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東京工業大学大学院学術国際情報センター学術国際交流部門教授専門は化学工学。
出前授業も三回目、今回担当する学術国際情報センターの新山浩雄先生は、実は訪問先である大田区立洗足池小学校の第一期卒業生。始業のあいさつをしながら、当時の校舎の写真を見せると、「今と全然ちがう」と子どもたちはびっくり。なごやかな雰囲気のなか、大先輩である先生は、黒板に子どもたちが初めて目にする言葉を書きました。「ぼくの専門は、『化学工学』といって、化学反応でものをつくりだすための研究です。今日は、みんなの身の回りにある化学工学を紹介する授業をしたいと思います」
身の回りにある「化学工学」ってなんだろう?黒板に書かれた字を、興味深そうに見る子どもたちに、先生はある質問をしました。 |
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「この小学校に通っていたとき、みんなと同じように給食を食べていたんだけど、ぼくは最初、卵が食べられなくてね。卵を使った料理には何があるかな?」。子どもたちは不思議そうな顔をしながらも、さまざまな答えを返します。「オムレツ」「目玉焼き」「ゆで卵!」「プリン?」。「そう、みんなが今あげてくれたものは全部、生卵とちがって、固まっているね。固まるのはどうしてか分かるかな?実は、卵を作っている『たんぱく質』の持つ性質のためなんです」
先生は、コイル状に加工した針金を取り出しました。「たんぱく質というのは、こんなふうに長い鎖のような形をしています。ところが、温度が上がるとこれが伸びてしまう」。先生は針金をぐーんと伸ばします。「こんなふうにほどけてきて、こんがらがってしまいます」。先生はほどけた針金を丸めて見せます。「ここに水が入りこんで動けなくなってしまう。これが『固まる』という現象なんですよ」 |

| きれいな鎖状のたんぱく質は、加熱するとほどけてからまりあってしまう。その構造を、コイル状の針金を使って表現しました。 |
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「さて、卵には白身と黄身があるけど、どっちが早く固まると思いますか?」「白身!」「目玉焼きを作ると、黄身のほうが早く固まる気がする」
先生は、みんながよく食べる「ゆで卵」を例にして説明します。「ゆで卵を作ろうとすると白身が先に固まります。でも、それは白身のほうが外にあるためかもしれないですね。正確に比較するためには、同じ条件を与えることが必要なんです」
では、白身と黄身を分けて同じ量だけ試験管に入れ、お湯につけて温めたらどうなるでしょう。2本の試験管をお湯を入れたやかんにつけて、実験の始まりです。結果は…「黄身だ!」
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「黄身のほうが固まりやすかった」。この結果をヒントにして、卵を割らずに内側の黄身を先に固まらせた「温泉卵」を作るためにはどんな温め方をすればいいかを考えてみます。
先生のパソコンでシミュレーションしてみると、加熱方法の設定は「水から沸騰させる」「70度の湯につけておく」「100度の湯につけておく」があります。パソコンの時計が動くにつれ、画面上で黄身と白身の固まり具合の変化が表示されていきます。
水からら沸騰させるやり方では、どうしても白身のほうが先に固まってしまいます。時間が短いと半熟卵、長く加熱するほど固ゆでの卵になります。
シミュレーションをくり返して、ついに解答が出ました。「100度のお湯につけておけば、22分20秒で温泉卵ができるんだ」「これが、黄身を先に固めるテクニックなんだね」と、子どもたち。
100度のお湯につけた卵は、はじめのうちはやはり外側にある白身のほうが先に固まってきます。その熱がじょじょに中心に伝わって、黄身は固まっていく。一方でお湯はだんだん冷めていくので、白身の固まるスピードは落ちる。温泉卵はこのようにできていくのです。
また、70度のお湯につけておく方法でも温泉卵ができることもわかりました。ただし、100度のお湯につけた場合よりかなり長く時間がかかってしまいます。温泉卵を作るには「100度のお湯につけておく」のがベストの方法のようです。 |
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ここで応用編。今まではにわとりの卵で実験してきたけれど、小さなうずらの卵で温泉卵は作れるでしょうか?また、直径15cmほどもあるだちょうの卵ではどうなるでしょうか?さらに、コンピューターでのシミュレーションに挑戦します。
「うずらの卵なら、70度のお湯でも15分で温泉卵ができた!」卵が小さい分、中心に早く熱が伝わるのです。
ところが、だちょうの卵は100度のお湯でも、70度のお湯でもうまくいきません。
パソコン画面をじっとにらんでいても固まってくる気配はなし。「全然、温泉卵にならないよ」。
だちょうの卵は大きすぎるので、加熱しない状態では、外側の白身にも内側の黄身にも、固まるほどの熱が行き渡らないうちにお湯が冷めてしまうようです。 |
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さて、話はにわとりの卵にもどります。
「白身より内側にある黄身を先に固めるのは一見無理なことのようだけど、黄身のほうが固まりやすいという性質をヒントにすれば、できそうな気がしてきましたね?この『できるかも?』という思いが大切なんです」。熱の与え方、時間のおき方など、ほかの条件を工夫することで、不可能と思われることも可能にできる。こういう視点を持ってものを考える姿勢があれば、発明家も夢ではありません。
「みんなのおうちの人は、きっと経験上、温泉卵や半熟卵の作り方を知っているでしょう。
でも、もしお店で温泉卵を売るとしたら?必ず毎回同じ状態の温泉卵を作らなくてはなりません」。ここで役に立つのが、化学なのですね。
「ものの性質、なぜそうなるかを実験によって調べる「化学」。その結果を、ものを作るときに生かす。これが『化学工学』というものなんですよ」 |
| 身近な化学に触れ、不思議を見つける目が開く。子どもたちの心の中で、そんな“化学変化”が起こった一日でした。 |
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