦の育児・家事の分担具合などはどうなっているのか教えてください。

小木曽:私の夫は、今は夏休み期間中なので、日中の娘の世話、夕飯作り、子供の寝かし付けなど、大部分をやってくれています。またアメリカ人というのもあり、各種様々な外部対応をしてくれるのも大変助かっています。秋以降はMITのデイケア(保育園)に預けられることになりました。

川端:すごい。

松下:福島さんはご主人がいらっしゃる前は、お子さんとお2人でロンドンだったのですか。

福島:私の場合は母がビジタービザで来てくれていますが、さすがに母に子供の世話を24時間させるわけにはいかないので、最初の2カ月はナニー(家庭訪問型の保育サービス)を雇い、その後デイケアに入れることになりました。

夫はこちらに来たら大学院生となり、かなり忙しくなるはずなので、日中はデイケアに預けて私が残業の場合はナニーを頼んだり、在宅ワークに切り替えたりしてどうにかしよう、という話をしています。

松下:お母さまはずっと一緒にロンドンにいらっしゃるのですね。

福島:そうです。ビジタービザで滞在の最長となる半年間はいてもらう予定です。

松下:お母さまもエネルギッシュですね。

福島:とても元気です。英語は全く話せないのですが、きちんとデイケアの送り迎えをして、保育士とも会話しているみたいです。

川端:(英語は話せないのに、)会話しているのですか(笑)。

福島:会話になっているか分からないですが(笑)。

松下:お2人ともご家族でサポートし合う学習環境や仕事環境ができているということですね。私も本学の研究所にいて任期付の准教授だった頃は、研究のプレッシャーが大変強く、家事をする精神的な余裕はほとんどありませんでしたが、同じ准教授でも任期がなくなったり、教授に上がって自分で時間をつくれるようになってからは、ほぼ毎日家族のお皿を洗ってからの出勤です。ただし、お2人の世代の男性であれば、それ位はごくごく当たり前で、自分で家族ために料理をする方もいらっしゃいますよね。その辺の家事分担の感覚はジェネレーションギャップがすごくある気がします。

川端:すごくあると思います(笑)。

恵まれた留学機会を活用して、グローバルな活躍を

川端:海外に出ることに積極的な東工大生の数が伸び悩んでいるという話があります。そんな後輩にアドバイスはありますか。

福島:大学が費用を出してくれる海外留学は私の時にもありましたが、応募者が多いから無理なんじゃないかと思い、積極的には応募しませんでした。

松下:今は本学には沢山の留学制度があるにもかかわらず、応募者が少ない分野もあります。

福島:メールで情報を流しているんですか。それとも学生掲示板に貼っているだけでしょうか。

松下:留学フェアをはじめとする各種イベントを行い、充実したパンフレットを新入生に配布もしています。留学関係のHPもかなり機能しているのですが、まだまだ応募者を増やしたい状況です。

小木曽:コロナ禍も関係あるのでしょうか。

松下:コロナ禍の前からです。日本人では短期派遣は男性の方が多いのですが、中長期の留学になると完全に女性の方が多く、男性は少ないです。海外派遣には英語スコアが要件となりますが、女性の方が比較的高い点数をもっていることも応募者割合が多くなる理由かもしれません。留学生は男女問わず希望者が多いです。ただ、それではアジア各国からの留学生が東工大の学生として欧米に留学するということになり、もともとの趣旨と少し違うかなと。

川端:とても内向きというか、あまり外に出たがらない雰囲気があるみたいです。

福島:もっと情報をアップデートしたらいいのではないでしょうか。例えば、今のところ応募者は何人で、まだまだ募集可能です、といったように。

松下:日本人学生は応募者数が少ないのは知っています。それでも自らが応募する人は少ないです。

福島:本当に希望者がいないのですね。

松下:これは東工大だけではなく日本全体の問題になっています。

福島:信じられないですね、本当に。

小木曽:参加者の方が、プログラムを通して得た海外での楽しかった経験を共有される機会はありますか。

松下:発表会やレポート報告はしてもらっていて、先輩から聞いた情報をもとに来る学生はいるにはいるのですが、爆発的には増えない。

福島:もったいない。

松下:私の研究室は割と留学希望者がいたほうだと思いますが、やはり女性の方が多いかな。男性で留学する人は少ないですね。

福島:難しいですね、私の夫も留学するタイプなので、そうではない男性の気持ちはよく分からないですね。東工大にそれだけ恵まれた留学の機会があるなら、後輩達には男女問わずどんどん留学を経験してもらって、グローバルな活躍をしてもらいたいですね。

まとめに代えて

川端:楽しく話してまいりましたが、楽しすぎて予定時間を過ぎてしまいました。お2人とも東工大での学生生活を生き生きと過ごされ、その中で海外への親近感や興味のあることを追求する気持ちが芽生えたことが今のご活躍につながっているのですね。お2人がグローバルに活躍されている背景には、ご本人が積極的にチャレンジする姿勢がまずあり、それを正当に評価し登用していく組織、そして目標にしたい女性リーダーの存在があることがわかりました。これに加えて、ご家族でサポートし合える環境も心強いですね。

自由かつパワフルにご自身の道を切り開いている様子に大きな刺激を受けました。お二人とも時差のある中、本日はどうもありがとうございました。

全員:ありがとうございました!

統合報告書

統合報告書 未来への「飛躍」 ―東工大から科学大へ―
学長や理事・副学長、研究者による対談・鼎談や、教育・研究、社会に対する取り組み、経営戦略などをご紹介します。

統合報告書|情報公開|東工大について

東工大ダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティ&インクルージョン
一人ひとりの創造性を生かすことで、さまざまな背景をもつ人々が活躍する社会の実現を目指します。

東工大ダイバーシティ&インクルージョン

2022年7月取材

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp